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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
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第119話「蛇の壱-1」

「ひぃ……ひぃあ……」

 私の前で一人の男が無様に地面を這って、私たちから逃げようとしていた。


「たす……助けて……」

 ここはヘニトグロ地方中央部の中でも西寄りの地域。

 私の目の前に居るこの男は、最寄りの都市で財を成していた商人の一人である。


「助けて……ねぇ」

 尤も、私たちの背後で燃えているのが家財道具一式を乗せた複数台の馬車である事からも分かるように、彼は今までの商売で得た財を持つと共に、所属していた都市で手にした地位を捨てて、誰も自分たちの事を知らない土地へと逃げ出そうとしていたのだが。


「ひぃ、ひぃい……わ、儂が何をしたと言うんだ!一体何をしたと言うんだ!?」

 何故彼は自分が手に入れたものの半分以上を捨ててまで、逃げ出そうとしていたのか。

 それは彼がとある集団……マダレム・エーネミとマダレム・セントールの戦いをわざと長引かせることによって利益を上げていた集団、継戦派に属しており、その継戦派の面々がこの五年間で何者かによって次々に始末されていたからだ。


「お前たちは一体何者なのだ!?何故儂らの存在を知っている!?何故儂らを付け狙う!何故……」

「ふふふ、この期に及んで私たちの正体を掴めていないのね」

 まあ、その継戦派を始末している誰かと言うのは、私たちまたは、私たちから情報を受け取って、義憤に駆られたヒトたちの事なのだが。


「私たちは妖魔よ」

「ぐっ……妖魔……だと……」

 私は怯える男の背中を踏み付けて動きを止めると、ハルバードを振り上げる。


「馬鹿な!何故妖魔が……」

「じゃっ、さようなら」

 そして自分たちの正体を告げると、ハルバードを唖然とする男の顔面に叩きつけ、男の上半身を跡形もなく粉砕した。


---------------


「ふぅ……これでようやくね」

「だな」

 私……ソフィアの周囲に、サブカ、トーコ、シェルナーシュが集まってくる。

 今回の襲撃の為に集めた鼠の妖魔(ゴブリン)豚の妖魔(オーク)たちは、燃えている馬車の周囲で、男の家族や従者たちを食べているが……ここから先の話は彼らには関係の無い事であるし、食べ終わったら好きにしていいと言う指示さえ出しておけば問題ないだろう。


「随分とかかったねー」

「連中は各都市に散らばっていたし、どいつもこいつも守りが堅かったからな。仕方がないだろう」

「おまけに連中が新たに起こしてくれた戦争も少なくなかったからな……本当に百害あって一利なしの連中だった」

「でも、これでもう終わり。どうせ同じことを考える奴は出てくるでしょうけど、一応は一段落よ」

 私たちがマダレム・エーネミとマダレム・セントールを滅ぼしてから五年。

 ドーラムの屋敷に有った名簿から継戦派の有力者を探し始めた私たちは、一人また一人と彼らを始末していった。

 時には強盗に見せかけ、時には妖魔の仕業に見せかけて。

 場合によってはヒトの力も利用し、残った面々が焦って動き出すようにと死体を晒しものにする事もあった。

 だがそれも、目の前の男で終わり。

 コイツを始末したことによって、名簿に記されていた継戦派は全員この世から消え、名簿に記されていなかった者もほぼ全員消し終わっている。

 よって、今回の襲撃を持って、継戦派は壊滅したと言っても過言ではないだろう。


「それでソフィア。これから先はどうするつもりだ?」

「そうねぇ……」

 私はドーラムの名簿を火にくべて燃やす。


「三人には何か予定はあるの?」

「アタシは特にないよ。美味しい物は食べたいけどね」

「俺も特にこれと言った目的は無いな……」

「小生は……まあ、少々調べたい事が有るな。ただそれは、小生一人でやるべき事だ」

 私の質問に対して、トーコはマダレム・エーネミが滅びた次の日に突然現れた銀色の蛙のブローチを弄りながら、自分の欲求に忠実な答えを言う。

 サブカは空を見上げ、恐らくはこの五年間に訪れた何処かの光景を思い浮かべながらも、表向きは予定なしと答える。

 シェルナーシュは数週間前に回収したパッと見、柄の無い金貨が填め込まれたピアスを弄繰り回しながら、一人になりたいと告げた。

 となればだ。


「そう。だったら、この先は全員自由行動と言う事にしましょうか」

「良いのか?」

「だってもうマダレム・エーネミの後始末は付けたのよ。知恵ある妖魔の存在だってこの五年の内にバレちゃったし、それならもう、みんな一緒に居る必要はないもの」

「それは……そうかも」

「そう言うわけだから、この先はマダレム・シーヤで私、トーコ、シェルナーシュの三人が出会う前、全員がそれぞれ自由に過ごしていた頃に戻りましょう」

「分かった。小生もそれで構わない」

 もうここで私たちは普通の妖魔らしく、単独で行動する生活に戻るべきだろう。


「ああでも、年に一度くらいは会っておきましょうか。お互いが生きているかどうかを確かめる意味でもね」

「何処で会う気だ?」

「そうね……とりあえずはマダレム・エーネミのドーラムの家が有った場所に、次の夏の二の月の新月に集まりましょう」

「マダレム・エーネミが滅びた記念日って感じだね」

「分かった。余裕が有れば、小生も顔を出すとしよう」

「じゃ、集まる場所と時間も決まったところで、さようならね」

「うん、バイバイ」

「機会が有ればまた会おう」

「おう、無事な事を祈ってる」

 そうして私たちは再集合の日時を決めると、その場からそれぞれ別々の方向へと去って行ったのだった。

第3章開始で、再びの一人旅です

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