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城下町の門を通ると、そこは様々の人や動物で賑わうメインストリートがお出迎えする。

辺りを見渡すと二匹並んで空中散歩している鳥や、ワイシャツの上にベストを着込んだワニがハットを被り京介の横を通り過ぎる。他にも猿が果物屋を開いていたり、ロボットがストリートダンスを踊っていたりとあまりにも異様な光景に京介は思わず唾を飲む。

そして何よりも京介が驚嘆したのが大勢の奇妙な住人に紛れて人間の姿を発見したことだ。

その姿はどう見ても現実世界で見慣れている人そのものなのだ。どこか懐かしい気持ちになった京介は近くで立ち尽くしていた男に駆け寄る。

「やあ、はじめまして。俺は京介っていうんだけど君も人間かな?」

男は少し怪訝な顔をしながら

「僕はもともとここの生まれだけど…なんのことだい?そもそも人間なんてそうそう居ないよ」

「えっ、君人間じゃないの!?」

京介の顔に影がかかる。

夢の住人であるその男は少し驚いたような顔をして

「まさか君は人間なのかい?」

男の問いかけに京介は戸惑う。夢の世界では人間はどう思われているのだろうか、もし印象が悪いのなら、人間と知った時から取って食われてしまうのではないかと恐怖心が込み上げる。

「い、いや俺は人間じゃないよ。その、人間を探してるんだ」

その場をやり過ごす様な嘘をついた。直ぐにバレるのではないかと内心では心臓がはち切れんばかりに収縮、弛緩を繰り返していたが、男は意外にも笑みを浮かべた。

「そうか、ここで人間を見つけたいならイグリード城へ行ってみるといいよ」

嘘がバレるどころか親切に情報まで教えてくれた男に京介は多少の罪悪感を感じつつも気づかれないように笑顔を浮かべてお礼を言った。

「ここでは人間って印象悪くないのかもな……」

男から離れイグリード城へ歩み始めた京介は小さく疑問を零した。


城下町イグリードの地名の由来ともなるイグリード家の初代王家が創設したイグリード城。城下町のどこからでも拝見出来るその真っ白な城が城下町住民から高い支持を受けているのは、隆々とした逞しさと清楚で可憐な両方のビジュアルを兼ね備えている事はもちろんのこと、厳格な姿勢で権力を行使する中で柔和な一面も覗かせる現権力者イグリードⅢ世と若き姫君にも由来している。

京介は城門を潜るとメインストリートにも負けず劣らずの賑わいを見せている。商店がズラリを立ち並んでいる訳ではない。端から端まで確認することの出来ない程の広さにこれでもかと言う程の人や動物で溢れかえっている。京介の一般的な城のイメージは、城門に見張りの兵士が二人立っており厳重な関所の役割を果たしている。だが、イグリード城はどうだろうか、兵士どころか城門の扉は常時開け放っているではないか。これでは防犯の意味もない。この世界では現実世界でいう犯罪という名の類は存在しないのだろうか。

甚だ疑問である

それだけではない。城に入ればそこには埃の一つもない綺麗な空間にどこぞの横文字が描いた絵画にどこぞの多角漢字が作った花瓶やら骨董品が整列しているものとばかり思っていたが、今目の前に広がるのはまるで銭湯にやってきたかのように和んだ雰囲気が漂い、住民で溢れかえっている。京介はある違和感を覚え城内を歩いてみるとある事に気付いた。どこにも二階へ繋がる階段やエレベーターが存在しないのだ。

「本当にここは城なのかな…。」

未だここが夢の中だと実感がない京介はこの世界への不信を抱く。

仏頂面の京介は一台の機器が目に入る。金属で出来た長方形をしたその物体は天井を向く面にタッチパネルが付いている。操作性を追求してか、少し傾斜が掛かっており見やすい構造だ。どう見てもそれは…

「券売機?」

駅にある券売機の余計な部分を全て削ぎ落としたそのフォルムは駅にあるそれよりも最新鋭の技術なのだろうか。

京介は恐る恐るパネルをタッチしてみると、機械的女性の音声が流れだす。

「こんにちは、希望の小キューブコードを入力してください」

わっと、小さく仰け反りキャンセルボタンを探すがそれらしきボタンが見当たらない。

あたふたしている京介の後ろから男性の声が聞こえる。

「あのぅ~何かお困りでしょうか」

その後に女の人の声で

「もう、ほっとけばいいじゃないか。お前は本当にお人好しなんだから」

振り向くとそこには見覚えのある顔が二つ並んでいた。

「えっ…魔王デモルガン!?」

授業の最中に居眠りをした時に王女に頼まれて魔王デモルガンを倒した夢を見たのだ。その時に勇者京介は魔王デモルガンを難なく倒し、王女と結ばれた。目の前にいるのはまさにその時の魔王デモルガンである。

ふいに横にいた女が割り込む。

「おやおや、最近遊んでやった餓鬼じゃないかい」

そちらに目をやると

「わあ、王女までいるじゃないか、一体どうなっているんだこれ」

デモルガンは取って食うような顔つきで京介の顔を確認する。

「これはあの時の人間ですか。珍しい、一体ここで何をやっているんだい?」

眉間にシワを寄せ不機嫌にしか見えない顔つきとは対照的に声、言葉遣いはとても温厚な性格が見て取れる。

「ほらほら人間風情が邪魔すんじゃないよ。使い方知らないなら邪魔さ。あっち行きな」

「こら、リリスこの子は困っているじゃないか。助けてあげようよ」

デモルガンの宥めも虚しく、王女リリスはフンとを鳴らして券売機らしき金属機器に近

寄る。

京介は恐る恐る

「王女はリリスという名前だったのか…。にしてもその口調は随分と夢の時とは違うな」

頭を人差指でポリポリを掻きながら、愛想笑いを浮かべる京介をリリスは一瞥してから

「あたしはか弱い王女を演じるのが仕事だからね、普段と一緒にするんじゃないよ」

そう言うとまたパネルの操作を続ける。そしておもむろに券売機に話しかける。

「Brave Training story」

丁寧に一つ一つの単語を発音してからパネルをタッチするとリリスは何事もなかったように振り返る。

「さあ、行くよデモルガン」

デモルガンは体格の良い体をもじもじさせながら

「僕はその人間を、その案内してから行くよ。僕の出番は後半だからね。先に行っておくれよリリス」

はぁーっと大袈裟にため息をついたあとに「そうかい」とだけ言い残しリリスは去っていく。

一連の成り行きを見て状況を飲み込めずにいる京介にデモルガンは

「ごめんな、リリスは言い方こそ荒っぽいけど、中身はとても温かいんだよ」

どこか楽しそうに話しているのは気のせいなのだろうか

「ところで君の名前は?」

「あぁ、二条京介だ。京介でいいよ」

京介の握手を求める手に少し照れくさそうに答える。大きなデモルガンの手は京介の手を覆うほどで、とても握手とは言えないものだが、気持ちは伝わったみたいだ。

様々に行き交う住人を目で追いながら京介はデモルガンから貰ったドリンクに口をつける。

「驚いたな。こんな所にカフェがあるなんて」

「そうだね。ここは僕たちの仕事場なんだよね。だから、息抜きする場所も必要なんだよ。」

「仕事場?だって、ここは城じゃないのか?」

デモルガンはまた照れたように話し出す。

「ここイグリード城の一階はね。僕たちの仕事場と繋がる大切な機能を果たしているんだよ。この世界は大キューブと小キューブから成り立っていることは知っているかい?」

「ああ、それは教えてもらったよ」

「では、二つの違いを知っているかな?」

暫く考え込んでから答える。

「大きなかな…?」

デモルガンは静かに微笑を浮かべる。

「確かに大キューブの方が遥かに大きいが、それだけじゃないんだ。僕たちは皆大キューブの中で生活している。そして、一部を除いて皆仕事を持つのさ。人間たちに夢を提供するという仕事をね」

「えっ、夢を提供する!?」

「そうさ、僕たちの仕事は君たち人間に夢を提供することなんだ。そしてその場所こそ小キューブという訳なんだよ」

京介は驚きのあまり声が上手く出せない。それでも必死に声を絞り出す。

「えっ、じゃあ、例えば俺が見た魔王デモルガンを倒して王女と結婚する夢ってのは……」

「あれは僕たちの小キューブであるBrave Training storyに君が来て、夢を見ていたのさ」

「ちょ、ちょっと、待って。全くついて行けないんだけど…」

唐突な展開に混乱している京介にさらなる追い討ちをかける。

「ははは、分かりにくいかな。僕たちは大キューブで生活し、お金を稼ぐために小キューブという仕事場で人間に夢を提供する。夢のシチュエーションは無数にあってその数と同じくらい小キューブは存在する。僕の所属しているBrave Training storyという小キューブはその無数になる小キューブの内の一つという訳だよ。そしてここは大キューブと小キューブを繋ぐ言わばインターフェースのような場所さ」

流暢な話にまだ目を回している京介を見てデモルガンが言う。

「そうだね。そろそろ僕も仕事の時間だしな。実際に夢の中を体験してみるかい」

「そんなことが出来るのか?」

「小キューブで働くには登録が必要だけど見学する分には全く構わないさ」

そう言い終わると立ち上がり近くの券売機らしき金属機器を操作する。おそらくはあの機械は大キューブから小キューブへ行くための手続きをしる機械なのだろう。

推測を立てている京介の元に戻ったデモルガンが「行こうか」とだけ言って歩き出す。


【魔法】

生まれ持った才能を持つ者だけが扱える魔術。

魔法を使用するには媒介として声によるスペルが詠唱が必要となる。

魔法には一般スペルとオリジナルスペルがある。

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