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大罪と美徳  作者: 秋雨
第5章 肯定する者、否定する者
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第85話

「ちょっと良いかい?」


知識が出て行ってすぐ。


「ん? ああっ、どうしたんだよ」

「え!? ちょっ、ちょっとユウ!」

「久しぶりね、ユウ君。大きくなったわねえ」


ユウと宇佐美が話している所へ、1人の来訪者。

上等なスーツと、人の良さそうな雰囲気に身を包んだ年配の女性、政府首相井上弥生。


「初めまして。政府首相、井上弥生です。あなたが宇宙君の妹さんね?」

「はっ、はい! あの、はじめまして。一条宇佐美です!」

「そんな緊張しなくていいのよ。立場は同じなんだから、ただのお人よしなおばさんと思ってくれればね」


そう言っての、笑顔を浮かべて手を差し伸べる。

宇佐美は恐る恐る手を差し出し、握手。


「良い目ね。最後に会った頃の宇宙君を思い出すわ」

「兄さんを?」

「ええ……あんないい子が、逝ってしまうなんてね」

「……」


そこでユウは、目をそらした。


「――あの。ユウは」

「わかってるわ。ユウ君が宇宙君を殺したなんて、嘘だって知ってるから」

「え?」

「真相まではわからないけど……この2人は互いに争い合う大罪と美徳の中で、一番最初に手を取り合ったんだから。それが途切れる事自体、怪しいと思わない方がおかしいわ」

「……」


自分にはわからない事。

宇宙の契約者としての顔は、宇佐美は殆ど知らない。


美徳の1人、正の勇者。

そう言った評判から、批評まで宇佐美はよく耳にはしていた――そして、数える程度しか見た事がない、正の契約者としての立ち振る舞い。

その対の、未だとどかない負の勇者の強さ――身内の贔屓かもしれないが、今も尚自分の目には焼きついていた。


「――辛くは、ないかい?」

「え?」

「失われた勇気のブレイカー。宇宙君の妹が持ってて、それが原因で騒動が起こったって聞いてから、ずっと心配だったのよ」

「……大丈夫です。始まりこそ巻き込まれて、だけど。そこからはあたしが選んだ事だから、後悔はしてません」

「ならよかったわ……これからもよろしくね。宇佐美ちゃん」

「はい」


「宇佐美。早くこっち来て」

「そろそろ、予定の」

「あっ、はーい!」


月と怜奈に呼ばれ、宇佐美は駆けて行く。

この後ラッキークローバーの、友好記念ライブが行われる事となっている。


「それにしても、流石は宇宙君の妹ね」

「――ああ」

「まるで宇宙君と話してるみたいだったわ……血は争えないわね」

「……理解してるよ。誰より――ただ、時々巻き込まずに済んだんじゃないかって、そう思う事はある」

「悔いない生き方と、悔いない事は意味合いが全く違うわ……悔いるから、人は人で居られるのよ。でなければ、人は決して先へは進めないもの」

「――違いない」



――そして。


「はーい、みやちゃんですよー」

「「「みーやちゃーーんっ!!」」」

「さやかお姉さんは元気で~す。みんな元気~?」

「「「ハッスルハッスル!」」」

「歩美です。よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いしまーす!」」」

「皆お待たせ―!」

「「「宇佐美ちゃーん!」」」


場所は変わり、人が多く集まる場にて。

特設会場で開かれたライブには、多くの人が集まっていた。


「……良い仲間にも恵まれてるのね」

「みたいだな」


勿論その場には、首相もいた。

――ユウ、シバ、アスカ、凪を護衛に据えて。


「美徳としては合格じゃねえか? 少なくとも、人を引き付ける力は持ってんだからよ」

「うんうん。人を引き付ける事って、難しいから」

「――くだらない人間の元には、くだらない人間しか集まらない……彼女は大成する」


シバ、アスカ、凪の3人も、それに続く。


「そりゃそうだ。大成してくれなきゃ困る」

「だろうな――てか、考えてみたらお前だけなんだよな」

「なにが?」

「対が異性の奴」

「……そう言えば」


シバの話題の内容に、対して意識してなかったユウだった。


「そこのところどうなのカナ?」

「――朝霧裕樹は一条宇佐美に、友情以上を今のところ持っていない……100%」


手にしたタロットを周囲に浮かせながら、数枚を指で弾いては手元に引き寄せる。

それを繰り返す誠実の契約者、御影凪がそう答えた



「勝手にしゃべるなよ……まあ、事実だけど」

「なーんだ。つまんな……くもないか。じゃあ、これから愛情を抱く可能性は?」

「――50%」

「あらあら。その時には仲人やってあげるから、頑張りなさい」

「50%はならないし、現状どうにかせん事にはそれどころの騒ぎでもないし」

「若い上に、負の勇者なんて呼ばれてるのに」

「これに勇者の肩書関係ねーだろババァ」



――所変わって。


「? 何をしている、久遠?」

「ああっ、黛か。量産型クエイク製造ラインの拡張契約と、資金のやりくり」

「お前も大変だな」

「別に、自分で選んだ場所だからな……第一、望んでここに居る訳じゃない、何て人間社会で通用する訳もないし」

「――テロリスト達に聞かせたい物だな」


コツ……コツ……


「! ああっ、傲慢の……」

「…………」


そこへ白夜が通りかかり……目もくれず、去って行った。


「相変わらず、不気味な男だ」

「…………」

「久遠?」

「……やっぱり、葵んトコの地主さんに依頼してみようかな?」


光一も考えにふけ、目もくれてもいない。


黛には何故かそれを、特に理由もなく偉く不自然に感じていた。


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