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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
122/322

第122話「蛇の壱-4」

「さて、今日の所は適当にうろついてみましょうかね」

 翌日。

 『ヌークエグーの宿』を出た私は、シムロ・ヌークセンの周囲で活動する傭兵たちをサポートしている公的機関があると言う事で、まずはそちらに顔を出して、周囲の山々にどういう危険があるのかを教わった。

 そして、その上で周囲の山で採取でき、この機関で買い取ってくれている薬草の種類と量、それに魔石や獣肉の価格を調べると山に出かける事にした。

 うん、こんな機関があることから分かるように、シムロ・ヌークセンでは使えるものは使うと言う事で、それ相応の力量を求められる分野については、湯治に訪れた傭兵であっても、本人が望んだと言う前提で利用するらしい。

 やっぱり強かだ。


「よっと」

 山の中の様子は?

 私が居るのは、シムロ・ヌークセンがある山……ワレワノ山から小さな谷一つ越えた所にある山……地元ではオクノユ山と呼ばれる山であるが、だいたいは朝に教わった通りだった。

 教わった通り……うん、つまりは例の腐った卵のような臭いが山全体に軽く漂っていて、所々でヒトどころか妖魔でも落ちれば全身が茹でられてしまうような熱湯が湧き出している。

 気温はこの時期にはそぐわない程に暖かく、それに合わせるように薬草も生えている。


「えーと……まず大前提として、くぼみには近寄らない。木や草が生えていない場所にも近寄らないだったわね」

 で、これも教わった事だが、この辺りの山の中では、決して地面がくぼんでいる所には近寄ってはならないらしい。

 なんでも、そう言った窪地には目に見えない危険な何かが潜んでいるそうで、立ち入ったものは悉くその何かによって殺されてしまうそうだ。


「ちょっと試してみましょうか」

「きゅっ!?」

 私は私が妖魔であると言う事で警戒心なく近くを歩いていたリスを捕まえると、試しに手近なくぼみに向かって放り込んでみる。

 すると、多少苦しんだ後にリスは死んでしまった。

 ……。うん、どうやら私の目にも引っかからないような危険な何かが本当に居るらしい。

 リスの尊い犠牲に報いる為にも、くぼみに立ち入らないと言う事は肝に銘じておくとしよう。

 くぼみには草木も無いので、気を付けていれば、嵌ることはないはずだ。


「でもそうなると……」

 私は近くの草も木も生えていない岩だらけの場所に目を向ける。

 こちらも危険だから近寄るなと言われた場所なわけだが……一体何が有ると言うのだろうか?

 そう思って遠く離れた場所から観察していた時だった。


「っつ!?」

 それほど大きくはないが、爆発音と地響きが私が注目していた場所から発せられ、それと同時に熱湯が勢いよく噴き出してくる。


「ははは……なるほど……」

 私は若干頬を引き攣らせながらも、近寄るなと散々念押しされたことに納得する。

 これは確かに近寄ってはいけない。

 迂闊に近寄って、今の熱湯が直撃すれば、妖魔であってもひとたまりもないだろう。

 後、出来れば複数人で行動するように言われた事にも、今更ながら納得がいった。


「しかし、こんな物が有るなら、城壁がないのにも納得するわ……」

 で、それらの事柄を理解すると同時に、どうしてあれほど多くのヒトで賑わっているシムロ・ヌークセンに城壁が無いのかについても納得する。

 そう、シムロ・ヌークセンが小規模な街であると言う事もあるだろうが、それ以上にこの周囲の山々には似たような場所が何か所もある事と、城壁の建築と維持にかかる費用を考えたら、これら天然の障害を利用した方が良いに決まっているのだ。

 妖魔や獣相手なら、多少背が高めの柵を用意しておけば、十分なのだろうし。

 うん、何処に金を使うべきなのかを考えている点でもやっぱり強かだ。


「まあ、気を付けていきましょうか」

 私はより一層の注意を払う事を決めると、ゆっくりとオクノユ山の探索を始める事にした。



---------------



「ふうむ……」

 探索開始から数時間後。

 宿を出る時にもらった温泉卵とやらを頬張る私の前には、適度な量と温度の温泉が湧き、溜まっている岩場が広がっていた。

 念の為にリスで危険な何かが居ないかを確かめたり、詳しく観察をしてみて、例の熱湯が噴き出したりしないかも確認してみたが、問題は無さそうだった。

 で、都合のいい事に、この温泉の周囲には、買い取り対象と指定されていた薬草も乱雑に複数種類生えていた。

 これは……うん、そうするべきなのかもしれない。


「折角だし入りますか」

 私は服を脱ぐと、金色の蛇の輪の装飾品二つだけを身に着けて、足からゆっくりと湯の中に入る。

 うん、暖かい。

 そして、僅かではあるが、普通のお湯を張った風呂とは違う感覚が皮膚から伝わってくる。


「ふうううぅぅぅ……」

 全身を入れても大丈夫だと判断した私は、肩まで温泉に浸かると、その心地よさから思わず声を漏らしてしまっていた。

 ああうん、これは癖になる。

 シムロ・ヌークセンがあれだけ賑わうのにも納得がいく。


「とりあえず身体があったまるまでは入っていましょうかね……」

 私は最低限の注意は周囲に向けて払いつつも、心行くまで温泉を楽しむことにしたのだった。

温泉シーンですな。


だが男だ。



06/07誤字訂正

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