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暗闇の中で目が覚める、正確には意識があるとでも言うのだろうか。全方位が暗闇に包まれた空間の中で京介は考え事をしていた。これは夢の中で夢と気づいてしまったのではないかと。いくらか前に啓太が話していた事を思い出す。

啓太は夢の中でいつもの様に学校で授業を受けていたのだという。だが、そこで異変を感じたのだ。教師が持っているチョークがいつの間にかちくわに変わっており、周りは気づかないのかと見渡してみれば、皆もちくわを持ってノートに何かを書き込んでいるという。

そこで啓太は今いるこの場所が夢の中なんだと察知したという。それからというもの学校を滅茶苦茶にしたりと夢の中を堪能した話を啓太が執拗に聞かせてきた。

なんとも良く出来た作り話だ。

その時はそうやって聞き流していたが、今のこの状況はどう流そうものか。

自分のベッドで横になったのは覚えている、ということはここが夢の中なのだと納得する。

全方位が闇に囲まれる中で前方に僅かに光が漏れている。京介は光の指す方向に歩き出した。

近づくにつれてその光は大きさを増し、それと比例して輪郭も浮かび上がって来る。最初は円形だった光は長方形へと形を変化させ京介の背丈を超える程の大きな扉が姿を現した。

光の正体はその大きな扉の先から漏れており、京介は恐る恐る扉に手をやり軽い力で押してみる。少しの力で摩擦音もなく開かれた扉の先には一面に広がる青い空、その下にはキャンパスに描かれているかのように美しい新緑の世界が広がっている。

京介はあまりにも美しい世界に言葉を失っていたのも束の間、自分の置かれている状況に気づき、足が震える。

一面に広がる緑の大地を一望出来るこの場所は高度何千メートルなのか見当もつかない。

ただ、今立っているこの闇の世界から扉を一歩出た先には快晴広がる緑の世界が口を開けて待っている。

ここから落ちれば少なくとも生きてはいられないだろう。

京介が一歩後ろへ下がったその刹那、どこからか風が吹き荒れる。扉の先が陰圧に変わり、強烈な吸引力が京介を襲う。

「ま、まずい!!」

抵抗する間もなく扉の外側に放り出された体は重力に従い急降下を始める。

「うぉ、うううおぉぉーー」

風の抵抗と重力の対決で重力が勝り、京介はさらに加速していく。恐怖と混乱で焦点の合わない2つの眼が辛うじて見据えた先には京介を飲み込むとばかりにぱっくりと口を開けて待っているかのような新緑の大地が見てとれる。

次第に近づく地面に京介は覚悟を決め眼を閉じた。


ふと目が覚める。夢から覚めたのだろうか。いや違う、周りを見渡すと木々が生い茂っている。上を見上げればさっきまで落下してきた時には満喫出来なかった位に快晴が広がっている。密林とでも言うのだろうか、樹齢何百年も経っているのであろう立派な木が綺麗に整列し、枝を伸ばしてお互いに喧嘩している。

重なり合う枝とそれを覆う葉の隙間から木漏れ日指すこの世界は、ベッドに寝転んだはずの部屋の景色とはかけ離れている。

では、ここは一体どこなのだろうか。現実世界とは考えにくい。さっき上空何千mから落下したはずなのだが体には目立った外傷は見当たらない。

ということは考えられるのは2つのパターン、1つ目は夢の世界であること、もう1つここが死後の世界だと言うこと。

前者ではあるならば上空何千mから落ちても傷ひとつ見当たらないのも納得出来る。

後者であるとするとここは差し詰め天国というわけだ。さっきの扉のある暗闇の部屋は罪人と良人を仕分ける審判の部屋であろう。でも、噂の閻魔様の姿が見られない。それに、死んだ記憶が全くない。考えられるとすれば寝ているあいだに家が火事になり、意識が戻る間もなくこっちの世界に来たってところか。

どちらの仮説も大変馬鹿馬鹿しい話だが、それ以上に奇怪なこの状況を説明するにはこれくらの突出した考えになるのも必然であろうと思う。

兎にも角にもここにじっとしても何も解決しないということだけが明白な事実であり、すこし歩いてみようと腰を上げた途端、真下から奇声があがる。

「うぎゃぁぁ」

自分一人だと思い込んでいた京介はその場から素早く離れる。

「誰だ!」

素早く辺りを見回しても人らしき影も見当たらない。見渡す限りの木々とその中に一際大きな笠を持ったキノコが1つ。そのキノコは人の腰以上の背丈で異常なまでの存在感を放っていたが奇声を上げるようなものは何もない。

「そこのお前、このワシを押し潰しておいて謝罪の言葉もなしか」

もそもそと笠を揺らしながらキノコが動く。

「えっ、ちょっ、うそ」

そのキノコと思われる物はその場でぐるりと回転しながら続ける。

「全く、このワシをこれほど待たせておいて人間とやらは好かんの」

回転したキノコに柄には立派な髭を生やした人間のような顔がついていた

「げっ、人面キノコ…」

「な、なんという侮辱。ワシは香り高きキノグフ族の長を務めるカラザという名があるのじゃぞ」

「カラザ?カラザってあの卵の黄身についてくるなかなか取れない白いもの…」

「ええいうるさい、何をさっきからごちゃごちゃと。王もなんでこんなに頼りない小童を選んだものかのぅ」

キノコのような物体でカラザと名乗るそのものは大きな笠から伸びる顔と胴体の区別のつかない柄の側面からポコっと手を生やしてから、地面に手をつき地面に埋もれいる部位をよいしょと引き抜いてから体についた土を軽く払うとこちらを見据えた。

改めて全身を見ると顔のある大きいキノコに手足が生えた姿はまさに妖怪そのものである。

「ふふ、香り高きこのワシに見とれて何も言葉が出ないという訳かい。まあ、良い

。まずはホスト探しじゃついておいで」

カラザはもう一度体を回転させて頭の大きな笠を揺らしながら獣道を歩き出した。

「ちょっと、待てよ」

京介は頭の整理がつかないままカラザの背中を追いかける。


どの方向にどれだけ歩いたのか検討もつかないまま道なき道を歩き続けると少しずつ視界が開けて来た。

「なあ、カラザ。一体どこに向かってるんだこれ」

歩き疲れた京介が問いかける。

「この先にはイグリードと呼ばれる大きな町がある。そこにはその町を治める王家の住むイグリード城があり、この世界の中心核となる場所なのじゃ」

「ふうん、ほとんど意味が分からないけど、要するにイグリードっていう地名からここは日本じゃないのか?」

カラザはこちらを見ないで返答する。

「日本じゃと?おそらくあちらの世界の地名なのじゃろう。歩きながらもなんじゃからのう。それ、そこに家が見えるじゃろう。町外れの小さな家じゃがワシの家じゃ、そこでゆっくりと話すことにしよう」

カラザは少し歩くスピードを早めた。


何重にも積み重ね作られた侵入者を拒む石壁に囲まれた城下町イグリード。石壁から顔を覗かせる一色白で統一された城が見える。遠目からでも圧倒される様なイグリード城は世界の中心核という説明を納得せざるおえない程立派である。

この城下町イグリードには一本の川が北から南にかけて流れている。城下町イグリードの北には高い山々が連なる。そこから湧き出た綺麗な水は小さな水路の枝を伸ばし、次第にそれらが合流して大きな川が形成される。北から南に城下町を横断するその川を辿っていくと城下町からは数キロ離れたところにいくつかの集落が見えてくる。

その一つであるフーシャと呼ばれる村の村長を務めるキノコことカラザの家に京介は招かれていた。

テーブルの椅子に腰掛けているとキッチンからカラザが何やら得体の知れないドリンクを手に取り京介の目の前に置いた。

「そういえば小童。まだ名前を聞いていなかったのう」

そう言って飲み物を啜る。

京介も勇気を出して一口流し込んでから

「俺の名前は二条京介だ」

「ほう、京介か。では京介聞きたいこともいくつもあろう、まずは何から聞きたいか」

想像以上に美味なその飲み物に驚き、もう一口含んでから答える。

「そうだな。まずここは一体どこなんだ?どうして俺がここにいる」

「ここはだな、お前たち人間からすれば夢の中の世界じゃ。まあ少し語弊はあるがな、そう考えて良いじゃろう」

京介はやっぱりか思った。それと同時に死後の世界では無く胸を撫で下ろす。

「いいかよく聞け。この世界はお前たち人間とは異なる世界じゃ。この世界の構造は一つの宇宙系といっても過言ではない。ワシ達が今いるここは大キューブと呼ばれる大きなキューブの中に存在しておる。そしてその周りを無数の小キューブが取り囲んでおるのじゃ」

そこまで説明したカラザは一つ咳払いをするとさらに続ける。

「人間がこちらの世界に来るためにはホストが必要なのじゃ」

「ホスト?」

京介が首を傾げて繰り返す。

「うむ、ホストすなわち宿主のことじゃ」

カラザはどこからともなく取り出した手のひらサイズの円盤をテーブルに置いた。

「これはなんだよ」

「これはホストがお前を呼び出すときに使用する共鳴盤というものじゃ」

「共鳴盤?じゃあこれを使って俺をあの森に呼んだのかよ」

京介は共鳴盤と呼ばれる円盤を手に取り観察するが特に変わったことは起きない。

「今は仮契約でワシがホストとなって呼び出したが、次からはお前がこの世界の住人とホストとなる契約を交わす必要があるのじゃぞ」

「別にキノコ爺さんがそのまま俺のホストになってくれればいいじゃないか」

京介は涼しい顔でカラザを見つめる。

「キノコではないカラザじゃまったく。いいか京介、人間のホストになるということはそいつを呼び出す、現実世界へ帰すことはもちろんのこと呼び出してからは基本的に一緒に行動をしなければいけないのじゃ、忙しい中でそんなことに付き合う奴はワシを含めてもそうそうおらんよ」

カラザは話し疲れた様にぐったりと笠を下げている。

「要するに俺はここ誰かと契約しないと現実世界には帰れないということなのか」

理解した上で焦る素振りも見せずにジッと下を見つめて考え込む。

「物分りの早い人間でよかったわい。悪いがワシは少し疲れた。もう休ませてもうぞい。京介お前はイグリードへ行っておいで、あそこはこの世界の中心じゃ。こちらの住民がうじゃうじゃいるわい」

そう言い放ったカラザはのしのしとベッドに歩み寄るとゆっくり腰掛けた。

「ありがとう爺さん」

京介は家の扉の前でピタリと止まる。

「最後に一つ教えて欲しいことがある」

「何じゃ」

「現実世界の俺は今どうなっている」

「おそらくは寝ているじゃろうぐっすりとな。ここへは寝ている時にしか来られんからのう」

京介は振り向き安心したありがとうとだけ言って家を出ようとした。扉を閉めようとしたその時に後ろからカラザの声が聞こえた。

「最後に言っておくぞ京介。現実世界に帰る方法は契約したホストに返してもらうか。

現実世界で誰かに起こしてもらうか。それとあと一つ、こちらの世界で死ぬかじゃ。最後の選択はおすすめしないぞい。イグリードまで気をつけて参れ。また会おう。」

京介は言葉が切れると静かに扉を閉めた。


【マシュマロ】

埼恭高校の近くに店舗を構えるカフェテリア。

大通りに面していて立地条件は最高なのだがなかなか客足には結びついていない。

バイキング制度を導入してから店が繁盛し始めたものの

今度の店長に悩みは自慢のコーヒーが売れないことであるという。

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