第78話
「――人ってのは、どこまで行こうと愚か者なのかね?」
「愚か者なら、改善の余地がある分まだ良い。問題は常に利を貪り、害を他人に押しつけるだけで、価値を決めつけた性根の腐った者……そいつらが契約者社会破綻を招き、あの乱世に余計な助長をかけた」
「違いない――ふぅっ……なまじ能力を持った奴ほど、欲望に呑まれちまえば獣にも劣るし、分別がつかなくなった奴ほど見てて醜い物もねえな」
「それを理解してこその強者であり、本物の命だ。弱さは罪――だが煉獄と言う概念がある様に、決して罪は拭えぬ物ではない。純白は最も純粋であり、最も残酷な色だ」
「――お前と話をすると、退屈しねえな。お前の前じゃ、肯定も否定も全く意味を成さないように感じる」
「ふざけるな。たかが否定、たかが肯定――たかが意味だ。私は全てを尊敬するが、見下しもする。全てが変化の余地があるこの世界で、絶対の概念など邪魔なだけ」
「審判の日も、コイツにとっては所詮手順の1つか――だが、このまま独走を許す程、オレも慎ましくはない……絶対に辿り着いてやる。強欲と誠実の真理に」
ピュアプラント開場まで、残り5日。
「はっ!」
「やっ!」
とある一角の広場にて。
「ふっ……ふっ……」
「宇佐美も強くなったな……もう剣なしじゃしんどい」
ユウと宇佐美が、対峙していた。
「まだまだよ。だって能力使わなきゃ抜かせられないんだから」
「素手でも、上級系譜に後れ取らないんだがな」
手足に風を纏わせた宇佐美が、構えをとる。
それに対し、ユウは刃を潰した模造刀を両手に構え、相対
審判の日以降も、決して宇佐美の訓練は欠かさず、ユウ、怜奈、月が交代で相対していた。
「だったら、能力も使わせないと――」
ヒュンっ!
「はいはい、口じゃなくて手足を動かそうな?」
一瞬――もとい、刹那の瞬間で、宇佐美の喉元にユウの剣が突きつけられた。
「うー……まだまだ頂点は遥か彼方、かあ」
「それでも、私達系譜から見れば羨ましい限りなのですが」
「あっ、蓮華さん」
「朝霧様、一条様、お疲れ様です。飲物をお持ちしました」
執事服を纏った男装少女、敬愛の契約者、黛蓮華。
彼女が2人分の飲み物とタオルを手に歩み寄り、宇佐美とユウに手渡す。
「様はいらねえ」
「いえ、貴方は我らの盟主です。そのような失礼はできません」
「――まあいい。ピュアプラントの進捗は?」
「特に大きな問題もなく、順調です。予定には特に問題はありません」
「問題は大小問わず俺か月、怜奈に報告しろ。何かあれば、世は終わりも同然と思え」
「了解しました」
「ところで、光一達はどうしてる?」
「色欲の仁科姉妹と、開場式の打ち合わせを。私もこれより向かいます」
「そっか。ならもう行って良いぞ」
「失礼します」
――所変わって
「やっほー、久しぶりだね」
「お久しぶりです」
色欲の上級系譜は、二卵性の双子の姉妹である。
色欲の系譜、情欲の契約者、仁科紅葉
色欲の系譜、背徳の契約者、仁科青葉
姉の紅葉は髪をショートにし、たれ目が特徴のくだけた口調の活発な少女。
妹の青葉は髪を伸ばしポニーにし、つり目が特徴の丁寧な口調のきつめな少女。
余談だが、組織内では姉は植物研究、妹は医療研究の業務を主としている
「それでは、打ち合わせに入りましょう。旦那様」
「その旦那さまっての、やめてくれない?」
「でも浸透しちゃってるんだから」
更に余談だが、光一は色欲の組織の構成員からは、揃って旦那さまと呼ばれていた
「――俺、別に月と付き合ってる訳じゃないんだけど」
「私達上級系譜以上は重婚許されてますので、特に問題はないかと思われます」
「そうそう」
「――はぁっ……まあいい、打ち合わせだ。開場式だけど」
そうして、時は過ぎ……
ピュアプラント、開場式。
「審判の日より問題の1つとされた“食糧不足”解決の為。本日から、ピュアプラントが稼働する事となります」
「開場は、色欲の契約者、花柳月さんと慈愛の契約者、水鏡怜奈さんの友好表明をもって行われる事となっております」
「そしてそのたちあいにはー、なんとみやちゃんたちのリーダーゆさみちゃんとー、そのついのあさぎりゆうきさんがおこないますー」
ピュアプラントは、本日から稼働となる。
開場式では色欲の契約者、花柳月と慈愛の契約者、水鏡怜奈。
憤怒の契約者、朝霧裕樹と勇気の契約者、一条宇佐美の立ち会いのもと、この2人の友好表明をもって稼働となる。
「本日はようこそおいで下さいました」
「友好表明の場はこちらになります」
警備には、憤怒、色欲、慈愛の系譜が集められていた。
ナワバリの管理に差し支えない数といえ、それでも3組織分ともあり安全性は保証付き。
「なっ、なんか緊張する……!」
「なんだよ、テレビとかライブとか出てるくせに」
「それとは違う緊張感よ」
その場には、公の場の為の衣装を纏ったユウと、こちらも憤怒からの提供での衣装を纏った宇佐美が控えていた。
そして、その友好表明の場の眼下では……
久遠光一、仁科姉妹、黛蓮華。
憤怒、慈愛、色欲の上級系譜が控えており、周囲では桐生ナツメを始めとする、上級系譜候補のみで、固められている。
3組織で出来うる、最高の布陣で場は固められていた。
「ではお待たせしました」
その内の1人、光一がマイクを手に宣告。
「これより、ピュアプラント開場式を……」
ドオォォォオオオオオンっ!!
「なんだ!?」
「周囲警戒しろ!!」
突如外から響いた爆音に、遮られた。
「――やっぱ来たか」
「え?」
「――実は、正と負の友好に反対する奴等から、テロ声明があってな」
「ええっ! なんで、今!?」
「実を言うとこのピュアプラント、正負友好に反対する強硬派から反対意見が多数出てんだ。ここがつぶれれば、正負友好はひっくり返され戦争に発展する」
「そんな……だって、今そんな事」
「優先すべきは敵対者の殲滅。そう言う考えがいるってことだ」




