第77話
“審判の日“
そう呼ばれる世界崩壊から、8ヶ月が経過。
世界は殆どの命が死に絶え、人間社会機能も大半が損なわれる事となった。
世界の崩壊により充満していた狂気は四散。
結果として、世界の崩壊が乱世の幕引きとなってしまった。
――真理の契約者の力。
そう密かにささやかれつつ、世は一切の例外許さぬ大きな変化を強いられる事となる。
その大きな要因が、大罪・美徳和平調停
これ以上の戦争は、最早人類という種の存続の危機しか招かない。
傲慢が提唱し、現状を考えればやむおえないと大罪・美徳両陣営は納得し、調印締結。
ただし、乱世を経ての世界の崩壊ともあり、心身ともに疲弊しきった世の人々の反応は、大半が反対。
契約者一般人問わず、敵対者を排除すべきと抗議が殺到。
しかし大罪・美徳を頂点に据え、全てが動いていた世界。
人任せにし、世の責任を押しつけ続けたツケか、それ以上の建設的な意見は出ることなく、なし崩し的に可決される事に。
その後は、第三次世界大戦と同様、大罪・美徳を中心とした契約者を主体に世の復興に尽力する事となった
その中で憤怒、勇気、慈愛、色欲。
元々正と負の調和を望んでいた故に、経過自体に納得はいかない部分はある物の、承認。
この4人――正確には、3つの組織が主体となり、正と負の調和事業を進めて行くこととなる。
「その一環として、色欲と慈愛の共同事業がこちら“ピュア・プラント”です」
「色欲の植物、慈愛の水の技術を使用した、植物性食料生産場として建造された事業で、稼働すれば“審判の日”以降懸念され続けていた問題の1つ、食糧不足解決への大きな要因となること間違いなしだそうです」
「また、ここでは食用合成獣の食糧栽培も予定されてますので、まさに動物植物両方の食糧の質と自給率向上を成せる、まさに一石二鳥。落ちつけば美容食の開発にも手掛けるそうなので、アタシ達の美容で一石三鳥かな?」
「ですですー。みやちゃんかんげきですー!」
ピュアプラント稼働一週間前。
組織を持たない宇佐美は、ナツメの護衛を着けた上で、ラッキークローバーの仲間と共に広報に勤しんでいた。
『許可証ノ提示ヲオ願イシマス』
「はい」
『承認シマシタ』
「B-7ってどっち?」
完成間近と言う事もあり、あちこちで忙しく設備の搬入が行われ、研究者も駆けまわっている。
世の問題を解決する地盤と称されている故に、誰も彼もが真剣そのもので、傍から見ている宇佐美達にもそれが肌で実感できるほど。
「光一、開場式の準備は?」
「段取りも警備プランももう立ててある。で、人員の方は大丈夫だって調べもついた。」
「こちらでも、研究者から設備運搬、清掃員に至るまであらゆるスタッフの巣城や思想について、徹底的に調査した――今度こそ、怜奈様のお顔に泥を塗る様な事には、絶対にさせない」
「蓮華ちゃん……ありがとう。ごめんなさい、何もできなくて」
「いえ、怜奈様がお気になさることではありません! ――私達が浅はかだった、所為なのです」
そんな中で、開場式のやりとりをしている4人を見つけた。
憤怒の契約者、朝霧裕樹とその系譜、残虐の契約者、久遠光一。
慈愛の契約者、水鏡怜奈とその系譜、敬愛の契約者、黛蓮華。
「あっ、ユ……朝霧さん達! すみません。ちょっと良いですか?」
――数分後
「――ご苦労さん」
「ユウ達こそ。大変そうじゃない?」
「まあな……」
ある程度復興したとはいえ、所詮は急ごしらえ。
世界が受けた傷は浅くはなく、世の生活は安定していないどころか、程遠くなる一方。
このテレビにしろ、難民キャンプ同様の仮設住宅の立ち並ぶ中の、共同スペースに1つ置かれている物にしか映らない程。
それでも、ピュアプラントへの期待度は高く、今か今かと待ちわびる声は少なくはない。
「何としても、成功させないとな」
「うん。内容は内容だけど、結果として正と負が共同事業、なんて事が実現しようとしてるんだから、複雑ではあっても嬉しい」
「――だな」
特に宇佐美とユウにとっては、内容が内容とはいえ、正と負の友好の実現。
それに対して、世の誰よりも思い入れが深い分、この事業への期待は最も強かった。
「あたしも組織持ってたら――」
「よせよ。俺達と違って組織持ってない分、宇佐美だけに出来る事もあるんだ。広報とか、慰安コンサートとかな」
「それなら任せて」
「そうだ、なら頼みたい事がわっ!」
「「「「「「……このパターンは」」」」」」
ユウ、宇佐美、歩美、さやか、京、ナツメは、光一の居た方を見ると……
「むーっ!!」
毎度おなじみの、月の胸に顔を埋める形で抱きしめられてる光一の姿があった。
「……相変わらずですね、月さんも」
「――下品な物だ」
「いや、あれは光一責めるのは酷だと思うんだが」
苦笑する怜奈と、呆れたように溜息をつく蓮華。
「……なんだか、ずいぶん遠くへ来た気がするなあ」
そんな様子を見て、宇佐美はポツリとそう呟いた。
「そうかな?」
「うん……もうすぐ1年になるけど、ユウと出会った事からここまでになるなんて、思わなかったなあ」
色欲との出会い、ナワバリ奪還戦、慈愛との戦争、そして光一の付き添いでの仕事。
そして乱世の襲来に、世界の崩壊。
「――なんだか、色々と懐かしい」
「だろうな。なんかわかる」
「ユウも? だよね――世界が壊れた時はどうなるかって思ったけど、漸くここまでになれたんだから、きっとこれからも大丈夫……だよね?」
「大丈夫さ。そうじゃなかったら、そうすればいい」
「うん。契約者でも一般人でも、出来る事があるならきっと何とかなるって、そう信じて」
宇佐美が手を差し出す。
手の甲を上に、広げた形を見て……。
全員が、その手に手を合わせる。
「がんばろ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
気持ち新たに、全員はそれぞれに歩を進め始めた。
「――光一。例の件、どこまでつかめた?」
「――ダメだ、全然。なあユウ」
「――わかってるよ」
「――なら、頼む」




