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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
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第149話「蛇の参-2」

「ふぅ、何とか目的のものは手に入ったわね」

 数時間後。

 その日の宿の部屋に入った私は、ほぼ全財産を払って手に入れたそれを革袋の中から取り出し、夕日にかざす。


「うん、実験用としては良い具合ね」

 私が求めていたもの。

 それは光を良く通す透明な鉱物、つまりは宝石だった。

 で、そんな宝石の中でも、私は出来るだけ色がない物を探しまわっていたのだが……シトモォ中を探し回り、財布の中身と相談した結果、入手できたのは結晶の中に若干の曇りが見える水晶の原石だった。

 本音を言えば一切の曇りを持たない水晶が理想だったのだけれど……まあ、まだ成功するかもどうかも分からないし、実験用だし、失っても出来るだけ痛くない物を使った方がいいだろう。

 私の目的を果たせる大きさで曇りが無い水晶の値段が目が飛び出るぐらいに高かったと言うのも、理由の一端ではあるけどさ。


「ま、懐事情はさて置いて、早速作業を始めましょうかね」

 私は魔石加工用の道具を取り出すと、原石から水晶を取り出す作業を始める。

 その後の加工も考えると、出来るだけ完全な状態で取り出したいところではある。


「ふんふふん~♪」

 さて、そもそも何故私は水晶を求めているのか。

 それは『黄晶の医術師』との諸々で、想像以上に私は正面切った戦いが苦手な事が分かってしまい、その苦手を克服するための方策の一つとして考えた魔法に前述の光を良く通す透明な鉱物が必要になってしまったからである。


「よし取れた」

 と言うわけで、まずは無事に原石から水晶を取り出す事に成功する。

 この大きさならば……うん、必要な大きさの水晶玉を二つ削り出すぐらいは問題ないだろう。


「じゃ、慎重に割って、それから削りましょうかね」

 私は必要な道具を机の上に並べると、周りの部屋に迷惑にならないよう音に気を付けながら、原石から取り出した水晶を二つに割り始める。

 で、作業をする傍らで改めて思い浮かべる。

 私が苦手とする相手……正面からしか戦わせてもらえない相手を倒すにはどうすればいいかを。


「直接的な戦いや顔や正体がバレていいなら、毒とか能力を使うとかよねぇ」

 まず相手が一人、二人、それに……三人ぐらいまでなら、今の私が持つ全ての能力を以て不意討ちを行えば、難なく勝てるだろう。

 正体がバレて良いのなら、毒の牙や他の妖魔との協力と言う手段だってある。

 後は、移動ルートや性格なんかが分かっていれば、待ち伏せに近い手や、水の妖魔に使ったような手段も使えるだろう。

 と言うわけで、相手の数が少ないならば、どうとでもなる。


「問題は……」

 となるとやはり問題になるのは『黄晶の医術師』のような集団の場合だ。

 この場合、袋叩きにされないためにも正体はバレないようにしなければならないし、後々問題にならないように目的を達するとなると、マダレム・ダーイの時のように適当な妖魔を呼び寄せると言う手段も少々厳しい事になるだろう。

 特に最近は私のような知恵ある妖魔の存在がヒトの間で認識され始めているわけだし、大規模な襲撃を行うと、偶然であっても私の元にまで疑惑の目が届く可能性はゼロではないだろう。


「うん、やっぱりこれは必要ね」

 ではそんな相手と戦うにはどうすればいいのか。

 幾つかの手は考えたが……その中で一つ思い至ったのは、本当に正面から戦う必要が有るのかを改めて確かめる必要があるのではないかと言う考えだった。

 ではどうやってそれを確かめるのか。

 それには、私自身の目でもなく、私が丸呑みにしたヒトの記憶でもない、新たな情報収集手段が必要だと私は感じた。

 そして、その新たな情報収集手段として思い浮かんだのは……キキから得た使役魔法だった。


「……」

 私は割った水晶を球形を目指して研磨していきながら、改めて使役魔法の特性を思い起こす。

 使役魔法は契約対象を自分の手足のように動かす魔法である。

 その特性上、触覚を始めとした契約対象の五感を術者の五感と同期する必要が有り、これは裏を返せば、契約対象が見ているものや聞いているものを、術者も見聞きする事が出来ると言う事でもある。

 そして、実際にキキの出生地の辺りでは、使役魔法を偵察に使う事は良く行われている事であったそうだ。


「よし出来た」

 が、ここで一つ問題があった。

 私が使役魔法の契約対象として選んでしまったのは土である。

 土は生物ではない。

 当たり前と言えば当たり前だが、そのために使役魔法の対象と対象外を見極める為に副次的に発生した触覚と、音が体を振るうわせるのを利用した疑似的な聴覚以外には五感と言うものが存在しなかった。

 偵察活動において、嗅覚と味覚は無くても何とかなるが、視覚が無いのは致命傷だと言ってもいい。

 そして、使役魔法は術者への負担を考慮してか、基本的に再契約と言うものが行えないようになっていて、どうしてもと言う時にはそれ専門の術者の手に掛かる必要が有るという私だけでは絶対に契約解除が不可能な状況になっていた。


「さて、これが目の代わりになってくれると良いんだけどね」

 ではどうやって土を契約対象としたまま視覚を得るか。

 そのヒントとなったのがヒーラの持つ医学的な知識であり……そこから導き出した答えが私の手の中で輝く小さな水晶玉だった。

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