第75話
「ふぅーっ」
宇佐美と怜奈の2人
美徳の2人と相対していると言うのに、シバは葉巻を吹かし煙を吐き出す。
「……余裕ですね」
「真理と真理の戦い、どんなもんか予想もつかねえが、ただ言える事は始まっちまえば誰一人介入できねえのは確か――ならちとカッコつかないが、足止め出来りゃオレの勝ちだ」
「せこいですね。大罪の1人ともあろう人が」
「目的は履き違えるもんじゃねえ、果たすもんだ……大体、そう言う奴等粛清しようって奴が、履き違えてどうする? ――だからこそ、手は抜かねえ」
シバが葉巻を携帯灰皿に押しつけ、そのまましまう。
「折角だ。大罪との命のやりとり、ここでかみしめな! “砂の柱”」
砂の巨腕を地面にたたきつけ、砂は地面に散らばり……
「“水帯”」
怜奈が宇佐美の足場に水の帯を展開し、流れを起こし引き寄せる。
と同時に、宇佐美の居た場所に砂の柱が地面を突き破り、姿を現した。。
水の帯をあっと言う間に蒸発させて。
「……!」
「宇佐美さん、下がっていてください」
「なんだ、やる気かよ? オレとアンタの能力、相性で言えば」
「相性が全てではないでしょう? ……“蛟”!」
怜奈が長刀を振るい、刃先に水を纏わせ……水のヘビを模り、シバへと襲いかかった。
「無駄だ。“枯渇の手”」
シバの右腕が異様な熱気を纏い始め、氷のヘビに触れた途端に蒸発、
「オレは万物に渇きを与える。お前の能力じゃオレには勝てねえ」
「そうとも限りませんよ? ……“氷縛”」
蒸発すると同時に、水蒸気がシバに纏わりつき氷となって束縛。
「確かに、水で貴方に勝つ事は不可能。ならば他の手段を用います」
「成程な……! うおぉっ!」
まとわりついた氷に砂を纏わせ、熱気を発しとかしてしまう。
「枯渇能力の元は、砂に込めた強力な熱。砂漠では勝ち目はありませんが、この場に水分がある以上、冷やしてしまえば問題はありません」
「別に枯渇だけが能じゃねえ。“砂漠の処女”」
シバの砂が右腕に集中し……バラの花の様な結晶の腕となった。
「砂漠のバラをご存知かな? ある種の化合物が、バラの花の形に結晶化したもの……これはそれを能力で再現したものだ」
「あんなことまで……」
「ボーっとしてる暇はあるのか?」
「っ!」
シバの挑発で、宇佐美はぐっと拳を握りしめ、構えをとり怜奈と並ぶ
「……ユウ」
その少し離れた場所。
「……人とは何か」
傲慢、そして正義のブレイカーを着け、胸元には複数契約中継演算装置“ブレイクハート”が、きらりと輝いている。
「欲望、不正解――理性、これも不正解」
ザッ……!
「今の世と同じ……理性も欲望も、等しく釣り合わねば人は人となりえない。なぜなら理性と欲望は表裏一体。究極の理性とは究極の欲望であり、究極の欲望は究極の理性となりえる」
ザッ……!」
「――それこそが真理」
ふと顔を向けた先。
息を切らし、意識も朦朧とし、足取りもおぼつかない。
しかし眼だけは、しっかりと自身をとらえ、纏う雰囲気は臨戦体制そのもの。
「……」
2人は相対する。
片方は、ぐっと拳を握りしめ空間を破り取る。
片方は、背から噴き出す様に自身の何倍もの大きさの、炎の翼を創り上げる。
ポタッ……ポタッ……!
白夜を蝕むのは、肉体の損傷
にぎりしめた拳からは血が垂れ、地面に滴り落ちる。
「……てろ……さみ」
「……?」
「……くそ……く……まも……る」
ユウを蝕むのは、自我の損傷。
言葉もおぼつかず、ただひたすらに白夜に向け、敵意を放つ。
「来い、朝霧裕樹――我らの罪深さ、そして世界が背負うべき痛み、共に語り合おう。その身、その命を賭して」
ゴゴゴゴゴっ!!
「っ!」
「まさか……!」
「どうやら、始まったらしいな」
ビキビキビキビキビキッ!! ドゴォオオオッ!!
「宇佐美さん!」
「捕まって!」
「くっ! “砂の道(ロード!)”」
宇佐美が風で空へと飛び、シバが砂を固め足場を創り難を逃れる。
地面は割れ、それに沿う様に炎が走っていた。
「……こりゃ、予想以上だな。世界を壊す力がぶつかるって、甘く見過ぎてたか」
「ユウ……!」
「朝霧さん……!」
「おっ、おい! 一体何が起こってるんだよ!?」
「さっきより、なんかすごくなってないか!?」
「何が起こってんだよ!? この世界、一体どうなっちまうんだ!?」
「わからねえ……え? おい、なんかこっち来るぞ!?
「なっ! うっ、嘘だろ!?」
「逃げろ! 早く逃げるんだ!!」
「うっ、うわああああああああっ!!」
「……!」
「宇佐美さん?」
「何……今の? なにか、たくさんの断末魔が突然、耳に飛び込んできた様な」
「落ちついて。深呼吸をして、ワタクシの指示に従って……」
「――さて、何万人生き残るか?」




