第153話「蛇の参-6」
「さて、これからどうするよ」
二日後。
予定通り隊商が盗賊団に襲われた地点にやってきた私たちは、その場について簡単な探索を行ったところでいったんその場を離れ、野営地を設営した。
で、現在は獣や例の盗賊団、妖魔に備えて、三交代で野営地周辺の警戒をしている所である。
……。まあ、私が居る時点で獣と妖魔が近寄って来る事はほぼないだろうけど。
「これからと言うと……明日の行動についてか」
「先遣隊の役割は野営地の設営と維持、敵の捜索と具体的な戦力の調査であります!」
「それは分かっているでやんすよ。此処で言っているのはそれらの仕事の中から、何をやるかでやんす」
まあ、それは私の事情。
同じ小隊の他の面々は、眠気覚ましも兼ねて、明日についての話し合いをしている。
「ソフィア。シチータ。お前らはどうしたい?」
と、ここでトラウシが先程から黙りつづけている私とシチータに意見を求めてくる。
どうしたい……か。
「野営地の設営と維持には傭兵よりも衛視の方が向いているだろうし、私としては敵を探す方に尽力したいわね」
「俺たちの目的は盗賊団の討伐。折角向こうが想定出来ているか怪しい速さで此処まで来たんだ。それを生かさない手はない」
「つまり二人共盗賊団を探す方が望みなわけだな」
「それならあっしたちの小隊が敵を探す目的で動くのはもう確定で良いでやんすね」
「そうだな。となると問題は森のどちら側を探すかだが……」
どうやら私も含めて、全員敵を探す方に参加したいらしい。
まあ、守るよりも攻めた方が評価されやすいし、敵が攻めてきたわけでも無いのに本隊が到着するまで拠点の維持以外何もしない先遣隊が在ったら、無能の烙印を押す他ないだろうしね。
で、タッジュウが言った森のどちら側……隊商が襲われた地点の東西に広がる森のどちらを探すかだが……こちらについては現状でも既に分かっている事が有る。
「それだけど、探すなら襲われた地点の西側を探した方がいいわね。昼間に見た感じだと、西側の森から飛び出した盗賊が多かったみたいだし」
「……。間違いないでやんすか?」
「ええ、草木の折れ方や踏まれ方から考えて……そうね。本当に襲撃の時に出てきた盗賊団が百人なら、六十人が西から、三十人が東から、それと北から十人ほどが出て来て、隊商を襲ったんじゃないかってぐらいだったわね」
「なるほど」
「それと、戦利品である馬車のわだちから考えても、連中の拠点が襲撃地点から西にあるのはほぼ確実ね。殆ど全ての痕跡が西へと消えて行っていたわ」
「ふむ……」
それは盗賊団がどちらから現れ、どちらへ消えて行ったのかと言う情報。
私の見立てが正しければ、盗賊団は襲撃地点から西の森の何処かに拠点を持っているはずである。
だがしかしだ。
私が想像した通りに襲撃が行われたのだとすれば、幾つか厄介な事態を想定しないといけない。
「しかし北からか……となると連中の跡を追う時は、連中の通った跡から少し離れた場所を進むことも考えた方がいいな」
「話が繋がっていないわよ。脳筋」
「繋がっているだろうが。変態」
「全員が全員アンタと同じ情報を持っていて、同じように考えるわけじゃないのよ。もう少し筋道立てて分かりやすく説明しなさい。空っぽ頭」
「ああん?じゃあ言ってやるよ。北からも襲ったって事は、連中は襲撃の時に隊商の一部をわざと逃がして、自分たちの存在をシトモォにアピールしたんだろ。ってことは、俺たちが来る事も想定の範囲内。となれば当然自分たちの拠点に通じる道にも罠なり監視なりを置いているのは当然の事で、道に沿って進むという事はそう言うのに全部引っかかるという事になる。だから少し離れた場所を歩く必要が有る。こういう事だろうが陰険野郎」
「ええ、ええ。良く出来ました。やれば話せるじゃない。偉いでちゅわねー。本能で生きてるから言葉足らずなシチータちゃん」
一つは、シチータが言ったように敵が私たちに対して万全の備えを整えた上で待ち構えているという事態。
もう一つは、私たち先遣隊と本隊が合流する前に盗賊団に襲撃されて、各個撃破を狙われると言う事態。
それと、私たちをこうして森に引き付けている間に、マダレム・シトモォの方に何かを仕掛けてくると言う手もあるが……まあ、こちらを気にするべきはシトモォのお偉いさんであって、小隊の一員でしかない私が気にする事ではないだろう。
それよりもだ。
「テメエ。俺に喧嘩売ってんのか?だったらこの場で買うぞ。この野郎」
「おほほほほ、喧嘩を売っているだなんて失礼ねぇ。良く出来たって褒めてあげているじゃないの。ホホホホホ」
「「「……」」」
「た、たったあれだけの情報でそこまで分かるのでありますか……」
今はシチータの事を徹底的に貶してやりたい。
明日の仕事に差し支えるから手は出さないが、放てる限りの口撃はしたい。
そんな気分だったので、呆れるトラウシたちと何故か感心してるミグラムを無視して、私は慇懃無礼な言葉をシチータへと向ける。
勿論、シチータも口で私に反撃してくるが……甘いな。
私の中に一体どれほどの語彙……特に罵詈雑言関係の語彙があると思っている?
マダレム・エーネミの腐りっぷりを舐めないでいただきたい。
「ぐぬぬぬぬ……」
「ふっ、勝ったわね」
その後、陽が昇る頃になって遂にシチータは私に返す言葉が無くなり、押し黙る以外の行動がとれなくなった。
ふっ、これでまずは一勝……。
「おーい、朝飯の時間だぞー」
「ちっ、覚えてろよ」
「……。しまった。普通に眠り損ねたわ……」
……。
私は何をやっているんだろうか……口論をし続けて眠り損ねるとか、阿呆としか言いようのない行動じゃない……。
本当に、本当に何をやっているのかしら……。
ああなんか凄く悲しくなってきた。
07/07誤字訂正