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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
158/322

第158話「蛇の参-11」

「結局残ったのは私とアンタだけ……か」

「数と地の利が敵にあるのに、殿なんて言う戦いにくい場所で戦うんだ。よほどの考えが無ければ、参加するはずがないだろう」

「よほどの考えねぇ」

 依頼の詳細を聞いて、最終的に隊長の依頼を受けたのは、私とシチータの二人だけだった。

 まあ、当然と言えば当然の話だろう。

 月が真上に登るまでの間に、撤退する先遣隊が敵と戦闘することが無ければ依頼は成功とは言え、敵の方が数も多ければ、地理も把握しているのだから。

 おまけにトラウシ視点では個人個人の技量で比べても、恐らくは敵の方が上と言う状態なのだから。

 そりゃあ、多額の報酬を提示されたとしても、マトモな神経と普通の戦闘能力しか持っていないなら受けたくはないだろう。


「その背中のものからしてアンタの考えは……」

「ああ、遠くから矢を撃ち込み続けるつもりだ」

 そう、マトモな神経と普通の戦闘能力だ。

 私は金銭とは別の目的でもって今回の依頼を受けたが、どうやらシチータは今回の依頼を本気で達成するつもりであるらしい。

 しかも大量の矢を遠くから射かけると言う手段でもって。


「射線すらマトモに通らない森の中で?」

「ん?射線なら別に通っているだろう?」

「ああうん、そうね。アンタなら矢一本分の射線さえ有れば射れるんでしょうね」

「いや、矢二本分は欲しいな」

「素人から見れば一本も二本も変わらないわよ」

 ああうん、なんか頭が痛くなってきた。

 矢二本分の射線が目標までの間に有れば当てられるだなんて、とんでもないホラ吹きがベロンベロンに酔っていたって言わないわよ。

 でもシチータの事だから……当てるんだろうなぁ……当てちゃうんだろうなぁ……やっぱりシチータはヒト扱いはしなくていいわね。


「まあ、最近は弓で狩りをしていなかったが……うん、それでも当てるだけなら、姿が見えていまいが、音で位置さえ分かっていれば曲射で幾らでも当てられるだろうな」

「……」

 前言撤回。

 コイツはヒト扱いどころか、他の何とも一緒にしなくていいわ。

 実力が桁違いすぎる。


「とりあえず一つだけ注文を付けておくわ」

「なんだ?」

「出来るだけ下位の兵士じゃなくて、指揮官や機先を制そうとした連中を優先して討って」

「その方がお前が楽になるからか?」

「ええ、そう言う事よ。私はあんたと違ってマトモにやり合うつもりもなければ、連中を足止めする気も無いから」

「何?」

 私の依頼を達成する気が無いとしか採れない言葉に、シチータが怪訝そうな表情をする。

 今すぐにでも殴りかかってきそうな気配もあるが……流石に私たち以外は撤退準備を慌てて進め、順次この場からヒトが退いているこの状況で殴り掛かるのは自重したらしい。


「お前、何をする気だ?」

「連中の拠点にもぐりこんで、色々と」

「火でも付けるのか?」

「それも一つの手ではあるわね。ま、手段さえ選ばなければ、幾らでもやりようは有るって事なのよ。でまあ、私の行動の結果として追撃が止めばちょっと美味しいってところかしらね」

「出来るのか?」

「出来るわね。私一人で行動するのであるならば」

 シチータの言葉に対して、私は自分がやろうとしている事の詳細を教えたりはしない。

 ヒトの振りをしている現状では口にする事も許されない方法だからだ。


「ああそうだわ。ついでだからこれを渡しておくわ」

「ん?」

 まあ何にしてもだ。

 シチータは生き残るだろう。

 と言うか、普通の方法でコイツを殺せるヒトが居るとは思えない。

 なのでシチータにも私の策の一端を担ってもらうとしよう。


「おっ、おい。何で髪の毛なんかを……まさか!?」

「アンタは報酬を受け取りに戻るつもりなんでしょ。その時ついでに渡して、傭兵ソフィアは死んだと喧伝しておいてちょうだいな」

「死ぬ気……いや、死んだふりをする気か!?」

「ええそうよ。どうにも最近目立ち過ぎている感じがするし、穏便に引退するためにもここら辺で死んだことにしておきたいのよ」

「……」

 今回の依頼。

 先にも述べたように私の目的は依頼を達成して報酬を得る事ではない。

 私の目的は世間的に傭兵ソフィアは死んだことにする事だ。

 なにせ私の名前と容姿についてはだいぶ広まってしまっている。

 もう数年も経てば、何時まで経っても歳を取らない事を普通のヒトたちから怪しまれるようになるほどに。

 だから何処かで一度死んだことにしておきたいのだ。

 そしてまた傭兵として活動しやすくなるまで、ほとぼりが冷めるのを待つのである。

 と言っても、そこら辺の妖魔特有の事情は話せないので、シチータには傭兵業がツラくなったとでも言っておくわけだが。


「さて、そろそろ行動を開始しないと。アンタの腕がどれほどのものかは知らないけれど、ギリギリで生き残れるぐらいの手傷を負う事を祈っているわ」

「ああん?言ってくれるな。いいぜ、そう言う事ならこの髪の毛はきっちり届けて、はっきりとソフィアは死んだって言ってやるよ。ついでに、本当にくたばってろ」

 さて、そろそろ時間である。

 私の策は実行できるようになるまでに時間がかかるし、幾らシチータが化け物じみていても移動には時間がかかる。

 と言うわけで、私たちはお互いに挑発的な動作を相手に見せつけ、軽い不幸を願う言葉を吐きながら、別々に森の中へと入っていった。

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