第85話
「ちょっと良いかい?」
知識が出て行ってすぐ。
「ん? ああっ、どうしたんだよ」
「え!? ちょっ、ちょっとユウ!」
「久しぶりね、ユウ君。大きくなったわねえ」
ユウと宇佐美が話している所へ、1人の来訪者。
上等なスーツと、人の良さそうな雰囲気に身を包んだ年配の女性、政府首相井上弥生。
「初めまして。政府首相、井上弥生です。あなたが宇宙君の妹さんね?」
「はっ、はい! あの、はじめまして。一条宇佐美です!」
「そんな緊張しなくていいのよ。立場は同じなんだから、ただのお人よしなおばさんと思ってくれればね」
そう言っての、笑顔を浮かべて手を差し伸べる。
宇佐美は恐る恐る手を差し出し、握手。
「良い目ね。最後に会った頃の宇宙君を思い出すわ」
「兄さんを?」
「ええ……あんないい子が、逝ってしまうなんてね」
「……」
そこでユウは、目をそらした。
「――あの。ユウは」
「わかってるわ。ユウ君が宇宙君を殺したなんて、嘘だって知ってるから」
「え?」
「真相まではわからないけど……この2人は互いに争い合う大罪と美徳の中で、一番最初に手を取り合ったんだから。それが途切れる事自体、怪しいと思わない方がおかしいわ」
「……」
自分にはわからない事。
宇宙の契約者としての顔は、宇佐美は殆ど知らない。
美徳の1人、正の勇者。
そう言った評判から、批評まで宇佐美はよく耳にはしていた――そして、数える程度しか見た事がない、正の契約者としての立ち振る舞い。
その対の、未だとどかない負の勇者の強さ――身内の贔屓かもしれないが、今も尚自分の目には焼きついていた。
「――辛くは、ないかい?」
「え?」
「失われた勇気のブレイカー。宇宙君の妹が持ってて、それが原因で騒動が起こったって聞いてから、ずっと心配だったのよ」
「……大丈夫です。始まりこそ巻き込まれて、だけど。そこからはあたしが選んだ事だから、後悔はしてません」
「ならよかったわ……これからもよろしくね。宇佐美ちゃん」
「はい」
「宇佐美。早くこっち来て」
「そろそろ、予定の」
「あっ、はーい!」
月と怜奈に呼ばれ、宇佐美は駆けて行く。
この後ラッキークローバーの、友好記念ライブが行われる事となっている。
「それにしても、流石は宇宙君の妹ね」
「――ああ」
「まるで宇宙君と話してるみたいだったわ……血は争えないわね」
「……理解してるよ。誰より――ただ、時々巻き込まずに済んだんじゃないかって、そう思う事はある」
「悔いない生き方と、悔いない事は意味合いが全く違うわ……悔いるから、人は人で居られるのよ。でなければ、人は決して先へは進めないもの」
「――違いない」
――そして。
「はーい、みやちゃんですよー」
「「「みーやちゃーーんっ!!」」」
「さやかお姉さんは元気で~す。みんな元気~?」
「「「ハッスルハッスル!」」」
「歩美です。よろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
「皆お待たせ―!」
「「「宇佐美ちゃーん!」」」
場所は変わり、人が多く集まる場にて。
特設会場で開かれたライブには、多くの人が集まっていた。
「……良い仲間にも恵まれてるのね」
「みたいだな」
勿論その場には、首相もいた。
――ユウ、シバ、アスカ、凪を護衛に据えて。
「美徳としては合格じゃねえか? 少なくとも、人を引き付ける力は持ってんだからよ」
「うんうん。人を引き付ける事って、難しいから」
「――くだらない人間の元には、くだらない人間しか集まらない……彼女は大成する」
シバ、アスカ、凪の3人も、それに続く。
「そりゃそうだ。大成してくれなきゃ困る」
「だろうな――てか、考えてみたらお前だけなんだよな」
「なにが?」
「対が異性の奴」
「……そう言えば」
シバの話題の内容に、対して意識してなかったユウだった。
「そこのところどうなのカナ?」
「――朝霧裕樹は一条宇佐美に、友情以上を今のところ持っていない……100%」
手にしたタロットを周囲に浮かせながら、数枚を指で弾いては手元に引き寄せる。
それを繰り返す誠実の契約者、御影凪がそう答えた
「勝手にしゃべるなよ……まあ、事実だけど」
「なーんだ。つまんな……くもないか。じゃあ、これから愛情を抱く可能性は?」
「――50%」
「あらあら。その時には仲人やってあげるから、頑張りなさい」
「50%はならないし、現状どうにかせん事にはそれどころの騒ぎでもないし」
「若い上に、負の勇者なんて呼ばれてるのに」
「これに勇者の肩書関係ねーだろババァ」
――所変わって。
「? 何をしている、久遠?」
「ああっ、黛か。量産型クエイク製造ラインの拡張契約と、資金のやりくり」
「お前も大変だな」
「別に、自分で選んだ場所だからな……第一、望んでここに居る訳じゃない、何て人間社会で通用する訳もないし」
「――テロリスト達に聞かせたい物だな」
コツ……コツ……
「! ああっ、傲慢の……」
「…………」
そこへ白夜が通りかかり……目もくれず、去って行った。
「相変わらず、不気味な男だ」
「…………」
「久遠?」
「……やっぱり、葵んトコの地主さんに依頼してみようかな?」
光一も考えにふけ、目もくれてもいない。
黛には何故かそれを、特に理由もなく偉く不自然に感じていた。




