第66話
時はさかのぼり……
「後半分か……」
世の犠牲者は、圧倒的に負の方が多かった。
正義の侵攻により、日に日に嫉妬のナワバリは血の海の割合が増し続けている故に。
正義の2つの生体兵器によって。
「“ブレイブクローン”、“ブレイブトレース”を投入しました。此度の戦線も、我らの勝利は確実です」
「御苦労――あの恥さらしも、一応は美徳の一角。役に立つものだな」
“ブレイブクローン”、“ブレイブトレース”
これらは正義で開発した強制学習装置を使用し、前勇気の契約者、一条宇宙のクローンを生体改造し造り上げた、生体兵器。
“ブレイブクローン”
正義の系譜“忠誠”を持たせ、強制学習装置により思念を即席で扱えるようになった、量産上級系譜。
ただし所詮は即席の為、上級系譜に比べると精度は落ちるが、その分を数で補うタイプ。
“ブレイブトレース”
こちらは身体をサイボーグ化し、一条宇宙の戦闘データを強制入力した上で、機械的に一条宇宙の戦いを再現したタイプ
「本当ならば、もう一種加わっている筈だったんですけどね。“ブレイブキメラ”の開発陣からは、当てが外れたとか」
「そうか? ……まあ良い。一刻も早く世の負の契約者達を皆殺しにし、この乱世を終結させるぞ」
「はい!」
北郷正輝にとって、最も優先すべき事は正義。
正義のために命を軽んじ、また負の契約者とその恩恵を受ける者は皆殺しという、苛烈な思想の持ち主。
正の契約者最強であると同時に、契約者で最も殺した人の数が多い男である。
その為に負の契約者からは恐れられ、彼の存在が世の契約者犯罪の、実に8割を抑えているとまで言われている。
また彼の正義は、救われた者や負の契約者の被害者達からは支持されており、この乱世においても彼への支援は止む事はない。
「うわああっ!」
「!?」
そこへ突如、会話をしていた側近が掻き消える様に突如姿を消す。
それと入れ替わるように空間が裂け、1人の男が姿を現す。
「精力的なのは結構だが、前しか見ない悪癖は治っていない様だな」
傲慢の契約者、大神白夜。
「大神!?」
「随分と暴れ回ってくれ」
ドゴォンッ!!
白夜と正輝の拳がぶつかり、人と人との拳の相殺音とは思えない轟音が響く。
「……ほおっ」
「我が新兵器に感け、遊んでいたとでも思ったか?」
北郷正輝はあらゆる物に圧力、振動、衝撃をかける能力を持つ。
それは空間だろうと例外ではなく、彼に物理干渉できない物は存在しない。
契約者最強の攻撃力を誇るその能力をもって、正輝は正の契約者最強として君臨し、白夜の空間破壊を相殺する事が出来る。
「思っていない。私とて、貴様の意思の強さと正義に対する姿勢は認めている。その正義が無用に血生臭過ぎる事を除けばな」
「罵倒のつもりだろうが、貴様ら負の契約者と言う悪の殲滅を掲げる身にとっては、褒め言葉だ」
「別に我ら負の契約者が悪である事も、貴様の正義も否定をした覚えはない」
「それで、何をしに来た? その様子では戦いに来た、と言う訳ではないようだが」
「何、ちょっとした頼みだ――早急に武装解除し、降伏せよ」
「――流石は傲慢の契約者、人の見下し方が一味違う」
「見下す?」
正輝が両腕を広げ、抱きかかえる様に両手を合わせ、ぐっと右手を握りしめる。
「これが答えだ。“衝撃”!」
白夜に向けて右拳を突き出し、手を開く。
能力によって圧縮された大気が解放され、轟音と共に白夜を起点に広範囲を吹き飛ばした。
「……見下しているのはお前だろう?」
「何!?」
「――人は変わらない物だと決めつけている」
――にもかかわらず、白夜は無傷でその場に立ち、何気なく服についた埃を払い始める。
「バカな――我に、空間破壊の盾は通用は」
「そしてその決めつけこそが、貴様の限界も表している――成長の余地なき者に用はない。消えろ、“凶座相”」
両腕を突き出し、ぐっとにぎりしめ空間を引き裂く。
その引き裂かれた空間の中で、太陽系の惑星を現したかのような球体が十字にならぶと同時に、その球体を繋げるように光の線が走り――。
その光が破られた空間から光があふれる。
「っ!? くっ、“大地震”!」
その直前、正輝が地面に腕を突き立て、能力を使い地震を引き起こす。
正義の陣営が吹き飛ばされ、それを中心に地震が引き起こされ……。
狙いがわずかにブレ、“凶座相”の攻撃は空へと逸れて行った。
「なんだ?」
「まさか、北郷様の身に何かが?」
「今だ!」
その攻撃で戦場がざわめき、嫉妬の軍勢は未だと猛撃。
一気に戦況は変化を見せ始めていた。
「――? どういう事だ!?」
「あれが私の能力の全てだと誰が言った?」
「我相手に、手の内を隠していたと言うのか!?」
つまらない。
絶世の美男子の呼び名に相応しい美形に似合わぬ、鉄仮面の様な冷たい無表情。
その無表情に今、その一言だけが現れていた。
「それが貴様の限界であり、付け入る隙だ。さて――」
ゆっくりと白夜は歩み寄り、そっと手を差し伸べる。
「今ならまだ間に合う。我が軍門に下り、共に強者の時代を――」
「ふざけるな!!」
その手は無情にも打ち払われた。
「我が正義は、必要とされている……貴様らの悪行で親を奪われた子供たち、貴様らに家族を奪われた者達は、我が折れれば一体どうなると言う!?」
「弱者が死ぬ……ただそれだけの話だ」
「我が正義は不滅だ! ビッグ……」
ザンッ!
「! ぐああああああああああああああああっ!」
「たかが美徳の一角が、不滅などと口にする物じゃない」
空間を壊し、そこから引き出した大剣が、正輝の右腕を斬り飛ばす。
正義のブレイカーが着けられたその腕は宙を舞い……白夜に掴み取られた。
「……さあ、始めよう」
白夜はある物――白い結晶のペンダントの様な物を取り出し、首にかけ……。
そして、今に至る




