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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
150/322

第150話「蛇の参-3」

「さて、始めますか」

 翌日。

 私はマダレム・シトモォ近郊の森の中にやってくると、周囲にヒトや妖魔、獣の類が居ない事を確かめてから、地面を掘り起こし、掘り起こした土を予め広げておいた布の上に乗せていく。


加熱(ヒート)

 そして、必要な量の土が集まったところで、盛り上げた土全体を熱するように加熱の魔法を発動。

 掘り上げた土の中に居た生物を追い出すと同時に、契約魔法発動の際に体内の異物として少なくない違和感を与えてくる草の根を焼いて除去していく。


「これで下準備は良し。と」

 こうして対象とする土の量を限った上に下処理を行っておくことで、初めて使役魔法を使った時のように大量の情報に押し流されたり、苦痛を味わったりする事はしなくて済むだろう。


「じゃ……発動」

 私は魔石を間に挟むようにして盛り上げた土に触ると、使役魔法を発動。

 盛り上げた土だけを対象として触覚を共有し始めると同時に、私の手足として動かせるように感覚を張り巡らせていく。


「聴覚共有開始……あーあー、よし」

 続けて土の中でもよく震える粒を一ヶ所に集めると、それを耳にする形で疑似聴覚を発生させる。

 すると、無事に聴覚の共有が完了した証として、微妙に響き方やタイミングに差を持った状態で私自身の声が聞こえてくるようになる。


「で……目の前に形を整えるべきね」

 私は懐から昨夜削り出した一対の水晶玉を取り出す。

 だが、それを土の中に入れる前に私は動かしやすさから考えて、この盛り上げた土を何かしらの動物の形に整えるべきだと判断した。


「……」

 では、どんな形にするべきか。

 情報収集を目的とするのであれば、鳥が最良の形だろう。

 空を飛べる上に、形だけならば街の中に居ても街の外に居ても早々疑われることはなく、目の具合と偽装さえ十分に良ければ、相手の攻撃が届かない距離から一方的に監視することも出来るだろう。

 が、今すぐ使い物になるかと言われれば、怪しいとしか言いようがない。

 雛鳥が生まれてすぐに飛べない事から考えても、空を飛ぶと言う行為にはそれ相応の修練が必要なのだろう。

 そしてそれは視覚の共有が出来ていない現状ではやるべきでない事柄だと思う。

 いずれはやれるようになりたくはあるが。


「んー……」

 では鳥を除いて、私はこの土をどんな姿にするべきだろうか。

 犬……偽装込みなら使い勝手は良さそうだが、よく知られている生物だけに色々と面倒事を引き起こしそうでもある。

 猫……犬と同じで疑われることは少なそうだが、面倒事も多くなりそうではある。

 蜥蜴……使い勝手は良いだろうが、今回用意した水晶玉のサイズには合わなさそうである。

 魚……土を水に入れたらどうなる?これを考えただけで無いと言い切れる。

 蛇……私自身が蛇の妖魔(ラミア)なだけあって、身体構造や動き方は把握している。


「やっぱり蛇が良さそうね」

 私はそう結論付けると、盛った土を蛇の形に変えていく。

 土の量が多かったために蛇は蛇でも大蛇と普通の蛇の中間ぐらいの大きさになってしまったが……まあ、サイズについては今回の実験が上手くいってから調節すればいいだろう。

 動きについても本物の蛇と全く変わらない動きが出来そうであるし、今回の実験が上手くいったなら、焼き菓子(ブラウニー)の毒(ポイズン)を仕込んだ牙を口の中や体内に仕込んでおくのもいいかもしれない。

 何かしらの攻撃手段を仕込んでおいても困るものではないし。


「じゃ、水晶玉投入っと」

 今後の改良点を考えながらも、私は水晶玉を蛇の頭部分に埋め込んでいく。

 すると、今の時点では異物扱いなので、当然のように身体の中に何かを入れられたような異物感が私に伝わってくる。

 そして、その感覚を確認した所で、私は普通の生物の目と同じように、二つの水晶玉の表面が外からでも僅かに見えるよう土で覆っていく。

 これで準備は完了だ。


「むんっ!」

 私は使役魔法の範囲を僅かに広げ、身体の中に埋められた水晶玉も自分の肉体の一部として受け入れるように認識を改めていく。

 特に水晶玉に接触している部分の土に対しては、光によく反応するように調整を行っていく。

 そうして準備が整ったところで私の視覚と蛇の疑似的な視覚を共有させ始める。


「『これは……面白いわね』」

 やがて見えてきたのは?

 使っている水晶玉の関係で多少ぼやけてはいるが、蛇を見ている私の姿が見えてきた。

 口では何とも表現しづらい感じだが、蛇の顔と、蛇の顔を見つめている私が同時に見え、私が発した声も微妙にずれた状態で二重に聞こえている。

 そして、首を触られている感触も、首を触っている感触も同時にしている。

 うん、何とも不思議な感覚で、気を付けないとどちらが私の主とすべき感覚なのかが分からなくなりそうだ。

 これは要練習と言うか、慣れない内は自分の身体は何処か安全な場所に置いて、蛇の操作に集中するべきであるかもしれない。


「何にしても成功ね」

 いずれにしても視覚の共有自体は上手くいった。

 次の改良や練習については地道に行えばいいだろう。

 と、ここでふと思う。

 キキたちの流派では非生物との契約は基本的に禁じていた。

 だが私はそれを成し遂げ、非生物には本来ないはずの視覚や聴覚も代わりのものを与える事で認識できるようにしてしまった。

 うん、少々不遜ではあるかもしれないが、此処まで来ると最早キキが言う所の使役魔法とは違う種類の新しい魔法として扱った方が、何かと都合がいいかもしれない。


「となると名前は……」

 私の頭の中に様々な単語が浮かんでは消えていく。

 そうして考えた結果、導き出したこの魔法の名前は……


忠実なる(スネーク)(ゴーレム)。とでも呼んでおきましょうかね」

 妙にすんなりと収まった感じがした。

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