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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第2章:三竦みの妖魔
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第102話「エーネミの裏-11」

「あの家がそうなの?」

「ああそうだ」

 五日後。

 私、サブカ、シェルナーシュ、トーコの四人はマダレム・エーネミの片隅に建てられた小さな家を、幾らか離れた場所に建っている建物から眺めていた。


「家長の名前はテトラスタ。家族構成はテトラスタ本人の他、妻、娘二人に、孤児が四人で、計八人だ」

「ふむふむ」

 家の中では、土が均された部分で三十代ぐらいと思しき外見の男性と、その子供たち六人が農作業と思しき行動をしている。

 周囲の注意を引かないようにするためだろうか。

 楽しげな声などを上げたりはしていないが、農作業をしている彼らの姿は、このマダレム・エーネミに入ってからは久しく見かけていない、普通の農村や都市でならよく見られる姿だった。


「ちなみにこの五日間で小生たちが調べた限り、テトラスタの本業は医者だ」

「あらそうなの?ならどうして彼らは畑作業を?」

「『闇の刃』に関係する商人が、真っ当な出来の薬を、自分たちとは関係のない医者に売ると思うか?」

「ああなるほど。納得したわ」

 ただシェルナーシュが暗に言ったところ、彼らが畑作業で作っているのは野菜や穀物では無く、本業である医術行為に必要な各種薬草であるらしい。

 まあ、薬になるどころか毒になりかねないような薬品を売られてしまう立場では、自分たちで薬草を栽培するのも仕方がないか。


「周囲の評価は?」

「付き合いが悪いとか、頑固おやじとかってのはよく言われてるね。でも、他の悪い噂は全部根も葉もない感じだし、怪我人や病人なんかを見かけたら、誰彼構わず治そうとしているみたい」

「何と言うか、今までよく無事だったわねぇ……」

「普通にテトラスタさん自身が強いみたいだよ。『闇の刃』の魔法使い一人や二人程度なら殴り倒して、打撲に効く薬を塗って、それで帰ししちゃうみたい」

「で、それが何度も続くうちに、襲われることも無くなってしまったようだ」

「ふうん……なるほどね」

 怪我人なら誰でも治そうと考える高潔な精神に、『闇の刃』の魔法使いとも戦える腕っぷしか。

 後、ギリギリのラインではあるけれど、『闇の刃』との直接的な関わりも無しと。

 まあ、何と言うか、よく見つけたものだなぁ……とサブカに対して言いたくなる。

 見事にサブカ自身が挙げた条件を満たしているし。


「ソフィア、それでどうだ?あの家族なら逃がして良いと思えるか?」

「そうね。貴方たちの話を聞く限りは、あの家族なら逃がして良いと言えるわ」

「俺たちの話を聞くなら……か」

「むう……アタシたちの言葉を信じてくれないの?ソフィアん」

「まあ、そう言う事を言いたくなる気持ちは分かるがな」

 私の言葉にサブカたちが不満そうな表情を浮かべるが、こればかりは仕方がない。

 本来のフローライトの望みからすれば、あの家族も全員殺すべき対象であるし、私は今日初めて彼らの姿を見るのだから。

 いやまあ、これでフローライトが逃がしてもいいと言うのなら、私も異を唱えないんだけどね。


「まあいいわ。流石に貴方たち三人の目が揃って曇っていたり、あの家の住人が全員貴方たちの目を誤魔化せるような何かを持っているとは思えないし、私も彼らを対象外にする事は認めるわ」

「ほっ……」

 ただまあ、論理的に物を見れるシェルナーシュと、直感的に判断できるトーコ、もしかしたら私以上にヒトらしさと言うものを知っているかもしれないサブカの三人が揃って大丈夫と言っているなら、よほどの事が無い限りは大丈夫だと思うが。

 と言うわけで、私も賛成の意を示したところ、サブカがあからさまに安堵した様子の吐息を漏らす。

 ただサブカに悪いが、一つ言っておく事が有る。


「サブカ、一応言っておくけど、私は彼らを対象外にするとは言ったけど、それは私がやろうとしている事に巻き込まれないようにする方法を教える事によって、対象外にすると言う事よ。つまり、事を起こす前に教えてあげた通りに彼らが動かなかった場合は、その生存を保証する事は出来ないわ」

「分かっている。流石に自分から渦中に飛び込んで行って死ぬようなら、俺も諦める他ない」

「納得してくれてありがとう」

 それは絶対に彼らを助けられる保証は無いと言う事だ。

 まだ、計画の要になるアレが完成していないので、何とも言えないが、アレには対象を区別するような機能を持たせる気はないし、そんな機能を付けられるとも思っていない。

 故に、逃れる為の方法を教えても、彼らがそれを守らなければ、彼らもアレに巻き込まれて死ぬ事になる。

 そう言うわけで、私としては出来る限りの誠意と強制力を持つような形で彼らにアレから逃れる為の方法を教えるつもりではあるが、そこまでしても駄目だった時は、もう私には関係のない事、大丈夫だと判断した三人の目が曇っていたと言う事で済まさせてもらうつもりである。

 ま、こればかりはこちらの人手が絶対的に少ない以上は、仕方がない事である。


「それでソフィア。貴様が調べていたベルノートの屋敷についてはどうなんだ?」

「ああそっちの話?そっちについては多少思いついた事が有るわね」

「思いついた事?」

 さて、話は変わってベルノートの屋敷についてだが、こちらもどうやって対処すればいいのかについては一応思いついた。


「ええ、屋敷の住人の一人を丸呑みにして情報を得た結果として思いついたんだけどね」

「どうするつもりだ?」

 本音を言えば、『闇の刃』の魔石加工技術については一度に全部奪い取って、以後一切の魔石供給を断ってしまいたくはなる。

 が、屋敷の警備状況的に、流石にそれは無茶な話と言う他なかったし、仮にやれてしまえても、アレが完成するまでの間に、マダレム・エーネミがどのように暴走するのかと言う予想もつかなくなる。

 と言うわけでだ。


「まずは私一人で潜入するわ」

 まずは最低限の情報を私一人だけで奪ってくると言う手段を取ることにする。

そろそろエーネミとセントールのイメージ元が読者の皆様にバレてきている頃かと思います。

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