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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
151/322

第151話「蛇の参-4」

「あら?」

 夕方。

 忠実なる蛇の魔法の視覚共有実験を終えた私が宿に戻ってくると、宿の中が妙にざわついていた。


「お前らはどうするよ?」

「やらないって言う選択肢はないだろ」

「この件には対処しないと……」

 この宿は元々傭兵向けの宿であり、食堂部分では傭兵同士で情報を交換し合ったりもする。

 なので、誰かがもたらした情報が原因で、食堂の中の空気がこれほどにざわつき、張り詰め、殺気に似た何かが満ちているのは間違いないだろう。

 問題は今この場にはそれなりの人数で集まっている傭兵たち。

 彼らが揃いも揃ってざわつくほどの事態の内容が、私にはまるで予測がつかない事だった。

 うん、これは傭兵として拙い。

 何が有ったかだけでも知っておかなければいけない。


「そこの……」

「ん?」

 と言うわけで手近な場所に居た剣と盾を携えた黒髪橙目の男に声を掛けようとして……


「金髪のヒト」

「なんだい?」

 その男の雰囲気が何となく嫌な感じがしたため、その奥に座っていた金髪の男に声をかける。

 そして、金髪の男がこちらの方を向いたところで、私はウェイトレスに酒を頼みつつ目配せをしてから彼の隣に座る。

 なお、黒髪橙目の男は私に対して何か嫌な物を感じ取ったのか、この間に何処かに行ってしまった。

 まあ、居ても私の機嫌が悪くなるだけだろうし、居ない方が都合はいいが。

 と言うか居なくていい。

 と、今はまず情報を集めないと。


「何だか酒場全体が騒がしいようだけれど、何か有ったの?」

「ああ、あったぜ。それもどデカい話がな。と、もしかしてアンタが噂のソフィアか」

「どデカい話?それと噂の方は別人よ。そっくりだけどね」

 私はウェイトレスから酒を貰い、私の奢りだと言いつつ、私の事を知っているらしい目の前の彼の持つ彼のコップの中に酒を注ぎ込む。

 すると彼は私の行動に気を良くしたのか、笑顔のまま宿の空気がこうなっている原因について話し始めてくれる。

 なお、彼が言った噂と言うのは水の妖魔(ウンディーネ)関連のものも含めた諸々の話である。

 うん、こちらについては近い内に完全な鎮火をしておこう。


「そうかい。で、話だが……盗賊団が出たのさ。それも十人、二十人の規模じゃない。実行犯だけで百人は超えているような大盗賊団だ」

「詳しく聞かせて」

「勿論だとも。良い酒もおごってもらったし、粗方は皆もう知っている事だしな」

 で、彼の話だが、要約するとこういう事らしい。


・マダレム・シトモォの北、シトモォと他の都市国家とを繋ぐ街道を二日ほど行ったところに盗賊が現れた

・彼らはシトモォに輸入品の食料を運ぶ大規模な隊商を二日ほど前に襲い、護衛の傭兵を蹴散らして物資を奪うだけでなく、逃げ損ねた隊商の面々を悉く殺したらしい

・この事態にマダレム・シトモォの長老たちは憤慨し、連中を討伐することに決定した

・そしてその戦力として、衛視だけでなく傭兵たちも掻き集める事にしたらしい

・なお、盗賊団の規模や拠点の有無などは現状不明である


「それでまあ、偵察も兼ねた先遣隊の出発が明日の朝で、本隊が明々後日の朝に出発予定。盗賊と戦うつもりの傭兵はどちらかの部隊に合流して、一緒に都市から出発するように。との事らしい」

「へぇ……となると宿のこの張りつめた感じは」

「参加するかしないか。参加するなら先遣隊と本隊のどちらに参加するのか。今からどうやって物資を集めるのかって事で、それぞれの思惑がぶつかり合っているんだろう。なにせ急過ぎる事だからな」

「先遣隊なら明日の朝だものねぇ……」

 何と言うか、宿の空気がこんな風になってしまうのも仕方がないという他ない情報だった。


「なんにしても、情報ありがとうね。あ、残りの酒は好きにしていいわ」

「おう。アンタも参加するんだったらよく考えて参加しろよ」

「言われなくても」

 私は情報を教えてくれた彼から離れると、自分の部屋へと上がる。

 そして、自分の部屋の窓から宿の上に登ると、シトモォの夜の街並みを宿の上から観察すると共に、先程得た情報を頭の中で反芻し始める。


「盗賊団かぁ……」

 盗賊が現れた事は別に問題ではない。

 野盗、山賊、盗賊、人攫い、その他諸々が現れただけと言うのなら、何処の都市国家でも割合よくある話だからだ。

 問題はその規模だ。


「隊商を襲った人数だけでも百人って話が本当なら、確実にそれなりのねぐらは持っているはず。そしてねぐらの維持の為にも少なくない数のヒトが必要よね。となると……」

 先程訊いた情報が確かなら、盗賊団の規模は相当なものになるだろう。

 となれば拠点の規模や作り次第では、討伐には五百人近いヒトとそれ相応の装備が必要になるかもしれない。

 百人を超える盗賊団と言うのは、それほどの相手である。


「でも、それだけの人数の盗賊が突然現れるとはちょっと考えづらいのよねぇ」

 だが、私が知る限り、この辺りにそれほどの規模の盗賊団が元々居たという話は聞かないし、何処かから流れてきたにしても、途中で何の事件も起こしておらず、その存在に関する情報が私の中に欠片も入って来ていないというのは、違和感を感じずにはいられなかった。


「うーん」

 加えて、兵は拙速を尊ぶと言うが、シトモォ政府の動きが異様に早いように感じられる。

 傭兵なら元々自分で食料などは用意しているだろうが、衛視ならば食料や装備品を用意するのは政府の仕事であり、その準備には普通なら数日はかかるはずである。


「保存食集めも兼ねつつ、もう少し情報を集めてから参加するかどうかは決めた方が良さそうね」

 何かが怪しい。

 私はそう思わずにはいられなかった。

 故に、私は盗賊退治に参加するために必要な食料(ヒトの干し肉)を集めるついでに、情報を集めてみる事にしたのだった。

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