第70話
「…………?」
詠はユウの武器をみて、首を傾げる。
死体数百人分を原料に造り上げた、骨と屍肉の巨人“影骨の死霊王”に比べれば、明らかに爪楊枝程度。
しかし相手は、自身と同じ大罪。
増して契約者随一の剣の使い手であり、負の勇者と呼ばれる程の実力の持ち主。
「…………(きっ!)」
詠はユウをにらみつけ、巨人を動かす。
屍の骨と肉を使い、人体を忠実に再現した肉体に、詠の“影士を宿らせ作り上げた巨人。
それは巨体とは思えないほど柔軟に勝つ精密に動き……
軽快な動きをとる。
「――すぅ~っ……」
それに対し、ユウは背から抜いた大刀を下段に構え、深呼吸。
達を握る両腕は、ユウの大技“迦具土”を使う時の様に、赤黒い固体状態のマグマに包まれ、爆発の時を今か今かと待ちわびる様に所々にひびが入る。
「…………」
溜めの間に叩く。
その為に詠は、屍の巨人を操りパンチを繰り出す。
「ユウ!」
宇佐美が割り込もうとするが……。
「待ってください」
「怜奈さん!?」
「――朝霧さんの眼、何かを狙っています。構えていてください」
怜奈がそれを制止し、宇佐美を守れるように長刀を構える。
「――斬城剣・山薙!」
両腕のマグマが膨れあがり、瞬時に“巨人の剛腕”が展開。
それと同時に、持っていた大刀も……。
「…………!!?」
瞬時に巨大化し、屍の巨人の腕どころか胴体をも薙ぎ払い、真っ二つに。
「――何あの刀!? なんでいきなり!?」
「恐らくですが、あれがあの刀の元々の大きさで、朝霧さんの物質操作能力で圧縮縮小をしていたのを今の瞬間に解放したと思われます」
「すっごー……」
“巨人の剛腕”を解除されて行くのと同様に、斬城剣も見る見る縮んでいき、何事もなかったかのようにユウはそれを背の鞘におさめた。
「…………!」
しかしそれで終わりではなく、詠が日傘を切り離された巨人の上半身に突き刺す。
切り離された傷跡がぐちゃぐちゃと蠢き、そこから互いに向けて伸びて行き繋がると、元の身体へと戻って行く。
「やっぱ単純に切り離すだけじゃダメか」
ユウは再度斬城剣に手をかけ、相手の出方を伺い始めるる。
「…………!?」
……が、詠が急に眼を見開き、自身のナワバリの方角へ目を向ける。
「…………(ぎりっ!)」
「? おい、どうし……」
そしてユウの方を見て歯軋りすると、詠はぴょんと跳びはね着地すると同時に姿を消し、屍の巨人は崩れて行った。
「……何? 一体」
「ナワバリの方で何かがあったな。どこかが侵攻を開始したのかも」
「……また、人が死ぬの?」
「では、ワタクシ達も戻りましょう!」
「しばし待って貰おうか」
3人が戻ろうと振り返ると同時に、空間に亀裂が走る。
それが徐々に広がり、そこから這い出るかのように1人の男が現れた。
「……大神、白夜」
ユウが前へ、そして怜奈が宇佐美をかばう様に立ち、武器を構える。
「――誰です?」
「大罪の契約者の1人です。それも最強と名高い実力者」
「傲慢の契約者、大神白夜……いや。真理の契約者、と呼ぶべきか?」
宇佐美と怜奈が、目をぎょっと見開く。
「真理……?」
「まさか、この災害は……」
「そう、私が引き起こした……これを使ってな」
そう言って、白夜は正義のブレイカー。
そして白い結晶のペンダント、複数契約中継演算装置“ブレイクハート”を取り出す。
「それは……正義の、ブレイカー!?」
「――嫌な予感は当たったか。で、それの元持ち主はどうした?」
「私の世界で療養中だ」
「……さぞかし嫌がっただろうな。で、何の用だよ?」
ユウが“焔群”に手をかけるのを、白夜は制止する。
「そう警戒するな。別にやり合いに来た訳ではない」
「じゃあなんだよ?」
「私と共に新たな時代を創る気はないか?」
「……新たな時代?」
「そうだ、朝霧裕樹。お前も真理を手にし、私と共に力の使い道を示すのだ」
「――何をする気だ? 真理の力、振るったならわかる筈だ。あれは人が手にして……」
「そんな概念、ブレイカーが創られた瞬間から無意味になっている」
そう言われて、ユウも黙らざるを得なかった。
実際大罪にしても美徳にしても、自然災害クラスと言う強大さは、明らかに個人で持つべき力の許容量等、大きく超えている
「しかし、急過ぎたのも事実。ならば、少し話をしよう」
「お断りだ。何かが起こり始めている以上、お前の与太話に……」
「安心しろ。お前達のナワバリにはまだ何もしていない」
「俺のナワバリには……?」
「新時代の第一歩として、我ら傲慢は各地を攻めいり、この先を生きるに値する人間の選別を行う」
「っ! ……乱世で動かなかったのは、こういう事か」
無傷とまで行かなくても、最も被害が小さいのが“色欲”と“傲慢”。
更に言えば、各地は復興で手いっぱいの上に、乱世を経て一般人だろうと契約者だろうと、疲弊しきっている状態。
そんな中で攻められたら、ひとたまりもない。
「話を聞くのなら、侵攻は中止してやる。しかし……わかっているな?」
「ちっ……わかったよ。ただし、うけるかどうかは別だ」
「勿論。水鏡怜奈、一条宇佐美、お前達にも」
「……間違いなく、気付いているか。現状言う通りにした方がいいか」
怜奈、宇佐美が頷くのを見て、ユウは話を聞く事に。
「では改めて……脅すような形になってしまい、申し訳ない」
その会話の始まりは、謝罪と頭を下げる白夜の姿だった。




