第155話「蛇の参-8」
「やっぱりこいつ等盗賊団じゃないわね」
「そうみたいだな。装備が整いすぎている」
「お前ら良く見えるな……」
二時間ほど経った頃。
私たちは森を切り開き、周囲を高い木の塀と空堀で囲う形で造られた盗賊団の拠点を見つけ出していた。
勿論、森の奥、木立の間から窺うようにしているので、こちらの存在は向こうには知られていない。
「で、装備が整いすぎているって言うのは具体的にどういう事だ?」
「んー、あくまでも見えている範囲に立っている盗賊に限った話であるけれど、身に着けている装備品が一つの工場で作られた規格品っぽい感じなのよね」
「規格品……でありますか?」
「ええ、武器や防具の形が基本的に全員同じなの。これが普通の盗賊だと結構個人個人で身に着けている物が違っているんだけどね」
私の見張り台の上に居る男たちの姿を説明する言葉にミグラムは納得した様子で頷き、トラウシたちは何処か呆れた視線を私とシチータに向けている。
トラウシたちが呆れているのは……まあ、今私たちが居る場所からだと、拠点の各所に築かれた見張り台の上に居るヒトの姿はともかく、その顔や装備の細かいところなど本来ならば見えやしないからだろう。
「私については育ちの影響よ」
「俺は元から目が良いからな。これぐらいは見えて当然だ」
「とりあえず、二人ともあっしたちとスペックを比べるべきでないってのは分かったでやんすよ」
一応、後で問い詰められても面倒なので、最低限の言い訳はしておく。
しかしシチータの目の良さは元から……ね。
うーん、これはやっぱりそう言う事かしら。
うんまあ、問い質す機会はいずれ来るだろう。
「で、これからどうするの?あの拠点の大きさなら、二百人はヒトを入れておける。間違ってもここにいる面子だけで相手に出来るような戦力じゃないわよ」
「そりゃあそうだろう……と言うか、ここで突貫する馬鹿はいないだろう」
「あの拠点の出来と此処までに有った罠を考えると、仮に十分な人数が居ても厳しそうだしな」
「まあ、そうよね」
というわけで、まず話し合うべきはこれからどうするかである。
であるが、攻撃するのは絶対に無しである。
そもそもこの場には私たちの小隊ともう一つの小隊とを合わせて、13人しかヒトが居ないのだから。
仮に私が妖魔としての能力、魔法使いとしての能力を万全の策と共に使ったとしても、目の前の拠点を落とすのは不可能……ではないか。
まあとにかく、正攻法の範疇ではどう足掻いても無理だろう。
「そうだな……ハチハド。お前はミグラムともう一人の衛視、それと適当な誰かを連れて、俺たちの野営地に戻ってくれるか?」
「ここの場所を伝えるんでやんすね」
「ああ、この後この場に残った俺たちが何かをし、俺たちの身に何かが起きても、連中の拠点の位置が分かっていれば、やれることは色々とあるからな」
「了解でやんす、じゃっ、早速行くでやんすよー」
「わ、分かったであります!」
話を戻して何をするかだが、まずはトラウシの指示の元、ハチハドたちが私たちの野営地に戻ってここの場所について報告するらしい。
まあこれは定石と言うか、先遣隊として何に換えても果たすべき事柄なのだし、当然の一手だろう。
と言うわけで、ハチハドが他の三人を連れてこの場から去って行く。
どうにもハチハドは森の中でも正確な方角を探れるらしいし、彼らについては心配しなくていいだろう。
「で、残った俺たちが何をするかだが……」
「中にヒトが潜入するのは諦めた方がいいと思うわ。たぶん、門兵は全員の顔を把握しているだろうし、あの大きさの拠点だと誰も見覚えがないヒトの存在は有り得ないだろうから」
「それよりも探るべきなのは森の外から物資を搬入している路だな。本当に二百人も人間が居るなら、そいつらが消費する食料は莫大な量になる。中に畑を造ったり、周囲の森から集めたりで幾らかは補えても、外からの補給は必要だ」
「連中の持っている武器や防具にしても、あの拠点の中で造れるものばかりではないし、シチータの言うとおり、何処かに道があるのは確実だな」
「となるとやはり、補給路が何処にあるのか、それが何処に繋がっているのかだけ調べて撤退するのが正解そうだな」
で、残った私たちがする事は……まあ、拠点の周囲を連中に気づかれないように注意しつつ、探ってみると言うのが妥当な所だろう。
シチータとタッジュウのの二人が言うとおり、あの拠点の大きさと詰めているヒトの数からして補給路は絶対に必要なのだから。
なので、それを探すという方針は間違っていない。
しかしだ。
「言っておくけど、私はヒトが拠点の中を調べるのが無理と言っただけで、調べる方法が無いとは言ってないわよ?」
「何?」
それだけでは芸が無いというものだ。
と言うわけで、私以外の面々が訝しげな表情をしている中、私は懐から魔石と一対の水晶玉を取り出すと、それを手近な地面に埋めて忠実なる蛇の魔法を発動する。
「コイツは……」
「私の魔法よ。視覚を共有……あー、この子が見ているものが私にも見えるようになっているの。だからこれを拠点の中に這わせていけば……」
「なるほど。連中の拠点の中を探れるという事か」
「そう言う事」
シチータ以外の面々は、土の中から鎌首をもたげて現れた蛇の姿に一瞬驚くも、私の説明からこの魔法の有用性を理解し、すぐさま目の色を変える。
「ただこの魔法を使っている間、私はあまり派手に身動きが出来ないし、タッジュウの言った補給路についても一緒に調べるべきだと私は思うわ」
「となると……誰か一人護衛を残して他の面子で補給路を探すのが良さそうか?」
「だろうな。よしシチータ。お前はソフィアの事を頼む。こっちは数の利でどうにでも出来るからな」
「はっ?」
「……」
そうして私の提案に端を発する形で別行動を取ることが決定し、トラウシたちは早速行動を開始した。
で、それに伴い、期せずして私とシチータは二人きりになったわけだが……正直に言いたい。
「背後を任せるのが凄く不安だわ」
「それはこっちの台詞だ」
あれだけ仲悪そうにしていたのに、何故シチータと私を組ませたし。