第69話
嫉妬の契約者、陽炎詠
ゴシックロリータのドレスを愛用し、化粧を嗜みフリルをあしらった日傘を愛用する等、可愛らしい人形のような少女。
その外見に反し、性格は大罪で最も好戦的で嫉妬深く、執念深い事で有名で……
「…………(ぎりっ)」
ギンッと射抜くようにユウを睨みつけ、口元からは歯軋りの音が響く。
詠の“影士”と、ユウの“巨人の剛腕”がぶつかり、力負けし始めている故に。
「…………」
詠がそっと宇佐美達の方に視線を向け、日傘を広げくるくるとまわし始める。
『オォォォオオオオオッ!!』
『ギイィィィイイイイッ!!』
その動きに沿う様に、その傘の縁に呻き声の様な物をあげる何かが集まって行く。
「なっ、何あれ!?」
「……気を付けてください、宇佐美さん」
「え?」
宇佐美が疑問符を浮かべる横で、怜奈は長刀を構え水を纏い始める。
「…………」
回したままコツっと先を地面に突き立て、その何かは地面へと沈んで行った。
ボコボコッ!
「え?」
その次の瞬間、あちこちの地面が盛り上がり、そこから……
『オォォオオオオオオオッ!!』
『ウゥゥゥウゥウウウウッ!!』
「ひぃっ!」
『“死の奴隷”……その胸と顔切り刻んで、仲間入り』
人が……否。
正義の侵略、あるいは正義と嫉妬の戦争の際に死んだ民間人や契約者の死骸が、一斉に這い出てきた。
「よそ見してんじゃねえぞ!!」
無論ユウとて、それを黙って見る訳もなく。
“影士”を押し返した溶岩の腕が、詠に向け襲いかかる。
「…………」
ザンッ!
「っ!?」
……その寸前、ユウの足もとまで伸びた詠の影が、ユウの胸を斬り裂いた。
「…………」
詠はハァッとため息をつき、ふるふると首を横に振る。
そうしてる間に影はユウの身体を包み、そのまま締めつけ始め……。
ブシュっ!
影に締めつけられた個所から、斬られたかのように出血し始める。
「舐めんじゃねえ!!」
拘束されている腕を、出血するのに構わず無理やり動かし背の“六連”を抜き……。
「“迦具土”!!」
両腕にマグマを纏わせ、刀を牙とした溶岩竜を構成し、詠を攻撃。
ユウの拘束を解除し、“影士”を再構成し、盾とする。
「はああああああああああああああああっ!!」
ユウが吠え、影に切り刻まれた傷が塞がって行き……
“迦具土”が、“影士”を喰らい、一気に詠を喰らう。
「っ!?」
――と思われたその瞬間、“迦具土”が逸れてしまう。
ユウが違和感を感じた足を見ると……
『オォォオォオォオオオオッ!』
『アアアァァァアアアアアッ!』
先ほど詠が扱っていた呻き声を上げる何かが、青白い炎を纏いユウの足に絡みついていた。
力が抜けて行く感覚と同時に、じわじわと焼けるような感覚が広がって行く。
「…………」
『“呪縛の鬼火”……この戦場で死んだ者達の怨念の炎、憤怒のマグマをも焼きつくす』
「この……」
『……“怨霊の呼声”』
日傘の先端に、またも怨霊が集まり球体を模って行く。
それがユウめがけて放られ……
「うっ……うぁあああああああああああああっ!!」
それを受けたユウは、膝をつき頭を抑え、苦しみの声を上げ始める。
「そんな……! ユウが、あんな簡単に!?」
『何の勝算もなく、大罪や美徳を一度に3人も相手にすると思った?』
「……!」
『……墓場や戦場跡と言った、死体や死霊の蠢く場での戦いで』
パチンっ! ボコボコボコボコッ!!
『死霊を操る力を持ち、精神系攻撃で契約者随一の妾に勝つ事は不可能』
増援のように地面からゾンビが現れ、宇佐美と怜奈を取り囲む。
「後から後から、キリがない」
『妾の可愛い“死の奴隷”たち。あいつ等を切り刻んで仲間入り……』
「させるか!」
怜奈と宇佐美を取り囲むゾンビ達が、マグマになぎ払われる。
「…………?」
詠が目を向けた先では、息を切らし頭を押さえつつ、右腕をマグマで包んだユウの姿が。
「はぁっ……はぁっ……タイミングが悪かったな。苦しむ覚悟ならとうに出来てんだよ!」
『そう……』
何の感慨もなく、詠は地面にこつっと日傘を突き立てる。
その先に先ほどのゾンビ達が引き寄せられていき、それが……
「へっ……?」
「なっ……!」
「うわあっ……」
ゾンビ達が屍肉と骨にわけられていき、骨は溶ける様に、屍肉は混ざる様に1つになって行き、それが合わさって……
『ゴァアアアアアアッ!!』
骨で模り、屍肉で肉付けされた、ハロウィンのパンプキンとなった。
それが吠えると、詠の影が伸びてそれを胴体とする様に、パンプキンから首や手足が伸び、更に手足には骨が加工されて行く。
『“影骨の死霊王”……踏みつぶしてやる!』
以前見た“ヒュぺリオン”以上の体躯で、グワッと足を振り上げユウ達を踏みつぶそうとする。
「“蛟”」
怜奈が水のヘビを生み出し、それをせき止め……その間に3人は脱出。
「これは骨だな。骨だけに」
「……随分と余裕ね?」
「いや、丁度コレの出番だし」
「コレ? ……って、大刀って云ってもあれに比べれば爪楊枝じゃない」
ユウは背の、自分程ある大刀を抜き、構える。
「まあ見てな。漸く“斬城剣”の出番だし、派手に行くか」




