第6話 改訂済
光一と毒島、ユウと公人。
残虐と狡猾、憤怒と怠惰の交戦が繰り広げられている中で……。
「……」
前勇気の契約者であり、今は亡き一条宇宙の立ち位置。
どう考えても、人間が出せる力ではないそれが直撃したと言うのに、平然とは行かなくても普通に戦闘を行っている光景。
そんな一般人の観点から見れば、信じられない光景。
「……これが、兄さんの立っていた領域」
ふと、宇佐美は兄の形見であるペンダント
――彼らが持つ物と同格であり、対に位置する勇気のブレイカーに目を向ける。
「……兄さん」
ふと見れば、先ほど怠惰にやられ倒れている契約者達。
それらは皆、この勇気のブレイカーであるペンダントを狙い、やってきた面々。
“最強”
その証が、今自分の手にある。
「…………」
「……大丈夫だよ、歩美ちゃん」
「……いったい、どうなっちゃうんですか?」
苦楽を共にした仲間が、その光景に震えていた。
「……」
そんな中ただ1人、ユウと呼ばれていた少年の妹だけが、その中で違う世界に居るかのように落ちつき払っている。
「……怖くないの?」
宇佐美はふと、問いかけていた。
同じ“最強”の妹と言う立場か、自分でもすんなりと聞けたと、本人は思った。
「うん。ユウ兄ちゃんに光一兄ちゃん、裕香との約束破った事ないもん」
幼さゆえの楽観……と言うだけではなさそうだった。
「……そっか」
宇佐美はなんとなく、自分に似ていると思った。
もしあそこで戦ってるのが、自分の兄だったら……いや、彼等は自分の兄と対極に位置する存在なら、兄と同等。
そう考えれば、あまり怖くはなくなった。
「……それで、どうしよう? 他の大罪や美徳の人も動いてるんでしょ?」
「? 宇佐美お姉ちゃんにとって、美徳は味方だよ?」
「勝手で単純な話だけど、今契約者は敵だったとはいえ、兄さんと繋がりがあったとわかる貴方達以外を、信用する気になれないの」
「そうなんだ。なら大丈夫だよ、光一お兄ちゃんが手配してたから」
「手配って?」
「ひ・み・つ」
ガキンッ!
「っとと」
ナイフと炭素硬化された腕がぶつかる音で、5人はその方向に目を向ける。
「ふぅっ……」
頬に一筋の傷が走る光一に、わき腹を引っ掻かれた毒島。
配置的に、光一の後ろに少女たちが居るのを見て……。
「チャンスダ! ……うっ、うぐっ……げふっ」
毒島が大きく息を吸い込み、腹を手を当て抉るように力を入れる。
ボンッと腹が膨張し、背をのけぞらせ……
「! まずい!」
光一がリボルバーを握る手に電流を込め、超電磁砲を構える。
「うぷっ……喰らエ、“猛毒大砲”!」
毒島が勢いをつける様に上半身を振り、大質量の毒の塊を吐きだした。
その軌道を見極め……
「甘い」
光一は、超電磁砲を撃ち出した。
オレンジの閃光が直線を描き、その直線が毒の塊を撃ち抜いた。
――その軌道をそらす様に。
「……今の、こいつらごとやる気だったな?」
「用があるのは勇気のブレイカーだけダ。契約者自体は必要じゃなイ」
「だろうな。ま、こっちの目的は達成された以上、お前の主張何ざどうでも良いが」
「はっ?」
ゴォォオオオオオオッ!!
「ン?」
「こっちだ、クエイク!」
「! テメ!」
その場から一歩退くと同時に、轟音が響いた。
砂塵を引き起こしつつ空から現れたのは、鉄の塊を組み合わせて人型にした様な、“武骨”と言う表現が似合うロボット。
軽く見ても4メートル以上はあり、分厚い装甲に加えて成人男性の胴回りはありそうな太い腕と、重量級を思わせる鉄の塊をつなげ、人型にしたようなボディ。
そのロボットは顔を光一に向け――
『Whom I kept waiting.My master!』
「いや、ドンピシャだ。クエイク、すぐにこの場を離れるぞ」
『Yes.My master!』
「させるカ!」
毒島が右手に毒を吐きかけ、それを念動力で剣の様に固め襲いかかる。
「クエイク」
『Yes.My master!』
背の飛行に使うブースターが添加されると同時に、大木を思わせるクエイクの腕が毒島に向けられて突き出される。
その腕が――。
「うワッ!」
発射された。
それを回避すると同時に口が開かれ、レーザーが照射される。
「ちィ!」
「悪いが、ここまでだ!」
「っ!?」
その隙を見逃す光一ではなく、構えたリボルバーに電撃を集め――
「ぐっ――うぉぉおおおおおっ!」
引き金を引くと、衝撃波を引き起こしながら“超電磁砲”が発射され――毒島彰を、ふっ飛ばした。
「今のウチか――早くクエイクに乗れ!」
そのすきに、光一は宇佐美達に叫びかけた。
「--うっ、うん! 皆、急ごう!」
宇佐美が声をかけ、歩美達3人はあわててクエイクに駆け寄る。
「――なんとかなったか! よし、後は……」
「--めんどくせえ」
「こいつさえ何とかすれば! “巨人の剛腕”!」
その様子を見て、あと一歩。
それを決めるべく、ユウは溶岩を右腕にまといつきだす。
「--めんどくせえ。逃がしたら、めんどくせえ」
バキンっ!!
「!? しまっ……!」
――が、それは斥力による防壁にはじかれた。
その次の瞬間――頭をつかまれ、地面に全体獣に加え重力強化を施したうえで叩きつけられた。
「ユウ!」
「--めんどくせえ。つぎ、お前たち」
「!?」
公人が手を突き出し、重力場を形成し始めた。
「--クエイク、早く飛べ! ……俺が足止めする!」
「そんな、光一兄ちゃん! --ユウ兄ちゃん!!」
裕香の叫びを聞き――宇佐美は、その姿に自分を重ね合わせた。
兄を失った時、兄が重傷を負った時――いつも思ったこと。
自分に力があれば――その次の瞬間、宇佐美は裕樹のブレイカーを手に取っていた。
――かつて、兄の力となっていたそれを。
「--お願い、応えて」
――そんな願いとは裏腹に、勇気のブレイカーは何の反応も返さない。
「--怖い……だけど、あたしはそれ以上に守りたいの。大事な友達も、目の前の小さな女の子の願いも……だから!」
キィィィイイイ!
「--あたしに、兄さんがふるった力を!」
勇気のブレイカーが、機械的な音を鳴らし始めた次の瞬間――一条宇佐美を中心に、風が巻き起こされた。
「--! 勇気が……起動、した!?」
「--めんどくせえ……それ、困る」
公人が鉄球をとかされ、残った鎖に重力場をまとわせ振り上げ――宇佐美に向けて投げつけた。
「--!」
宇佐美がそれをよけ、風を使い体を浮かせ突進。
「やあっ!」
「!」
公人の反応が遅れ、顔面に宇佐美のひざ蹴りが突き刺さり――
「! いまだ!」
今度こそはと、ユウが溶岩の腕を握り締め、宇佐美が離れたと同時に巨大なパンチを叩き込んだ。
「--助かった、サンキュ! ってことで、ずらかるぞ!」
「え? きゃっ!」
宇佐美を担ぎあげて、ユウはクエイクに向けかけだし――。
「よし、飛べ!」
『Yes.My master!』
飛翔するクエイクに飛び乗り、一路空へと逃げ去った。