第109話「滅び-3」
「誰……ギャッ!?」
次の部屋も、先程の部屋と同じように、まずは私が飛び込んで、一番近くに居た一人の頭をハルバードでかち割る。
そして、そこから片手でハルバードを撥ね上げるようにして、周囲を薙ぎ払い、数人の魔法使いを切り捨てる。
「て、敵だああぁぁ!」
「さて……」
で、広間のようになっている場所でそんな事をすれば、当然のように部屋の中に居る全員の耳目が私の元に集まって来る事になる。
だから私はそうやって視線が集まって来るのに合わせて、懐から一つの魔石を取り出し、目の前の中空に向かって軽く放り上げる。
私の中にある力の塊と魔石を繋げた上で。
「頼むわよ。着火」
「「「!?」」」
私の背後の扉から、サブカとトーコの二人が出てくる。
と同時に、私は投げた魔石から一瞬目を逸らし、それに合わせて投げた魔石が崩れ去りながら、その内に秘められた力の全てを放出することで一瞬だけ強烈な光を発し、私へと視線を向けていた全員の目へと真っ直ぐに突き刺さる。
さて、暗視の魔法を使う事によって、この暗闇の世界でも問題なく活動出来るほどに感度が引き上げられていたヒトの目が、急に太陽を直視したような光を浴びたらどうなるのか。
「「「がああぁぁ!?」」」
「「「目があ!?目があぁぁ!?」」」
結果は単純明快。
暗闇から急に日向に上がった時の数倍から数十倍のキツさでもって目を焼かれ、その動きを止めざるを得なくなる。
そして、そうなってしまえば、最早戦う事はおろか、簡単な魔法一つ使う事は出来なくなる。
「ふんっ!」
「やっ!」
こうなれば、この広間についてはもう簡単だ。
サブカとトーコの二人が今しているように、部屋中を駆け回りながら武器を振るい、魔法使いも職人も関係なく切り捨てていくだけでいい。
だが、この魔石加工場はこの広間だけではないし、別の部屋に居るなどして、先程の着火の魔法としては失敗作の魔法による閃光を受けなかった者も居る。
「酸性化、接着!」
「邪魔っ!」
だからシェルナーシュと私は進路上に居る『闇の刃』の魔法使いと職人以外を無視して、それぞれが向かうべき場所に向かう。
そして、私より先にベルノートの屋敷内部に繋がる階段へとたどり着いたシェルナーシュが、酸性化の魔法でもって階段を昇ろうとしていた者を始末し、続けて放った接着の魔法でもって、階段の先にある石で出来た扉と壁を一体化させることによって、扉を開けないようにすることに成功する。
「闇円盤!」
「ちっ、さっきのを躱した奴ね!」
私もシェルナーシュに続いて、階段に取りつこうとする。
が、その前に私の進路上に黒い円盤状の物体が飛んできたため、私は慌てて制止、黒い円盤を回避する。
円盤が飛んで来た方向に居たのは?
目を抑えた状態でツラそうにしている『闇の刃』の魔法使いだ。
やはり、先程の閃光が直撃しなかった者も居たらしい。
「お前ら一体どこの者だ!いや、んな事よりも……」
魔法使いは目の前もマトモに見えていないであろう状態にも関わらず、正確に杖を振るい、私目がけて次の魔法を放とうとする。
私の背後ではシェルナーシュが搬出口へと続く地下通路を塞ぎに行くべく、全力で駆けている。
トーコは、私から遠く離れた場所で、未だに呻いているだけの連中を切り裂いている。
そしてサブカの位置を確認した私は……再び真っ直ぐ階段に向けて駆け出す。
「逃がすか。ダ……ぐがっ!?」
再び駆け出した私へと魔法を放とうとした魔法使いの胸から、サブカの尾が突き出てくる。
間違いなく即死だ。
で、当のサブカは、尾を振るって死体を投げ捨てつつ、四本の剣で近くに居る者から順々に一撃で仕留めていく。
「こいつ等……妖魔だ!」
「蠍の妖魔だと!?」
「なっ!?そんな……バギャ!?」
「バレたわね」
「ちっ」
戦闘開始から数十秒。
サブカが四本の腕と蠍の尾を出した事を決め手として、私たちの正体が露見する。
が、何の問題もない。
既に私は階段の下に辿り着き、シェルナーシュは搬出口を塞ぎにかかっているし、トーコとサブカによる広間の殲滅は粗方終わっている。
「さて、上手くいってちょうだいよ……」
階段の下に辿り着いた私はその場にしゃがみ込み、懐から複数の魔石を取り出すと、一つ一つ慎重に地面へと埋め込んでいく。
そしてこの間に封鎖作業を終えたシェルナーシュと、広間の殲滅を終えたサブカが合流。
二人一緒に個室エリアへと向かっていく。
一方のトーコも、事前の打ち合わせ通りに、例の鍋を何処からともなく取り出すと、その中身であるとある液体と固形物を広間中に撒いていく。
「よし、準備完了」
時間がない。
既に階段上の石の扉は壊そうとする意図をもって、激しく叩かれており、何時ベルノートの屋敷部分に詰めている魔法使いたちがこちらへと踏み込んできてもおかしくない状況になっている。
だからこそ落ち着いて、私は埋め込んだ魔石に力を通していき、魔石の中で変質した力を周囲の地面が剥き出しになっている床へと広げていく。
「土よ波打て」
それぞれの魔石から、不均一な波が発せられ、それに合わせて広間の土が複数の小石を落とした水面のように波打ち、変形していく。
と言っても、最も大きく土が盛り上がったところでも、立った私の膝下にも届かないような大きさで、掘られた部分も足首から下がすっぽり嵌る程度だが。
「ふぅ。成功したわね」
魔法の成功を確かめた私は、個室エリアの方へと向かおうとする。
が、私が向かう前に大きな荷物を背負ったサブカとシェルナーシュが現れた事で、既に個室エリアでの殲滅と略奪が終わった事を私は察する。
そして、いつの間にか広間に例の物を撒き終わったトーコも、搬入口の方へと移動しており、鍋の中へと未加工の魔石を集め始めているようだった。
うん、どうやら私の想像以上に、土よ波打ての魔法には時間がかかっていたらしい。
「ソフィア!早く来い!」
「言われなくても!」
私は自分で変形させた地面に足を取られないように注意しつつ、入ってきた入口の方へと駆けていく。
そして私が搬入口に辿り着いた時だった。
「よし!開いたぞ!」
「覚悟しろや!」
「ぶち殺してやる!」
ベルノートの屋敷に繋がる扉が破壊され、『闇の刃』の魔法使いたちが地下の広間へと踏み込んできた。
だから私は……
「残念だけど、もう全てが終わっているわ。着火」
トーコによって広間中に撒かれた油と酒と動物の脂身に火が付くように懐の魔石を投げて、地面に落ちた所で着火の魔法を発動する。
「「「ギャアアアァァ!?」」」
広間が炎と爆音に包まれる。
そして、意を決して私たちを追いかけようとした者は、炎に隠された波打つ地面に足を掬われて倒れ、炎に怖気づいた者も、後ろから来た者に押されて炎の中に倒れ込む事によって、広間はあっという間に阿鼻叫喚の地獄と化すことになる。
「さ、逃げましょう」
「おう」
「分かった」
「うん」
そうして『闇の刃』の魔法使いたちが右往左往している間に、手近な壁を破壊することによって確実な退路を確保し、戦利品を持って私たちは地下水路へと脱出したのだった。
荒せるだけ荒して逃げます
05/25誤字訂正