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大罪と美徳  作者: 秋雨
第4章 DEUS EX MACHINA
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第74話

「おっ、どうやら間に合ったか」


うずくまったユウに寄り添う2人は、その声の主の方向へと目を向ける。


「武田シバさん!?」

「おおっ、水鏡のお姉ちゃんじゃねえか。久しぶりだな」

「……そちらもお変わりない様で」


髪をオールバックにし、見るからに高級感あふれるスーツにワニ革のコート。

そして葉巻を咥え、サングラスをかけた強面


背には服装にそぐわない、身の丈ほどある土瓶1つ。


「誰です、あのマフィアみたいな人?」

「ちょっ! マフィアッて酷くないか!?」

「いえ、否定できません」

「きっついなー」


……の割には、偉く軽い感じのする男がいた。


「で、結局彼は誰なんです?」

「彼は武田シバさん。朝霧さんと大神さん同様、大罪の1人で強欲の契約者です」

「強欲って、確か……!」

「そう。傲慢とは同盟結んでる」


ふーっと煙を吐いて、携帯灰皿に葉巻を押し付け、再度吹かし始める

――女性2人が顔をしかめ、怜奈は長刀を構え、宇佐美は拳を握りしめる。


「勘違いすんな。俺は別に何もしやしねえよ」

「?」

「単純に、都市伝説なんて言われてた真理が、世界を壊すその瞬間に興味があってきた……それだけの話だ」

「ちょっ……! じゃあ、知ってるの!?」


ふーっと、煙を吐き一言。


「大神が世界を壊そうとしてる事なら」

「それでなんで!?」

「俺も賛同だし、ある意味オレ達大罪、あるいは美徳の当然の権利って奴だしな」

「世界を壊す権利ってなんですか!?」

「契約者社会の頂点であり、世の安寧と均衡を保つ14人のオレ達が世を動かす――その延長線上にすぎないのさ、一条さんとこのお嬢様」


けらけらと、世間話をするような様子で。

なおかつ、冗談ではないと言い放つような雰囲気を放っていた


「延長線上って! こんな、勝手な!」

「勝手? 違うな、権利だ。世界を保つ権利も壊す権利も、オレ達14人にはある。世はオレ達に全てを委ね、責任を放棄した……だから、オレ達のやる事を否定していいのはオレ達だけ。“誰かが何とかしてくれる”、“自分には関係ない”なんてスタンスの一般人かちくどもや、我儘が正当な権利だと勘違いした下級契約者クソガキどもに、どうこう言われる筋合いはねえよ」


「うおぉぉぉおおおおおおおっ!!」


「っと」


その会話を遮る様な、ユウの断末魔。

汗だくで息を荒げていたが、先ほどの裂けた傷は跡かたもなくなっていた。


「……ユウ?」

「朝霧さん?」

「はぁっ……はぁっ……」

「おいおい、大丈夫かよ? ほれ」


そう言って、シバはユウに水の入ったペットボトルを差し出す。


「……うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」

「?」

「……うおぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおっ!!」


それに対し、ユウは叫びシバに攻撃を加えようとする。


「あっ、あぶねえ……」

「ぐっ……げぅぅうっ……」

「ユウ!?」

「危ない!」


駆け寄ろうとした宇佐美にも、ユウの背から炎の翼が噴き出し、宇佐美に向けて振りあげる。

咄嗟に怜奈がかばい、何とか事なきを得た。


「ぐっ……離れ……ろ……」

「朝霧さん……!」

「ごあっ、がっ……ぁぁぁあああああああああああああっ!!」


シバ、宇佐美を抱えた怜奈は、ユウの叫びの前に距離をとった。

ユウを中心に地面が焼かれ、溶け、消滅するのを見届けながら。


「はぁっ……はぁっ……」


朦朧とした状態で、ユウはよろよろと歩き始める。

本能で、自身と同じ力を求めているのか、はたまた敵を感じているのか。


「だ……じょ……ぶ」

「……!」

「やく……く……ま……る」


一瞬だけ止まり、そう呟き……ユウは駆けだした。


「おーおー、泣けるねえ。かろうじて自我が残ってる状態、とは」

「……止めないと。あれじゃ、戦う前に」

「させねえよ」


宇佐美を遮るように、シバが背の土瓶を手に構える


「どいて!」

「ダメだ。この世界は壊れなければならない」

「否定していいのは同じ大罪、美徳のみなら、あたしにもその権利はある!」

「その通りだ……だが」


土瓶が砕け、その破片がシバの右腕に集まり……、


「権利を理解できねえガキが権利主張してんじゃねえぞ!!」


全長5メートルはある砂の腕と化した。


「宇佐美さん」

「……ごめんなさい。でも」

「いいえ、ワタクシも同意見です」


怜奈は宇佐美に笑みを浮かべると、キッとシバを見据え長刀を構える。


「水鏡のお姉ちゃんまでかよ?」

「ワタクシの命は朝霧さんの物です。よって、彼を守る事が今のワタクシの優先事項」

「その言葉が広まれば、あのヤロウ世の男の9割以上敵にすんぞ?」

「ご心配なく、その時はワタクシが頭を冷やして差し上げます。1人残らず」

「……聖母の様な笑みで恐ろしい事言うな」


砂の腕が熱気を纏い、空気を歪め始める。

ちりちりと宇佐美と怜奈の肌に、熱気が存在を主張し始めた。


「あんま女に使いたくないんだがな。特にお2人のような美人相手に」

「……何なんですか、あれは?」

「彼は砂を操る能力を持ってます。それを発火能力と組み合わせ、いかなるものをも枯渇させる事が出来る」

「そう……オレが司る自然災害は干ばつ。北郷の野郎が最強の攻撃力なら、オレの力は絶対の一撃必殺であり不殺の力」


シバの砂の腕が、地面にふれる。

それに呼応するように地面が乾き、ひび割れ、砂へと還って行く。


「安心しな、オレは殺しはしねえし傷つけもしねえ」

「それ聞いてはいそうですなんて、聞ける訳ないわよ!」

「申し訳ありませんが、同意見です」

「そうかい……なら、来いよ」


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