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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第2章:三竦みの妖魔
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第103話「エーネミの裏-12」

「無事に侵入は成功……っと」

 数日後の夜。

 私はベルノートの屋敷の中に、誰にも気づかれる事無く入り込んでいた。


「さて、トーコたちは上手く逃げられたかしらね」

 幾らか離れた場所の空を赤く染め上げているのは、私が潜入するにあたって一応の陽動と言う事でやってもらった火事の炎。

 上がっている煙の色からしても、色々とよく燃えていそうな色をしている。

 まあ、井戸のある家を狙って焼いてもらったので、下手人であるトーコたちはとっくの昔に地下水路経由でフローライトの下に戻っているだろうし、ここから先私には他人の心配をしている余裕などないのだが。


「じゃっ、行きましょうか」

 私は周囲にヒトの気配がない事を確認すると、火事の明るさに目を奪われている警備の魔法使いたちの目をかいくぐり、事前の情報収集で住み込みの侍女たちが寝室として使っている部屋の中にもぐりこむ。


「だ……むぐっ!?」

「えっ!?」

 で、騒がれる前に部屋に入った時点で起きていた、もしくは起きかけていた侍女は殺害。

 寝ていた侍女には麻痺毒を注入して動けなくした後、生きたまま丸呑みにしてその記憶を奪い取る。

 これで、ベルノートの屋敷の中がどうなっているのかについて、最新の情報を得る事が出来るだろう。


「これでよし……と」

 その後は?

 最近の基本である『闇の刃』の魔法使いの服装から、背丈の近い侍女の服装へと着替えると共に、侍女の記憶を確認する。

 うん、これで屋敷内に居る全員の顔を把握しているヒトはベルノートの側近数名だけなので、ある程度は堂々と動き回れるだろう。

 夜であっても諸々の用事で侍女が部屋の外を歩いている事はあるようだし。

 で、侍女の記憶の方だが……事前に集めた情報には無かったが、私にとって非常に有利な情報が一つあった。

 この情報が確かならば、無闇に危険を冒す必要が無くなるだろう。

 これは実にありがたい。


「じゃっ、移動開始っと」

 私は部屋の中を覗かれないように注意しつつ部屋の外に出ると、何食わぬ顔で、食べた侍女たちの記憶に沿った歩き方をして、屋敷の通路の中を歩く。

 勿論、遠くで火事が起きていると言うこの状況下で、そちらの方を全く気にしないと言うのもおかしいので、多少そちらへも注意を向けつつだが。


「しかし派手に燃えているな……ありゃあ、誰の家だ?」

「知らねえ。けど、この辺りの家なんだし、どっかの商人だろ」

「ま、ペ……ベルノート様の商売敵の家なら、むしろありがたいか?」

「どうだろうな。ベルノート様の立場上あまり表の商売を大きくし過ぎるのも問題だと思うぜ」

「確かに。デカくなるとそれだけ怨まれるからな」

「いずれにしても、ここの警備だけしてればいい俺らには関係ないか」

「おまけに今は休憩中だしな」

「「「ははははは」」」

 で、目的地に向かう途中にこんな会話とが聞こえてきたわけだが……コイツら酒が入っているわね。

 休憩中とは言え、重要な拠点を守っているんだから、もう少ししっかりと……していない方が私にとっては都合がいいか。


「おい、そこの侍女」

「なんでしょうか?」

「新しい酒を持って来てくれ」

「分かりました」

 おかげで思いっきり顔を見られたのに、何も疑われていないようだしね。

 と言うわけで、酒を持ってくる風を装ってその場を去ると、私は本来目指していたのとは別の、けれど最新の情報に従えば、目的を果たせる場所に辿り着く。


「ん……誰だ?」

 私は扉をノックして、その部屋の主に鍵を開けさせる。


「すみません。先生。ちょっと気分が悪いので……」

「気分が悪いね……ぐっ!?」

 で、中から髭を生やした男性が出てきたところで、周囲に居るかもしれないヒトの目を避けるように男性の首筋に噛みついて麻痺毒を流し込みながら、部屋の中に侵入。

 扉を閉め、鍵をかける事によって、これから先、中で何が起きているのかを分からないようにする。


「なにも……のぎゃ!?」

「はいはい、黙って死にましょうね」

 さて、まずはこの部屋の主だった男性……ベルノート家の医者は侍女の部屋から持ち出した刃物で首を切って殺しておく。

 そして、その後はこの部屋の奥に設置されているベッドに向けて、ゆっくりと歩いていく。


「ゴホッ、ゴホッ。なに……ものだ?」

「あら、起きてたの」

 ベッドで寝ていたのは、見るからに痩せ細っている老人。

 その顔は皺と染みだらけで、髪の毛は白くなるどころか、殆ど抜け落ちてしまっており、ベッドに寝かされている事からも分かるように、明らかに体調を悪くしている。

 歳の事も含めて考えれば、病死する一歩手前と言っても過言ではないだろう。


「これほどまでに濃い血の匂いがすれば、いやでも目は覚める」

「そう」

 だがその目は未だに輝きを失っておらず、一瞬でも余所へと私が気を逸らしたら、その瞬間に顔を殴られ、私が手に持っている刃物を奪い取り、私を返り討ちにするぐらいの事は出来そうな気迫を有していた。

 だから、私は彼が何かをしようとしてもいいように距離を取った上で、その全身と顔の動きに細心の注意を計る。


「それで、この死にかけの老いぼれに何の用だ?」

「そうね。時間も無いし、単刀直入に言わせてもらうわ」

 そして、その状態のまま私は目の前の老人……


「フローライトの願いを叶える為に、貴方の持つ全ての知識と技術を貰いに来たわ」

 この屋敷の地下で、『闇の刃』の為に魔石を加工していた職人との交渉を始めた。

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