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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第62話 エピローグ

正義と嫉妬の戦争勃発から2週間が経過。


頂点同士の戦いは決定打なき戦いとなる故に、どうやっても泥沼化してしまう。

系譜以下の契約者、あるいは合成獣に兵器をどれだけそろえようと、大罪や美徳に通用する事はなく、それは頂点の戦争における決定打にはなり得ない。


駒に絶対の格差が存在するチェス。

言うなれば、契約者の戦いとは完全にキングの勝敗に左右される戦いである。


それも世に大きな影響を与えつつ。


「正の契約者を殺せ!」

「殺される前に殺すんだ!」


正義の行った負の契約者、そしてその恩恵を受けた者達の虐殺。

正義が停滞している今だからという危機感からか、負の契約者は一斉に正の契約者へと攻撃を開始。

なまじ形として出た虐殺故に、それを正の契約者の総意と受け取る事は自然の流れとなり、最早言葉等意味はなく。

正も負も、ただひたすらに殺される前に、と言う前提でただ敵を屠り続けていた。


世は乱世を迎え、契約者社会の混乱と変化の節目に立つ頂点達は――

予期していた乱世の襲来に焦ることなく、ただ情勢を見つめ最善の行動を取り始める。


「何故です!?」


そして、その煽りを最も強く受けているのは、他ならぬ憤怒

敵対勢力の頂点の2つ、勇気、慈愛を確保し、現在最も強い力を持つ組織である。


しかしそれゆえの衝突、懸念が起こっていた。


「ダメだ。勇気と慈愛の2人からブレイカーを奪う事も、攻撃も認めない」


宇佐美と怜奈、2人の処遇。

増して慈愛は前科があり、現状の対処では納得が出来ないという声が出始めていた。


「今あいつ等に攻撃を加えてみろ。正にしても負にしても、余計な刺激を与えるだけだ。この暴走する乱世、誰にも止められなくなるぞ」

「しかし!」

「今は耐えるしかないんだ。わかってくれ」

「……俺達も拾われた身だ、アンタの意見に逆らう訳にはいかない。だが、俺達とて小規模といえど組織を持つ身だ、それを考慮した判断を期待する」


ユウも懸命にその意見を説得し続けるが……。

正と負、元々の亀裂は決して浅くはなく、宥めるのも無理が出始めていた。


時代の暴走は人の狂気を掻き立て、それすらも喰らい更に暴走する。

その一途をたどるかのように。


「…………」


最早世に充満しきった狂気と憎悪。

正と負の亀裂を明確化し、世界は最早その2つに二分化されつつある。


大罪の一角といえど、最早止められない程に。


「失礼」


人が出払い静かになった、憤怒の詰め所の会議室。

そこへ入ってきた、白髪の美男子……大神白夜


「何の用だ? 大神」

「勘違いするな。ただ聞きたい事があるだけだ」

「……なんだ?」

「何故“真理”を使わない?」


ユウは、心臓がびくりと震えるのを感じ取った。

――表情に出さないように気をつけつつ。


「……大罪、そして美徳を超越した究極の契約者“真理”か? バカ言え、真理なんてブレイカー、存在は確認されては」

「条件は整っている筈だ……一条宇宙の死因が、真理に至ったが故。この話が本当なら」

「嘘に決まってるだろ。宇宙は俺がこの手で殺した」

「……乱世を止められる手段があると言うのに、それを使わない気か?」

「出来るも何も、そんなもん知らねえ」

「やれやれ――ならば私が止めるとするか。弱者の貪り合い、罵り合いも同然のこのくだらない乱世、見ていて反吐が出る」

「バカ言え。大罪が1人生きがった所で、どうにか出来る流れだと……」


チャリ……!


「? ……!」

「気付いたか……これで確信出来た」

「じゃあ……お前だったのか!?」

「いや、これはとあるフォールダウンから奪った物。ただこれを開発した研究施設は、私が吹き飛ばしたが」

「……じゃあ、この前の?」

「そう、私だ――こんな物に頼る気はなかったが、状況が状況……!」


白夜の言葉あ、ユウの居合で遮られた。

距離をとる白夜の頬に一筋の線が入り……血が漏れ出し始める。


「……悪いが、真理に手だしさせる訳にはいかないな」

「力を求める事は人の性。止めることなど出来ん」

「だからこそ止めるんだよ!」


ユウの右腕がグラグラと煮え返るマグマに包まれると同時に、駆けだす。

その右腕を白夜向けて突き出し……


「無駄だ」


それに対し、白夜は右手を突き出し拳を握りしめ、横なぎに振るうと同時に空間が破り取られ……。

ユウのマグマに包まれた腕の攻撃を阻んだ。


「我が空間破壊は絶対の盾。いかなる攻撃も空間を隔てる事は出来ん」

「そんなこと百も承知だ! だが!


ユウが身を伏せ、足払い。

白夜がそれを避け、その際に手を離した空間が、一瞬で元に戻る。


「盾は絶対だろうと、破った空間はお前の干渉なしではすぐに修復される。なら!」


ユウが距離を詰め、白夜狙い居合を繰り出す。


「くっ!」


白夜は契約者である以前に、稀代の天才として名をはせた神童。

身体スペックも一般人を大きく上回り、特に反応速度においては目から脳、脳から神経へと伝わる神経伝達速度は、0.11秒。

つまり、人間の反応速度の限界点に至る、超反応を持って産まれた男。


それをブレイカーとの契約で研ぎ澄まされたにも関わらず、ユウの居合は白夜にも反応しきれない。


「干渉させる暇を与えない」

「どうやら、楽しい時間を過ごせそうだ……が」


ダンっと白夜が地面を強く踏む。

その個所から地面に……本井空間にヒビが入り、徐々に崩れ去って行く。


ユウが慌ててその場を離れると、白夜は再度空間を破り取る。


「そんな事をしに来た訳ではない。ここまでにさせてもらおうか」

「待て!」

「未来を築くのは先駆者の決断であり、批評家の否定ではない。その決断も、常に必要な時は今だ……私は否定より決断を選ぶ、それだけの話だ」


破り取った空間に身を投じ、やがて壊された空間は元へと戻る。


「……くそっ!」


大神白夜は、この乱世で真理へと至る……ユウにも確信出来た。

……しかし、それはユウにとって、納得できるものではない。


止めるには……。


「ユウ、大変だ!」

「……」

「ユウ?」

「……っ! あっ、ああ。光一か? どうした?」

「希望の勢力が、こっちに進軍して来てる。狙いは多分、怜奈さんと宇佐美だと思う」

「わかった。すぐに迎撃準備だ」


時代は、ひたすらに暴走を続ける。


「正の契約者を殺せ!」


ただひたすらに命を喰らい……


「負の契約者を許すな!」


ただひたすらに血で大地を濡らし……


「殺せ! 殺すんだ!!」


ただひたすらに屍の山を築き続け……。

それでもなお、止まることなく。


「……宇宙、俺は」


その暴走もまた、1人の大罪に決断を迫り続けていた。

ただ現実、時代、責任、あらゆるものを突き付け続けながら。

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