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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
120/322

第120話「蛇の壱-2」

「さて、これからどうしましょうかね……」

 数日後、私は一人で今後どうするかについて悩んでいた。


「現状、特にこれと言った用事や目標はないのよねぇ……」

 ネリーを食べてから、マダレム・シーヤで『闇の刃』から暗視の魔法を奪うと決めたその時までと同じように、明確な目標が無い状態だったからだ。


「……」

 勿論、その頃と同じように漫然と旅をし、普段は傭兵の振りをしつつ、腹が減ったら手近なところに居たヒトを食べると言う生活を送ってもいい。

 が、その生き方は妖魔らしい生き方であって、フローライトから言われた私らしい生き方をしろと言うものにはそぐわないように感じた。


「私らしい生き方かぁ……」

 私は地面から顔を出している手近な岩に腰掛けると、遠くの方に山頂が僅かに見えているアムプル山脈の山々を眺める。

 季節は秋の三の月。

 正確な日付を認識していないのであれだが、冬の一の月に入れば、私がこの世に生まれてから丸六年と言う事になるはずである。


「ふうむ……やっぱりなにか目標があって、それを達成するために色々とやっている時の方が、私らしくはあると思うのよね……」

 そう、丸六年だ。

 私はタケマッソ村近くの山中で生まれてから、今に至るまでの間、殆どの時間を何かしらの目標を伴って過ごしてきた。

 妖魔らしく腹を満たす事に始まり、私の事を知るヒトが居ない場所を探してマダレム・ダーイへ逃げ、そのマダレム・ダーイをネリーを食べる為に滅ぼした。

 そしてマダレム・シーヤで『闇の刃』と敵対した後は、フローライトの為にエーネミとセントールを滅ぼし、つい先日まではその後始末に追われていた。

 その間の私は常に狙ったヒトを仕留める為に、あの手この手を考え、実行してきた。

 それは、主観的なものではあるが、非常にやりがいがある物であると同時に、苦難と充実に満ちた日々だと言え……私らしく生きていると言える日々だった。


「うん、やっぱり目標は作るべきね」

 結論。

 今後の活動を精力的にこなすためにも、やっぱり何かしらの目標は定めるべきだと思う。


「じゃあ、どんな目標を立てるかだけど……」

 ではどんな目標を立てるか。

 直ぐに終わってしまわないようにするならば、出来る限り達成が難しい目標を定めるべきではある。

 が、全くもって突拍子もない目標だと、途中でやる気をなくしてしまうだろう。

 となると、私の今までやって来たことの延長線で何かを考えるべきだが……


「うーん……策略、謀略、暗殺、知識の奪取、気に入った子を食べる事……」

 私の場合、トーコの料理、シェルナーシュの魔法、サブカの剣術と違って、目標が存在する事を前提とした物ばかりであり、私一人だけで何かをやれるような物はない。

 うん、これは困ったかもしれない。


「やっぱりまずは旅をするしかないか……」

 そして目標を見つける為には、その目標がネリーやフローライトのようにとても食べたいと思える子にしろ、何処かの都市国家であるにしろ、排除するべきヒトであるにしろ、それらの情報を送って来てくれるような存在でも居なければ、一ヶ所に留まっているのではなく、自分で各地を歩き回る必要が有る。

 で、これは仮に目標を自分で作ろうと考えた場合でも、同じ事だろう。


「ならとりあえずは暖かそうな場所ね。これから冬の月に入るわけだし」

 と言うわけで、結論その二。

 狙いたい獲物が見つかるまでは、旅をするほかない。

 それが私らしく生きる為に必要な事だろう。



------------------


「……」

「いやぁ……ここまでツラそうにしている奴は初めて見たな」

 さらに数日後。

 私はその街の入口で、門兵に見守られながら、鼻を押さえた状態でぐったりとしていた。


「ヒトより鼻が良すぎる事を初めて怨みたくなってきたわ」

「ははははは。まあ、頑張れとしか言えないな」

 ここはアムプル山脈とヘニトグロ地方の境界線の中でも、かなり西寄りの地域である。

 で、私が居るのは、そんな山地と平地の境界線に位置する、低めの山々の山肌に造られた小規模な街シムロ・ヌークセンの入り口である。


「とりあえず鼻が慣れるまではこうさせておいて」

「あいよ。もしもどうしようもないぐらいに気分が悪くなったら呼んでくれ。医者を呼ぶからな」

「ありがとう。その時は頼むわ」

 さて、このシムロ・ヌークセンであるが、アムプル山脈の山裾と言う、冬の一の月に入る今の時期、本来ならば、もう相当寒い気温になっているはずの場所である。

 にもかかわらず、今もなおシムロ・ヌークセンの気候は秋のそれに近い程度に暖かく、穏やかであり、街中からは白い湯気が数多く天に向かって上がり続けている。


「しかし、まるで腐った卵の匂いよねぇ……なんでこんな匂いがしているのかしら……」

 何故か?

 その何故こそが、私がこの地を訪れた理由でもある。


「温泉って……」

 そう、ここシムロ・ヌークセンでは有ろうことか地面から湯が湧くのだ。

 腐った卵のような匂いのガスと共に。


「不思議だわ」

 そして、その噂の真偽を確かめる為に、私はこの地を訪れたのだった。

 文字通りに、出鼻をくじかれてしまったが。

06/04誤字訂正

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