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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇

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第154話「蛇の参-7」

「もぐもぐ、やっぱり今回の敵は、ただの盗賊団じゃないわね」

 朝食の時間中に眠り、移動しながら食事をするという方法でもって何とか眠気を払った上で腹を満たしている私は、小隊の仲間であるトラウシたちと今朝になって一緒の道を探索する事に決めた別の小隊と共に、盗賊たちによって出来るだけ目立たないように造られた獣道の脇を進んでいた。


「そうだな。普通の盗賊団はこんな物を仕掛けないだろう」

 で、私たちの前には現在、私のハルバードによって暴かれた落とし穴が見えている。

 ただ、落とし穴と言っても深さはヒトの(くるぶし)が周囲の地面の下にまで隠れる程度であり、木の枝と土で隠されてはいたものの、この深さでは思いっきり踏み抜いてもこける程度で済むだろう。

 落とし穴の中に両端を尖らせた杭なんてものが設置されていなければだが。


「浅い落とし穴の底に表面をわざと汚した木の杭か……」

「明らかに足止めのためじゃなくて、殺すための罠だな」

「まあ、これに引っかかったら、ただでは済まないでやんすね」

「そ、そんなに危険な罠なのでありますか!?」

 その杭を見たヒトは、私たちに同行している小隊の面々含めてほぼ全員が顔を顰めた。

 どうやらその危険性が理解できなかったのは、ミグラムともう一人の衛視だけであるらしい。

 これは……食後の腹ごなし……は、私だけだが、休憩も兼ねて色々と説明しておいた方がいいかもしれない。

 この杭の危険性も、これがこの場に仕掛けられている事から分かる情報も。


「そうね……この罠にかかった場合に何が起こるかだけど……」

 と言うわけで、私は淡々とこの罠について説明する事にする。


「まず足を怪我するから、良くても移動能力が大幅に落ちるし、下手をすればこの場から動けなくなるわね」

「加えて、足を貫通するような大怪我をしたら、大概の人間は叫び声を上げる。近くに盗賊が居れば、直ぐに位置がばれるだろうな」

「なるほど」

 何故かシチータも説明に参加してきているが……無視しよう。

 流石にこの場で言い争うような真似をするのは、自殺行為以外の何物でもない。


「で、踏み抜き方によっては大量に出血する場合もあるから、失血死する可能性もあるし、大量の血を流せば獣や妖魔が寄ってくるわね」

「そして、それらから運よく逃れられ、治療を受けられたとしても……傷の膿み方次第では足を切り落とすしか無くなるだろうな」

「あ、足を切り落とすんでありますか!?」

「まあそうなるでしょうね。トラウシの言うとおり、この杭はワザと土や尿で汚してあるようだし、こんなもので傷を造ったらまず間違いなく傷口から毒が入って……良くて足の切断。最悪かなり苦しんだ上で死ぬことになるわね」

「……」

 私とシチータの言葉に二人の衛視は顔を青ざめさせ、口をパクパクと開閉している。

 どうやら二人ともこんな単純な代物がそこまで恐ろしい罠であるとは思っていなかったらしい。


「しかし、連中も利用しているはずの獣道にこんな物があるという事は……」

「最低でも小隊の隊長はこの罠の位置を正確に把握している。つまり連中は森に慣れているてことだな」

「もしくは二度とこの道を使う予定が無いという事でやんすね。それはそれで森に慣れている証拠でやんすけど」

「まあ、そのどちらかでしょうね。後、連中の食料を始めとした物資については、たぶん森の何処かに別の道があるんでしょうね。これだと不便極まりないもの」

 続けてこんな罠が獣道と言う複数の生物が行き来した場所に存在しているという事は、タッジュウとハチハドの言うとおり、敵は相当森の中の行動に慣れている。

 森の中で活動するための訓練を相当積んでいると言い換えてもいいだろう。


「おまけにだ。わざとらしく残されていた獣道ならまだしも、出来るだけ目立たないように造られた獣道にまでこんな罠を仕掛けているという事は、連中は自分たちの偽装工作の実力をしっかりと把握しており、獣道を辿って自分たちの拠点にやってくる敵を想定していたという事になる。となれば……」

 そうしてシチータが敵の実力について言及しようとし始めた時だった。


「(ギャアアアァァァ!?)」

 私の耳に微かなヒトの断末魔が聞こえてくる。

 見れば、私がその声を聞くと同時に、シチータも顔を僅かに顰めていた。

 他の面々は……今の声には気づかなかったらしい。

 ああうん、三日ぐらいは寝なくても万全の状態で動けると言い切った辺りから、内心で私は扱いを決めていたが、今の声が聞こえていた時点で私はシチータをヒトとして扱うのは止めにする事にした。

 妖魔が全力で殴っても問題ないような頑丈さも持ち合わせているわけだし、ヒト扱いしなくても大した問題にはならないだろう。


「となればだ」

「「「?」」」

「この先、連中が直接兵を立たせて警戒させている可能性は高い。全員、警戒を怠らず、出来るだけ物音を立てずに行動することを心掛けた方がいいと思う」

「ついでに言えば、妖魔並の戦闘能力を有する相手や、魔法使いの類が居る可能性も考慮して立ち回るべきね。これだけの規模、警戒心、統率力に、今までの行動の内容からして、何処かの都市国家の支援を受けている……いえ、場合によっては何処かの都市国家に所属するヒトである可能性も十分にあり得るだろうしね」

 まあ、いずれにしてもシチータが言うとおり、ここから先は警戒を怠るべきではないだろう。

 それこそ何処かの都市の精鋭部隊が突然襲い掛かって来ても状況的にはおかしくなくなって来ているのだから。


「だな」

「まあ、そうなるな」

「でやんすね」

「ああ、また胃が痛くなってきたであります……」

「頑張りなさい」

「耐えろ」

 そうして私たちは一度頷き合って互いの状態を確かめ合うと、再び獣道の脇を注意深く移動し始めた。

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