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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
143/322

第143話「シェーナの書-2」

「そう言えば師匠?」

「何だ?馬鹿弟子」

「魔石を使う魔法使いの話ですけど、魔力、想像力、知識、道具、その何れもが揃っているのに、ヒトによって使える魔法が限られていたり、同じように二つの魔石を加工して、同じように使ったのに発動する魔法が異なる事ってありますよね。あれってなんでですか?」

「ああ、その事か」

 冬の一の月の半ば。

 シューラが魔法の練習をしている横で小生が書き物をしていたところ、シューラが質問を投げかけてきた。


「その事についてなら、確証は持てないが、一つの仮説はあるな」

「仮説……ですか」

「小生も魔法の全てを知り尽くしているわけでは無いからな。仮説と言っても、個人の感覚に根拠を置いているような稚拙なものだが、それでいいなら話すぞ」

「お願いします」

 何故ヒトによって、または妖魔によって使える魔法に限りがあるのか、この問題についてはシューラでなくとも、真っ当な魔法使いなら誰もが一度は疑問を抱く事柄だろう。

 現に小生も疑問を抱いていたし、ソフィアも知識と扱う感覚を手に入れてもなお使えない魔法が存在することには違和感を感じているようだった。

 そして、そうした感情を抱きながら何十人、何百人と言う魔法使いを見てきた結論としては……まあ、こう言うしかない。


「では言うが、簡単に言ってしまえば素養の問題だな」

「素養……ですか」

「才能と言い換えてもいいが……いや、やはり素養の方が適当か。まあとにかく、小生としては魔力には個人個人で微妙に性質が違う物だと考えている。そして、その性質の違いが存在するために、使える魔法と使えない魔法が存在するのだと考えている」

「ふうむ……その素養と言うのはヒト以外でも……」

「当然あるだろうな。だから同じように加工した魔石でも差が生じるし、それ以外にも色々と小生は実例を見ている」

「なるほど。勉強になりました」

 魔法の素養。

 ある意味これほど残酷な分け方も無いと小生は思う。

 なにせどれほど魔力の量が多くとも、どれほどの知識を貯め込もうとも、どれほど場を整えようとも、使おうとしている魔法に対する素養が存在しなければ、魔法を使う事は出来ないのだから。

 この残酷なルールによっていったいどれほどの数の見習い魔法使いの心が折られたのか、彼らが生み出したかもしれない魔法がどれだけあったのか、考えるだけでも辛くなるぐらいだ。

 だが、仮に素養がない者でも魔法を使えるようにする方法が何かしら存在したとしても……今の流派ごとに分かれて、碌な交流を行っていない現状ではそんなものを見出す事も、個人の素養に合わせて魔法を教える事も叶わないだろう。

 そう言い切れる程度には、魔法使いの流派同士というのは仲が悪い。

 愚かしい事だ。


「んー……今の話を聞いて、師匠にもう一つ聞きたい事が出来ました。良いですか?」

「何だ?」

 と、小生が魔法の素養についての考えに耽っていたところ、シューラが再び声を上げる。

 どうやらまだ聞きたい事が有るらしい。

 まあ、小生の話を聞いて、新たな疑問が浮かぶのは悪い事ではないだろう。

 誰かに何かを教えると言うのは、教える側にもいい影響を与えるものなのだから。


「師匠は前に言ってましたよね。世の中にはヒトなのに、普通の魔法使いよりも遥かに強力な魔法を使うヒトが居ると」

「ああ、確かに言ったな。それがどうした?」

「そのヒトの元々の魔法の素養はどうだったんでしょうか?」

「と言うと?」

「いえ、師匠の話を聞く限り、そのヒトは突然強力な魔法を使えるようになったそうじゃないですか。だから妙だなと思って」

「ああなるほど」

 小生はシューラにフローライトの事を、名前などは出さずに、突然魔石なしに普通の魔法使いよりも強力な魔法を使える魔法使いとして教えている。

 その話を知っているからこそ、先程の魔法の素養の話を聞いたシューラは疑問に思ったのだろう。


「まあ、確かに妙な話ではあるな。アイツの話が確かなら、碌な修行も行わずに、突然あれだけの魔法を扱えるようになったのだから」

「ですよね」

「ただ小生としては、アレは何かしらの制約や制限を受けた上で得た力だと思っている」

「制限に制約……ですか」

「ああ、それこそソフィールの言う主ではないが、この世界の全てに影響を及ぼしているような何者かが、その制限や制約を守ることの対価として与えた力だとか、そう言ったものではないかと考えている」

「なるほど」

「まあ、こういう力には可能な限り手を出すべきではないな。どんなリスクや対価を負わされるか分かったものでは無い」

「あー、確かに。制約の内容次第では何も出来なくなっちゃいますものね」

「そう言う事だ」

 ただそれに対する返答としては……小生が見知った限りでは、何かしらの制限がフローライトに有ったのではないかと思っている。

 でなければ街全体を相手にするならばともかく、小生たちが来るまでドーラムたちが生きていた事に対する説明がつかない。

 現に、最後の戦いの時フローライトは魔法でドーラムを圧倒していたのだから。


「ところで師匠、そう言う制約の代わりに力を得たヒトってどれぐらい居るんでしょうね?」

「さあな?時々妙な力を持つヒトの話は噂で聞くが、小生としてはその大半は嘘かペテン師に騙されたか、目撃者の知識不足だと思っている。で、残りも大抵は小生のようなヒトによく似た妖魔の事ではないかと思っている」

「そんな物ですか」

「そんなものだ。そうだな、珍しさも含めて考えると、ヒトの中の変わり者として、別の呼称を考えておいた方が良いかもしれないな」

「別の呼称?」

 ヒトの姿を持ち、ヒトとして生きるも、明らかにヒトでは説明のつかない力を持つ者。

 これをヒトと呼び、普通のヒトと同じ存在として括るのは何かと問題があるかもしれない。


「ふむ。そうだな。一先ず小生と貴様の間では、そう言った者たちの事を『英雄』とでも呼んでおこうか」

 そう言うわけで、小生はそう言った存在を今後は英雄と呼ぶことにした。


「英雄……ですか。何か普通の名前ですね。折角新しい概念に名前を付けるんですから、そこはソトシェサノシトと……」

「英雄だ。小生は絶対に譲らんぞ」

「ちぇー」

 なお、余談ではあるが、シューラの命名センスは壊滅的である。

 魔力と言う概念にマギマナーシュパワーとか名付けようとするぐらいには。

 故に将来誰がコイツの旦那になって、どんな子供を産むのかは小生の知った事ではないが、子供の命名だけは別の誰かがやってほしいと切に願う。

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