第68話
「宇宙……宇宙!」
「うっ……お前、眼が……」
「俺よりお前だ! ちょっと待ってろ、今……」
「よせ……わかってる。後悔はない……俺の考え、正しかったんだ」
「ああっ、だから死ぬなよ! ここでお前が死んだら……」
「……なあ、ユウ……頼み、聞いてくれないか?」
「なんだよ?」
「……宇佐美、オーディションに受かったって」
「お前の妹か? ……今話す事かよ?」
「……その祝い、してなくてな……だから……」
「おい、どういうつもりだ!?」
「わかってる……だが、俺が……これを託せるのは、宇佐美だけなんだ」
「……」
「そして、任せられるのも……お前だけだ。任せたぞ……じゃあ、な……親友」
「…………! ――」
謎の災害から、3週間が経過
まるで狙ったかのように各戦場やナワバリを襲い、かなりの数の死傷者、被害を出した災害の元凶は、結局は不明。
しかしどこもかしこも、戦争以前に生活がままならない状態へと陥り、結果的に災害が戦争を止める結果となった。
「よし、次だ!」
それは憤怒のナワバリも例外ではなく、光一はあちこちの復興の指揮をとり……
「それじゃみんな! 次行くよー!」
「「「おーっ!」」」
ナツメは暴走騎兵隊を率い、物資や食糧の搬入。
更に言えば、この度開発された量産型クエイク達も、運搬や残骸処理等に大きく貢献。
更に言えば、フォールダウンを始めとする非合法活動を行う契約者達も、現状被害を受けており動きは取れず。
故に、復興を進めている状態ではあっても、ある意味平穏は訪れていた。
そんな中……
「……やっぱり正義の陣営で、か」
ユウは宇佐美、怜奈を伴い、嫉妬と正義の戦場跡へと、災害の元凶の調査に赴いていた。
「ねえユウ。怜奈さんはわかるけど、あたしはどうして?」
「いえ。ワタクシも本来、この様な事に同行させる様な立場では……」
その当人たちは、困惑していた。
美徳といえど、半人前ですらない宇佐美と、名目上捕虜の立場である怜奈。
憤怒直々の調査に、しかも右腕の上級系譜を差し置いて同行させるなど、組織としてあり得ない故に。
「……本当は怜奈だけ連れてくるつもりだったよ。でも、そうも言ってられない」
「……?」
「真理」
「……? 唐突に何を言うかと思えば、そんな契約者の都市伝説を」
「……」
「……まさか、実在するのですか?」
「する……本当は墓まで持って行きたかったがな」
「あの、ちょっと良い?」
そこで会話においてけぼりの宇佐美が、話に割り込んだ。
「その真理って何?」
「契約者の都市伝説みたいなもんさ。俺達“大罪”とお前ら美徳を超越した究極の契約者、“真理”」
「……その力は世界を滅ぼすとも、機械仕掛けの神とも呼ばれています。ですが、真理のブレイカーの存在は確認されていないことから、契約者独自の都市伝説として数えられている話です」
「それが、実在するって事!? それじゃこんな所で話すのまずいんじゃ……」
「心配するな。周囲に気配がない事は確認済み」
それも思念の使い方の1つかな?
と思いつつ、宇佐美は大罪達の超日常に唖然とせざるを得なかった。
「ん? でもちょっと待って。そんな都市伝説に数えられるほどの幻の契約者の実在を、どうしてユウが知ってるの?」
「それは……!」
突如、不穏な気配をユウは察知。
そこでユウの影が揺らぎ……
ガキィッ!!
「きゃっ!」
「まさか……!」
そこから、ゴシックロリータのドレスを纏った小柄な少女。
“嫉妬”の契約者、陽炎詠が姿を現した。
「詠!?」
「…………」
『……こんな所で何してる?』
無口な少女の態度に呼応する様に、突如3人の頭の中に声が響く。
「なっ、何これ?」
「落ちついてください、これは詠さんのテレパシーです」
「何って、災害元の調査に来たんだよ。来たばっかだし、もうちょっと……」
『知るか。そっちの、2人してそんな目障りなでかいの見せつけてないで、さっさと帰れ』
「ちょっ……!」
「そんな……」
「2人? でかいの?」
宇佐美と怜奈は、自分達の胸に向かってる詠の視線に気づいて、身体を抱くようにして一歩下がる。
何の話かわからず、ユウは2人を見比べ……
「……」
少し離れて携帯を取り出し、ゲームをやり始めた。
「「「…………(じとーっ)」」」
「…………」
「「「…………(じとーっ)」」」
「…………」
「「「…………(じとーっ)」」」
「…………あの、なんでさっきから皆して、俺の方ジト目で見るの!?」
「「態度がワザとらし過ぎるわよ(ます)」」
「じゃあ俺の前でそんな話題出すなよ! ってか、それならさっさと調査を……!」
ガギィっ!
『目障り……帰れ』
「……やる気かよ?」
宇佐美に向けて突き出した日傘を、ユウが鞘に収まった“焔群”で受け止める。
『気に入らない……何もかもが気に入らない。殺す!』
後ろに飛びのき、地面の自身の影を日傘でコツっと叩く。
『オォオォォォオオオオオオオッ!!』
その影が実体を持ったかのように起き上がり、ユウめがけて襲いかかる。
「ちぃっ! “巨人の剛腕”!」
影の突き出してくるに向け、ユウはマグマの腕を構築し受け止める。
「詠、一体ここで何があった!? それだけ聞けばさっさと帰る!」
『……今すぐ帰れ! “影士”に潰されたいか!?』
「目的も果たせず帰れるか!」
『……ならそこのデカ乳どもと一緒に死ね!』
「文字通り嫉妬かよ。幾ら大罪、美徳併せて一番背が小さいからって」
ブチっ!
『殺す!!!』
「「……最低 (です)」」
「背がって言ったよな俺!?」




