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大罪と美徳  作者: 秋雨
第5章 肯定する者、否定する者
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第88話 エピローグ

「んにゃ~……」


男が気の抜けるあくびの様な声。

それが巨大なビーカーの立ち並ぶ施設内の、機械音にかき消され……


「いや~っ、よく寝たよく寝た。ぼくちん今日も絶好調……だと思う多分。って、どっちだよ!?」


…………


「……やっぱぼくちん、こういう才能ないな~。まいいや」


ただなんとなくでの言葉を言いたいだけ言って、勝手に納得

肩まで伸びた髪、無精ひげの目出つ冴えない顔に、研究者らしい白衣を纏う、ぬぼ~っとした雰囲気の男は、やりたいだけやると歩み始める。


「~♪」


鼻歌を歌いながら。


「さて……今日も始めよっかね~」


指紋照合ロックを開け、男は更に中へ。


「おはよ~、一条宇宙君たち~」


中に男が――今は死した前勇気の契約者、一条宇宙のクローンが入っているビーカーが、無数に立ちならぶ室内へと。

男は――東城太助は、入って行った。


ぴーっ!


「ん? は~い」


呼び出し音が鳴ると、顔をパシンとたたき……


「はい、こちらは東城太助です」


先ほどのだらけた雰囲気など微塵も感じさせない、きりっとした表情と喋り方へと転身した。


『やあ、太助君。首尾はどうかね?』

「おかげさまで順調です。ブレイブクローン、ブレイブトレースは予定数もうすぐ達しますよ?」

『そちらもだが、“Si-Xiong”はどうかな?』

「身体の方はほぼ完成ですが、食欲旺盛で尚且つ人間が好物……と言うお望み通りの物にした場合、並の合成獣使いでは」

『必要はないさ。大罪どものナワバリに放ち、そこに住む者達を食い散らすだけでいい』

「残酷な事をなさいますね?」

『残酷? バカ言え、負の契約者の家畜など存在する事自体が罪。これはいわば、正義の鉄槌だよ。北郷正輝殿の意思を我らが受け継ぎ、真なる秩序を我らが齎すのだ』

「ならばこちらには文句はありません。今すぐ出せますが?」

『ならば頼もう。正しき世界を築き上げる為にな』


プツッ!


「……アーホくさ。系譜にもなれない低俗なビチグソどもが、マー君の何がわかる?」


通信の切れた途端悪態をつき、太助は先ほどと同様ヌぼーっとした雰囲気を纏い、だらけてしまった。

こつこつと、ビーカーの立ち並ぶ中に伸びる通路を、ひたすらに歩き――その先の扉を開ける。


その中にある、巨大な4つの巨大生物が入ったビーカー。

端末に歩み寄り、操作を始め――


「戦争により英雄が君臨し、その英雄が築き上げた秩序を、身勝手に喰い荒す輩が戦争を起こし、それを英雄が撃ち砕き、新たな秩序を築き上げ、それもまた汚される」


ビーカーの内容液が抜かれ、上部の天井が開かれる。

ビーカーがせりあがり、地表へと姿を現し……


「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」


解放されたと同時に吠え、それぞれ別方向へと駆けだしていった。


「汚され続ける理想郷――それがこの世界であり、人間社会」


太助はモニターでそれを見届けると、踵を返しその部屋を出る。


「――出来れば見せて欲しいよ。人間はまだ、この理想郷に棲むに値するかどうか。ぼくちんの幼馴染が……マー君が守ろうとした世界は、一体どれほどの価値があるとみられてるのか」


ブレイブクローン、ブレイブトレース

完成し、休眠状態にしてあるそれのビーカーの内容液を抜き、その下の階へとリフトダウンされて行くのを見届け――。


次に駆けだしたのは、先ほどの部屋のさらに奥の部屋。


「一条宇宙。君はぼくちんにどういう感情を抱くんだい?」


そこに備え付けられた端末を操作し、最後に使用する物を起動する


「憎しみ? 感謝? ……君が憤怒に殺された理由、わからない以上どちらか等わかりはしないが、これから間違いなく恨むだろうね」


中にある、先ほどまでとは雰囲気の違うビーカー。

その内容液が抜かれ、その中の存在がゆっくりと目を覚ます。


「――何せ、盗んだ死体から摘出した大脳を埋め込み洗脳した、ぼくちんの最高傑作として憤怒と妹を殺させるんだから」


ビーカーが壊され、その中の――一条宇宙クローンが、ゆっくりと外へ出てくる。


「――その後でいいなら、ぼくちんを好きなだけなぶらせてあげるよ。まあ、君が敗れた場合は、憤怒に細切れにされるだろうしね……ごめんよマー君。勝手な事をして」



「……!」


どことも知れぬ異空間。

そこに幽閉され、8ヶ月になる北郷正輝は、虫の知らせの様な物を感じ、顔を上げる。


「……どうかしたか?」


瞑想をしていた白夜が、些細な変化に気付き声をかける。


「なんでもない」

「出たくなったなら、正義のブレイカーは返して……」

「世界崩壊に伴い居場所など存在しない以上、我にはそれを手にする意思も、ここを出る意思も、生きる理由もない……意味もなく生きる事等、苦痛以外の何物でもない」

「それ以外を探す気はないか?」

「ないな。世界情勢を考えれば、我は間違いなく異端者――害にしかならん。ならば潔く引き下がるさ」

「――お前がそう言うなら、その意志くらいは尊重してやる。だが、しばらくこの空間で退屈を享受していろ」

「死ぬまで幾らでも享受するさ……我は負けたんだ」


白夜が空間を叩き割り、その場を去り……


「……太助。お前はどうしている?」



白夜が出た先にて。


「どうした?」

巨大ヒュージ合成獣キメラと思わしき生物が、ナワバリを襲い人を食い荒らしています!」

「迎撃は?」

「――全員食べられました!」

「ならば私が出よう」

「え? そんな……あっ!」


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