第90話
白いプロテクターにボディスーツ、そして思念を込めることで伸縮するマント。
両腕には、防御だけでなく攻撃を想定した構造の、二の腕を包むような籠手。
以上が、ブレイブクローンの基本装備。
ベースである一条宇宙の、徒手空拳と風を組み合わせて戦うスタイルに合わせ、設計された事が伺える装備。
「……朝霧裕樹、一条宇佐美、消去」
「っ!」
ガシイッ!!
しかし、目の前のブレイブクローンの装備は、それらの質は量産した物ではなく、完全に特注したとしか思えない様な頑丈さと柔軟さを持ち――
通常のブレイブクローンの装備を斬り裂いたユウの刀、“焔群”のぶつかりあいにもなんなく耐えて見せた。
「――総員下がれ」
「……嘘だろ。全部、宇宙の動きその物?」
ユウとのぶつかり合い後、周囲のブレイブクローン、ブレイブトレースに指示を出し、周囲がその指示に従い後退。
しかしそれに構わず、ユウはひたすらに混乱していた。
ブレイブクローンは、所詮は量産する事前提の劣化コピー。
系譜のブレイカーを持っているとはいえ、付け焼刃の宇宙のデータを使用した所で、本物に追随する様な実力はない。
更に言えば、スペック上は上級系譜クラスといえど、所詮はスペック上。
実戦で言えば、下級系譜を上回っているだけで、実際の上級系譜には多勢対1でしか勝てない程度でしかない。
小組織相手ならそれでいいのだが、大罪に美徳クラスの組織との戦争での使用法は、スペック任せに多勢攻撃を仕掛ける。
その戦法で、正義の軍勢は嫉妬のナワバリの半分を殲滅するに至っている。
「…………!」
しかし、目の前のそれは違う。
装備もさることながら、動きや攻撃の威力。
更には、能力の使い方まで、機械的に植え付けられた物とは思えない程、かつての宇宙のそれと酷似している。
何より決定的な物が、無傷で光一に――上級系譜久遠光一に、致命傷ともいえる傷を負わせ、破った事。
「……よくも」
「え?」
「よくも……殺し……たな」
「っ!」
そう呟かれ、ユウは揺らいだ。
そこを狙い、指揮官ブレイブクローンは両手に風を纏わせ、駆けだす。
「くっ……!」
突き出される腕に、ユウは両腕をマグマで包みガード。
ドゴっ!!
「うっ!?」
しかし来たのは風の腕ではなく、蹴り。
脇腹に突き刺さった左蹴りで、ユウは体勢を崩し――
「――“旋風乱舞”」
蹴りの勢いを利用して身体を回し、正拳突きを顔面に。
そこから流れるような動作で、回し蹴りをユウの背にたたき込み、地に手をついてもう片足で足払い。
宙に浮いたユウの身体をマントで包むように抱え、指揮官ブレイブクローンは飛び上がり……
ユウを脳天から、地面にたたきつけた。
「……」
指揮官ブレイブクローンはユウから離れ、ゆっくりと――
「宇佐美……兄さんに」
「……え?」
「お前を……八つ裂きにさせてくれ」
両手に風が渦巻き、掌に集中すると同時に螺旋を描く爪を模る。
一歩踏み込み、その爪を纏った腕を振り抜くと、螺旋の爪が宇佐美に襲いかかる。
「きゃあっ!」
「ナツメちゃん!?」
それを咄嗟にナツメが割り込み、愛用の金属棒を使い盾を構築。
その盾も紙のように破られ、ナツメの身体が斬り裂かれた。
吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられ気絶したナツメに駆け寄り――。
「――邪魔が入ったか」
その言葉で、宇佐美は――
「――なんでこんな事を?」
「……何を、言っている? 俺は、宇佐美を八つ裂きにすると、言った」
「違う……兄さんはこんな事」
「……悪い子は、死になさい」
指揮官ブレイブクローンが、宇佐美に向かって拳を振り上げ……
ガシイッ!
「ユウ!?」
脳天から血を滴り落ちたままのユウが、それを遮った。
「お前か……宇佐美を、たぶらかしたのは……」
「っ!」
「俺を……殺しただけ……じゃ、飽き足おらず……よくも!」
轟音が響くと同時に、周囲に風が巻き起こる。
指揮官ブレイブクローンが手をかざすと同時に、風がその掌に集まり――綺麗な球体に。
「――死ね」
風の球体をユウめがけて放り投げると、球体は破裂。
そこから暴風が巻き起こる――
「させない!」
――前に、宇佐美がけだし風の球体を両手で掴み、抑え込み始める。
「バカ、やめろ! お前じゃ無理だ!!」
「――なら迷わないで!!」
「っ!」
「ユウは、あたしに嘘をついてたの!?」
「――つく訳ない。俺は……俺は」
宇佐美の掌が風でズタズタになり、血が滴り落ちる。
それに構わず、宇佐美は抑え込み――
「なら、あたしがユウを許す」
風の球体は宇佐美に制御され、上空へと放り投げ四散させた。
「宇佐美……兄さんを、裏切るのか……?」
「あたしは兄さんの事、誰よりも大好きで、誰よりも信じてる――兄さんは」
宇佐美は血の滴り落ちる拳を握りしめ、ブレイブクローンに相対する。
「――兄さんは、こんな人じゃない!」
「――宇佐美……俺の言う通りに、ならないと言うなら、殺す」
「兄妹だから――それだけで何もかもが上手く行くなんて、幼稚な人でもない!」
「総員かかれ!」
指示が出され、周囲のブレイブクローン、ブレイブトレース達が一斉に構える。
ブレイブクローンが四肢に風を纏わせ、ブレイブトレース達は内蔵武器を展開し、宇佐美に――
「“迦具土”」
襲いかかろうとした瞬間、マグマの竜に薙ぎ払われた。
「ユウ!」
「――すまん、目が覚めた」
「ユウ、貴様!」
「――その先はあの世でだ」
六連を2本抜き、二刀流の構えをとり駆けだすユウ。
両の拳を握りしめ、駆けだす指揮官ブレイブクローン。
「はああああああああああああああああああああああああっ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
数年の時を経て、正と負の勇者はぶつかり合う。
――偽りの身体、偽りの意思、偽りの正の勇者と。




