第107話「滅び-1」
「戻ったぞ。ソフィア」
「ただいまー、ソフィアん」
「二人ともお帰りなさい」
私がペルノッタを食べてから、だいぶ時間が経った。
と言うわけで、現在は夏の一の月は最後の週である。
「上の様子はどうだった?」
「予定通り、何事も無くバルトーロは妻子共々処刑された」
「そう。何も無かったなら、それは良い事と考えるべきね」
で、一ヶ月以上も経っているならば当然の事ではあるが、その間にマダレム・エーネミでは様々な出来事が起きている。
「それにしてもバルトーロだったかしら。彼も愚かな事をしたものね」
「ドーラムが倒れるなんていう、自分の手の内に権力が転がり込んで来るかもしれない機会を見逃せなかったんでしょうね。まあ、欲深いヒトには相応しい末路じゃないかしら」
まず私がペルノッタの事を食べた直後にドーラムが倒れた。
倒れた原因について表向きはただの体調不良だと言っていたが、私たちはペルノッタが居なくなったことが原因では無いかと考えている。
実際、私の中にあるペルノッタの記憶によれば、ドーラムはペルノッタが遺産についてかなり詳しく知っていると思っていたようだったし。
「俺としてはグジウェンがバルトーロでは無く、ドーラムと手を組んだ事の方が驚きだったがな」
「確かに。あそこでグジウェンがバルトーロと組んでいたら、今頃死んでいたのはドーラムとその息子であるダーラムの方だったわよねぇ」
そして、その直後にバルトーロがマダレム・エーネミの王の座を狙って行動を開始。
ドーラムに対して攻撃を仕掛けた。
それはつまり私たちが当初狙っていた内乱状態に陥ったと言う事だが……その内乱はドーラム側の勝利と言う形で、あっという間に治められる結果になった。
「まあ、実を言わせてもらうなら、そうなると私たちも困るんだけどね」
「確かに。この部屋が使えなくなるのは痛手だろうな」
「バルトーロが一番になったら、今以上に街中が酷くなるだろうしねー」
「それは確かに困るな……」
「そうね。ドーラムのおかげでこの部屋には外から見知らぬ誰かが入って来る事が無くて、ソフィアたちとも遠慮なく会えるのだものね」
「そのせいで手が出せないと言うのも、少々歯がゆい事ではありますが」
何故頭が倒れたドーラムの側で無く、事前に準備を整えていたであろうバルトーロの側が負けたのか。
それには幾つかの理由がある。
まず一つに、反撃の為にではあるが、準備を整えていたのはドーラムの側もだったと言う事。
二つ目に、ドーラムの息子であるダーラムが、今まで表に出てこなかった事が不思議なほどの手腕でもって、見事に部下たちを指揮して見せた事。
三つ目に、バルトーロと同程度の勢力を有するグジウェンが、まるで事前にそうなることを知っていたかのように、適切な動きを伴う形でドーラムの味方をした事。
これらの要因が重なった結果として、事前に整えていた準備も碌に生かせないまま、バルトーロが起こした内乱は治められ、屋敷で酒を飲んでいたバルトーロは妻子共々あっけなく捕えられたのだった。
で、現在に至るまで拷問を伴う取り調べを受け続け、今日になって処刑されたのだった。
「ま、いずれにしてもこちらに影響が出ない限り、私たちの側から何かをする必要はないわ」
「そうだな。小生たちは自分が目指すものを目指した方がいい」
「だねー」
ただこの内乱のおかげで分かった事が一つある。
それはダーラムの正体だ。
ほぼ間違いなく、あの男こそが懲罰部隊の長だろう。
でなければ、内乱の最中に懲罰部隊がドーラムの部下たちと完璧な連携を伴って行動出来た点について、説明がつかない。
そう言うわけで、まあ適当なところで始末させてもらおう。
ドーラムに絶望感を与えるにはちょうどいい相手だし。
「それでソフィア。そちらの進捗具合は?」
「んー、生産の安定化はもう大丈夫だと思うわ」
で、内乱が終わった後だが、混乱は続いた。
まずドーラムに協力をする事で、自身の立場を確固たるものにしたはずのグジウェンが、突如自殺した。
それもマダレム・エーネミ一番の広場の真ん中で、意味不明な叫び声を上げながら自分の喉をナイフで掻っ切ると言うやり口で。
うん、マカクソウ中毒患者マジ怖い。
行動の意味が分からない。
所用で偶々その場に居たけど、『えあやぢじゃ えいほうみまつ えあやぢじゃ えいえmっみまつ えあやぢじゃ ぃおぅみ もぉちゆふぇつ!』とか叫んでた。
正気じゃないのは当然なんだけど、それでもその言動の意味不明さは怖かった。
「つまり後必要なのは……」
「ええ、原料と道具の確保さえできれば、後は完成まで時間の問題よ」
そして、こちらはつい最近の事だが、マダレム・セントールがマダレム・エーネミとの戦いに向けて、活発に動き出していると言う話が、色んな方面から聞こえ始めている。
どうやらこちらは、内乱の影響で一時的にでも戦力が低下している隙を突こうとしているらしい。
尤も、両都市に継戦派が居る以上、戦いが始まるのは戦いを引き分けに持ち込めるような状況が整ってからであろうし、そうでなくとも今の時期に戦いを始めてしまえば、どちらも冬を越せなくなってしまう可能性がある。
と言うわけで、戦いが始まるのは早くても秋の月に入って、諸々の収穫が終わった後になるだろうと、私は考えている。
「そう。やっと……やっとこの腐った都市に終わりをもたらす事が出来るのね」
「ええそうよ。もうすぐフローライト……貴方の願いが叶うのよ」
それはつまり……戦争が始まる前に、私たちの手によってマダレム・エーネミもマダレム・セントールも滅び去ると言う事である。
Q:なんでバルトーロの反乱は書かなかったの?
A:ソフィアの物語には関係しないから
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