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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
157/322

第157話「蛇の参-10」

「はぁはぁ……ようやく帰って来れたわね」

「そうみたいだな」

 結局、私たちは敵に見つからずに逃げる事は出来なかった。

 が、私たちが見つかった相手が少人数だったため、私もシチータも人外の膂力を全開にして攻撃することによって叫び声一つ上げさせずに殺す事が出来た。

 連中が使っていた武器と言う、各種方面に有効な証拠を入手できたことも併せて考えると、見つかったのは得だったのかもしれない。

 ただの結果論だが。


「で、何でアンタは息一つ乱してないのよ……」

「昔から野山を走り回っていたからな。これぐらいは出来て当然だ」

 で、日暮れ直前に私たちは先遣隊の野営地に辿り着く事が出来たわけだが……追っ手を撒くべく、妖魔である私が息切れを起こすほどの速さで相当な距離を移動してきたはずなのに、シチータは多少の汗は掻いていても、息は一切乱していない。

 うん、もう何度も心の中で言っている事だけど、シチータはヒトとして扱うべきじゃない、括るべきじゃない、ヒト以外の何かとして扱うべきだ。


「何か、今になって私の事をああいう目で見ていたヒトたちの感情が理解出来たわ」

「はあ?訳が分からない事を言っている暇が有ったら行くぞ」

 と言うかだ。

 私はヒトに近い姿をしているせいなのか、確かに普通の妖魔よりも身体能力が低い。

 が、それでも魔法を用いない限り、どんなヒトよりも身体能力は高いはずである。

 そんな私よりも遥かに体力が多いとか……本当にコイツの身体は一体どうなっているんだか。


「まずは報告を……」

「おおっ!無事だったかソフィア!シチータ!」

「トラウシ……貴方たちも無事だったのね」

「全員がってわけじゃないけどな」

 報告に行こうとした私たちの前にトラウシたちが現れる。

 どうやら彼らも敵と遭遇したらしく、身体や装備の各所に傷や返り血が見られる他、別の小隊の傭兵だが、二人ほど少なくなっている。


「お前らも報告か?」

「ええ、そのつもり」

「なら、俺たちに付いて来い。丁度ハチハドとミグラムが先遣隊の隊長と会う約束を取りつけてくれた所だからな」

「分かったわ」

「分かった」

 そうして私とシチータはトラウシに連れられて、私たち先遣隊の隊長に会う事になった。



-----------------



「なるほど。連中の正体は盗賊ではなく、マダレム・シィゾクの兵士だったか」

「それで間違いないかと。物的証拠も複数伴っています」

 先遣隊の隊長はそう言うと、一度天を仰ぎ、両目を軽く手で抑える。

 どうやら日暮れ間近と言う事で、生き残った傭兵たちが続々と報告を行ったために疲れも溜まっているらしい。


「マダレム・シィゾクと言うと……」

「我らマダレム・シトモォの北に位置する都市国家であります!奴らは……」

 マダレム・シィゾク。

 私の記憶が確かなら、ミグラムの叫んでいる通りマダレム・シトモォの北に位置する都市国家であり、シトモォと同じく貿易を主体に行っている都市国家だったはず。

 ただ地理の関係でスネッヘやヘニトグロ地方の他の港からやってくる船はマダレム・シトモォに行ってしまうため、常々シトモォを狙っているという話もあったはずである。

 だけどまあ、ミグラムの言うような無差別の海賊行為には勤しんでいないはずである。

 もし本当にそうなら、とっくの昔にマダレム・シィゾクはシトモォと周辺の都市国家によって滅ぼされているはずだ。

 精々が大小問わずにマダレム・シトモォの船を襲っているぐらいだろう。


「そんな事が……くっ、マダレム・シィゾクめ。許せ……もがぁ!?」

「あいだぁ!?」

「はあっ、信じる馬鹿が居たか。信じるならきちんと自分の頭で本当かどうかを考えてから信じなさいよ」

「もがぁ!?」

「な、何をするでありますか!?うっ!?」

「情報を語るなら客観的に語るべきよ。そうでないと、主観的な部分がばれた時に不信感を与えるわよ」

 ただまあ、世の中には有り得ない事でも信じるヒトは少なからず居るので、信じてしまった筋肉馬鹿(シチータ)は普通のヒトなら皮膚が千切れるぐらいの力で頬をつねって目を覚まさせておき、わざとかどうかはともかくよろしくない情報の伝え方をした単純阿呆(ミグラム)にはデコピンを頭に当てながら睨み付けておく。


「……。それでトラウシ君だったか」

「……。はいそうです」

「君の目から見て、連中の実力はどれだけのものだった?」

「低く見積もっても正規の訓練を受けた兵士と言う所ですかね。間違っても新兵や破落戸の類の腕では無かったし、傭兵と見るにはあまりにも全員の連携が取れていました」

「高く見積もれば?」

「全員が専門の訓練を受け、高い意識を伴って任務に就いている精鋭ですね」

「精鋭……か」

 何処か呆れた視線をこちらに向けつつ、先遣隊の隊長とトラウシが連中の錬度についての話をする。


「ふむ。連中がマダレム・シィゾクの人間であることは、君らが持ち帰った武器と拠点内で兵士風の男と盗賊風の男が話していたのと、連中の拠点から伸びる補給路が北の方へ向けて伸びている事からも明白。拠点の位置、構造、兵士の錬度についても大まかには把握済み……か。となると先遣隊としては……」

 そしてトラウシとの話が終わったところで、隊長は何事かを呟き始める。


「ふむ。決めたぞ」

 そうして一人で数分の間呟き続けた後に隊長は椅子から立ち上がるとこう言い放った。


「盗賊団討伐の先遣隊は現時刻を持って撤退を開始。盗賊団改めマダレム・シィゾクの兵士たちが攻めて来る前に本隊と合流する事を試みる。そしてミグラムとミグラムが所属する傭兵の小隊よ。君たちに一つ新たな任務を提案したい」

「ボソッ……(凄く嫌な予感がしてきたな)」

「ボソッ……(それには同感ね)」

「連中を出来る限り足止めしてもらいたい」

 隊長の言葉を聞いた時、私もシチータもこう思っただろう。

 「やっぱりか」と。

 そう思える程に面倒な依頼だった。

07/12誤字訂正

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