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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第2章:三竦みの妖魔
105/322

第105話「エーネミの裏-14」

「これは……驚かされたわね」

 私の中に老人……数代前のペルノッタの知識、技術、記憶、感情、経験、人生、ありとあらゆるものが流れ込み、私の力として定着していく。

 そうして定着する力の中には、老人の正体がただの職人ではなく、数代前とは言え『闇の刃』の魔石加工技術と流通を一手にまとめていたペルノッタである情報など、私が想像だにしていなかった情報も相当数含まれていた。

 勿論、彼が所有していた情報の中には古すぎて、今はもう通用しない情報もある。

 だが、そんな今では通用しない情報も含めて、彼の保有していた情報は私にとってはありがたいものばかりだった。


「さて、逃げますか」

 私は思いがけない成果に笑みを深めつつも、薬として用意されていた酒や油を部屋の中にバラ撒いていく。

 そして『闇の刃』の魔法使いの衣装を身に着けると、自作の魔石で部屋に火をつけ、ベルノートの屋敷から脱出、適当な場所に有った井戸の中へと飛び込む。

 尤も、ただ屋敷から逃げるのではなく、追手に老人が走っているような姿を僅かに見せた上でだが。


「ふふふ、いい土産が出来たわ」

 私は地下水路を駆け抜けながら、笑みを深めずにはいられなかった。


■■■■■


 翌日、ドーラムの屋敷の一室。


「申し訳ありません!ドーラム様!!」

「まったく、地下にまで踏み込まれなかったからよかったものを……貴様も貴様の元に預けている連中もだいぶ気が緩んでおったようじゃのう……」

「申し訳ありません!申し訳ありません!何卒命だけは!命だけはお助けを!」

「ふん、それは貴様の報告と今後の活躍次第。と言ったところじゃな」

 そこでは、商人風の衣装を身に着けた男性が、屋敷の主であるドーラムと、その息子であるダーラムへ向けて、額を床にこすり付ける様な勢いでもって謝り続けていた。


「それでベルノート。被害の方はどうなっている?」

「は、はい……」

 ベルノートは昨夜、自分の屋敷で起きた事件の内容とその被害……つまりは侍女数名と医者が殺され、医務室に火を付けられ、殺された侍女と同じ部屋に居た他の侍女が消え去っている事について語る。

 そして、走り方からして老人と思しきヒトが一人屋敷から逃げ出している事も。


「老人?何者だ?」

「正体は分かりません。が、当時の屋敷の中の状況からして、一人当てはまる者が居ます……」

 ベルノートの身体は、この後に受ける叱責を想像して既に震えていた。

 その顔は青ざめ、冷や汗も大量にかいていた。

 いっそ今すぐこの場で気絶出来てしまえば……ベルノートはそう思ってしまうほどに、追い詰められていた。

 だが言わなければならない。

 調べれば直ぐに分かってしまう事であるし、言わなければ自分の命が危うくなることが確実だったからだ。


「誰じゃ?」

「数代前のペルノッタです」

「!?」

 そしてベルノートがやっとの思いで告げたその言葉に、ドーラムの表情が明らかに変わる。


「な、な、な……ペル……ノッタが……逃げ……ぐぶぅ!?ごほっ、げほっ!?ごほぅ!?」

「父上!?」

 ドーラムの顔はベルノート同様に青ざめ、椅子から崩れ落ち、慌てて駆け寄ったダーラムによって体を支えられるものの、まるで足腰に力が入らないようだった。


「ごほっ、げほっ、馬鹿な!?な、何故奴が逃げ出せる!?奴は……奴だけは決して地上に上げる事も許さず、常に監視も付けておくよう言っておいたはずだぞ……」

「ど、どうやら、火事が起きたその日、ペルノッタは作業中に倒れ、重篤状態に陥ったそうです。そして例の件もあって、まだ死なせるわけには行かないと医務室で治療を行っていたのですが……」

「な!?ベルノート!まさか貴様は一度死にかけた者が復調し、火を点け、屋敷から逃げ出したとでも言うのか!?」

「そ、そうとしか言いようが有りません!事実、焼け落ちた医務室に残されていた死体は一人分で、目撃された人影の周囲には他に誰も居なかったのです!断じて!断じて嘘ではありません!!」

 顔面蒼白の状態に陥っているドーラムの前で、ベルノートは必死の形相でありのままに起きた事を話す。

 だが一体誰が彼の話を信じると言うのだろうか。

 なにせ彼の話が真実であるならば、明日の朝には死んでいてもおかしくない老人が、夜中に突然復活し、何らかの方法でもってその場に居た医者を無力化し、逃げ出したのだから。


「はっ!?まさか内通者が居たのか?」

「私としてはそうとしか思えません……でなければ、一部屋分の侍女が殺されるか消え去っている事にも、こうもあっさりと我が屋敷の警備が抜かれてしまっている事にも説明が尽きません……」

「それならば、その老人のような動きをした誰かも、内通者が老人の振りをしただけかもしれない。ならば……全ての件に説明は付く……か?」

 ダーラムとベルノートの二人は、表面上だけでも冷静な状態を取り繕うと、一体誰が今回の事件を起こしたのかを話し合う。

 そんな中だった。


「はぁはぁ……ピータム、ペルノッタ。何としてでも奴を探し出せ!奴は魔石の加工技術に精通しているだけでなく、遺産のありかについても知っている可能性が高い。何としてでも探し出せ!そしてインダークの遺産を我らが手中に収め……ぐっ!?」

「父上!?」

「ドーラム様!?」

 僅かに呼吸を整えたドーラムがダーラムとベルノートの二人に指示を出そうとして……倒れた。

遺産は何なのでしょうね?

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