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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
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第156話「蛇の参-9」

「まったく。何をどう考えたら私と貴方を組ませようだなんて思うんだか」

「その意見にだけは賛成してやる。誰がどう考えても俺とお前の仲は最悪にしか見えていなかったはずだ」

 私は悪態を吐きつつも、忠実なる蛇の魔法によって出来た土の蛇を拠点の方へと移動させていく。

 ただし、万が一にも監視の目に触れないよう、地上に出ているのは一対の水晶玉の中でも極々一部に留め、傍目には何かが動いているとすら思わせないようにだ。


「まあいいわ。流石にこの状況で騒ぎ立てるような脳筋ではないだろうし、周囲の見張りは任せるわ」

「そうだな。敵に見つかった時は一声はかけてから逃げてやる。お前が俺の声に気づかないような間抜けじゃなければ、それで大丈夫なはずだ」

 そして、土の蛇が拠点の周囲を囲っている柵の下に辿り着くまでの間に、私とシチータの二人は元居た場所から多少離れた地点、ヒトが立ち入った形跡がないと同時に、周囲に有用な草木がないために今後もヒトが来る可能性が低い場所を探し出すと、そこに身を潜める。


「さて、始めますか」

「適当な事は書くなよ」

「強要されても書かないから安心しなさい」

「そうかい」

 私は木の柵に沿って土の蛇を移動させ、地中から土の蛇を敵の拠点の中に忍び込ませる。

 そして手元に羊皮紙を広げると、右手にペンを持ち、土の蛇が見ている光景に基づいて拠点の中の様子について書き記し始める。


「ああそう言えばシチータ」

「何だ?」

「アンタの親、片方はもしかして妖魔なんじゃないの?」

「……。どうしてそんな事を聞く」

 土の蛇が今居る辺りにあるのは……ちっ、平の兵士たちが寝泊まりするところか。

 ただ、盗賊の姿をしたヒトと兵士の姿をしたヒトが談笑している様子は確認できたし、彼らの容姿と会話の内容については詳しく書き記しておくとしよう。


「単純に貴方の身体能力が人並み外れているから。で、どうなの?気晴らしを兼ねての質問だけど、割と気にはなっているのよね」

「お前が俺の質問に答えると言うのなら、答えてやる」

「質問の内容次第だけど、聞かれたら答えるわよ」

「そうか。なら俺も答えよう」

 で、こちらの会話についてだが……シチータの正体について確かめておきたいのは私の本音である。

 と言うわけで、折角二人きりなのだし、お互い他の面々に聞かれたくない話があるなら、今の内にしてしまおうと画策したのである。

 まあ、ぶっつけ本番で今までにないほど遠くに居る土の蛇を複雑な動作と五感の同調を伴う形で操り続けると言う作業の気晴らしにしているのも事実ではあるが。


「正直に言うが……俺は自分の生みの親を知らない」

「……。捨て子だった。と言う事かしら?」

「ああ、義父(おやじ)義母(おふくろ)の話じゃ、家の前に捨てられていたのを拾ったらしい。で、それから本当の子供と一緒に、同じように育ててもらったんだよ」

「ふうん。良いヒトに拾われたわけね。まあ、育ちが良いのは私以外に対する態度を見ていれば分かるけど」

 土の蛇が見ている二人のヒトの様子を書き終わったので、私は拠点の中を見つからないよう慎重に土の蛇を這わせていく。

 次に目指すのは……うーん、とりあえずは拠点の四方にある門かな。

 門の内側の構造が分かっていれば、何かと便利ではあるし。


「で、お前はどうなんだ?俺の拳を顎に喰らって血混じりの唾を吐くだけの奴なんぞ、俺はお前以外に見た覚えがない。少なくとも純粋な人とは思えないな」

「まあ、純粋なヒトでないのは認めるわ。私も私の拳をマトモに喰らって何事も無かったヒトには初めて会ったわけだし」

 門の裏側に無事到着。

 ふむ、木製である点を除けば、構造は特に普通の門と変わりないか。

 その気になれば、この土の蛇でも閂を外す事は不可能ではないだろう。

 で、門の上に付けられている見張り台については……上るには梯子が必要で、見張り台に上れるのは多くて三人ぐらいか。

 三人だけでも、高所から矢なり槍なりで攻撃されたらかなり厄介だが。


「それでどうしてそんな両親の元を出て、傭兵なんて職業に就いたのよ。こう言っちゃあなんだけど、傭兵なんてマトモな職業じゃないわよ」

「義父が死んでな。義母や義兄(あにき)たちは家に留まっていて構わないと言ってくれたんだが、どうにも義兄の妻と反りが合わなかったのさ。だから、余計な面倒事が起きる前に家を出たのさ」

 じゃ、次の場所に移動させますか。

 次は……あの周りの物よりも一回り大きい天幕が良いかな。

 恐らくは司令官かそれに準じる人物がいるはずだ。


「で、お前はいったい何処でこんな珍しい魔法を学んだんだ?」

「こんな珍しい?」

「珍しいだろう。俺は傭兵になってもう七年だが、お前の使う魔法は初めて見た。似た魔法も……見た事が無いわけじゃないが、お前のそれとは洗練され具合がまるで違う。いったい何処で学んだんだ?」

「その件についてはノーコメントよ。魔法使いが何処でどんな魔法を学んだのかなんて言えないわ。特に今は何処の流派にも属していない逸れ者なんかだとね」

「まっ、それもそうか」

 声は?聞こえない。

 天幕越しに中を見て、熱を発するものが居ない事からしても、どうやら留守であるらしい。

 ふむ。今は後回しにして、食料庫と炊事場の位置を探っておこうか。

 と、私が土の蛇の視線を別の方向に向けた時だった。


「っつ!?」

「どうした?」

 盗賊風の姿をした男たちが、複数の死体を運んでくる。

 死体の顔には見覚えがあった。

 彼らは……一番目立つ獣道を進んだ傭兵たちだった。

 だが問題はそこではない。

 私にとって問題だったのは、続けて発せられた盗賊風の姿をした男の言葉だった。


「『まだ拠点の周囲に連中の仲間が潜んでいるかもしれない。探すぞ』ですって!?」

「っつ!?」

 私の言葉にシチータも顔色を変える。


「シチータ!」

「分かってる!逃げるぞ!」

 私もシチータも一度顔を見合わせると、この場から即座に逃げる事を決め、拠点に向けて一目散に駆け出す。

 別行動を取っているトラウシたちに危険を知らせる暇もなかった。

 私たちに出来るのは、とにかくこの場から離れる事だった。

 忠実なる蛇の魔法によって作った土の蛇は……諦めるしかなかった。

 くっ、原石とは言え、あの水晶玉は結構高かったのに……覚えていなさいよ!

流石に此処は撤退しますよ


07/10誤字訂正

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