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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第61話

スパイは憤怒のナワバリ周辺で、避難民を襲っていた過激派のフォールダウンからというのは、程なく判明。

難民キャンプで暴動をおこし、その隙に乗じてのテロを計画していたらしく、あわよくば宇佐美と怜奈を確保しようとしていたとの事。


更に言えばその組織は、契約者社会の闇賭博の1つ“コロシアム”も行っていたらしく、世の情緒不安定なこの時期に相応しい、大捕り物となっていた。


“コロシアム”


その名の通り、人と人とを殺し合わせ、どちらが勝つかの賭博。

時には契約者と人数十人、合成獣キメラと人数十人等、賭博より寧ろ虐殺を好む者達の格好の見せものの意味合いが強い。

それを盛り上げる為、参加者には“バーサーカー”を始めとする、薬物を投薬する所も多く、今回持ちこまれた物はそれを使用しての物。


その捕り物を指揮するのは、上級系譜久遠光一。


「……はぁっ」


……ではなく、憤怒のナワバリに存在する、宇佐美のインプラント手術を手がけた、有数の大病院へと、ユウの命令で訪れていた。

現在光一は、こちらもユウの出した金で買った見舞いの花や果物を手に、その大病院を見上げている。


……余談だが、花を買う際“1束?”と訝しげに見られていた事は、別の話。


「……なんで俺が」


嫌々ではあるが、彼も組織のナンバー2.

勝手をすれば他に示しがつかず、光一自身も自分の都合で逆らう訳にはいかない為、渋々と訪れていた。


一路ある病室へと歩みを進め……


コンコンッ!


「……失礼」


自身の母親、ひなたの居る病室へと入って行った。


「……光一?」

「ボスの命令だ」

「……そう」


あれから、ひなたは衰弱が酷く入院。

その事を聞いたユウが、光一にボスの権限で行くように命令。


「で、どういうつもりだよ? あれから飯も食ってないって。おかげで周囲に何やったんだってせっつかれた」

「……ごめんなさい」

「そんなもん聞きたくない」

「……」


起き上がる気力すら無く、光一の一言でぼんやりと天井を見始めた。


「……で、一体何があった?」

「……聞いてどうするの?」

「だから、ボスの命令だ……返答次第で許してやれって」

「……よくそんな命令、聞くわね?」

「フォールダウンじゃあるまいし、いやだいやだがまかり通るなんて誰が思うか。その辺りの分別付けられない奴が、系譜の契約者になれるかよ。それに……」


ふと思い出す、捨てた筈の過去。


天才として生まれた兄を賛美する声、それに引き換えと自身を罵倒する声。

……なんで生まれてきたんだと、罵倒される記憶。


「考えてみたらおかしな話だからな。俺の事を蔑ろどころか汚点として嫌悪し続けたアンタが、拒絶された位でそんなになるなんて」

「……全てを失って漸く気付いた、と言う事かしらね? お父さんを白夜に殺されて」

「待った。それどういう事だ、殺されたって?」

「……私にもわからないわよ。白夜を迎えに行って、顔を合わせた直後の事だから。私は必死の思いで逃げてきたけど、その後は貴方もわかるでしょう?」


第三次世界大戦後ともあり、荒れ果てた世。

契約者社会の構築により、普通の何倍もの速さで復興は進んだが、それでも女性が1人で生きて行くには過酷な環境に変わりはない。


「……その最中のある時ふと思いだし、思い知らされたのよ。光一にしてきたこと、今まで実の息子に一体どれだけ酷い事をしてきたのかって」

「――なんとも勝手な話だな」

「そうよ、勝手な話……勝手だから光一の安否が確認できた今、もう未練はないの。出来るなら、少しでも償いがしたいけど――望んでないんなら、仕方ないじゃない」

「ならここで死ぬな。俺が迷惑だ」


吐き捨てる様にそう言い捨て、光一は病室を後にした。

そして少しの間の後……


「……ダメだったか」


隠れていたユウが、ひょっこりと姿を現した


「すみませんね。態々」

「いえ、光一にはあとで……」

「……良いんです、今更どうこう出来る様な事をしてないので。それより限界だったとはいえごめんなさい、貴方のナワバリで自殺願望の様な物を出してしまって」

「間違う事が問題じゃない、重要なのは間違いに対する姿勢……ですよ。俺だってお人よしじゃない、反省の色が見えない人の為に動いたりしません」

「そう言ってもらえて、何よりです……光一が主と崇める理由、わかる気がします」



――所変わって


「待って! せめてこの子だけでも……」


グシャッ!!


「子供の為? ふざけるな。負の契約者の恩恵を受ける位なら死ね」


正義の軍勢による、負の契約者勢力の殲滅。

その軍勢が通り過ぎた後は、1人残らず屍と化していた。


「……幾らなんでもやり過ぎだろ。こんな子供まで」


ドバッ!!


「ギャッ!」

「勇気の死、慈愛の崩壊を起点とした乱世で、負の契約者達は何をしたか忘れたか?」

「「「…………」」」

「奴等は世の害悪だ、駆除する事に何故躊躇いがいる? ――余計な事を考えるな。正義の為にただ殺せ! 負の契約者も、その恩恵を受ける者も1人残らずだ!」


「“包帯遊戯マインドバンデージ”」

「“血飛沫行進曲ブラッドマーチ”」


突如聞こえるヴァイオリンの音色。

それを聞いた者が、次々と血へどを吐き膝をつく。


――と同時に、地面から突如包帯が伸び、それが槍の様に正義の勢力を次々と串刺しに。


「お久しぶりですね、ミスター北郷」

「あらあら、随分と散らかしてくれましたわね? 昨日嫉妬のナワバリになったばかりだと言うのに……」


歩み寄る、2つの影。


黒の燕尾服にシルクハットを被り、白い蝶ネクタイをつけ、手には杖と懐中時計。

顔と手にはびっしり包帯を巻いた男、ミスタ・バンデージ。

黒のイブニングドレスを纏い、長い手袋を付けた手にはバッグと扇を持ち、顔の上半分を覆い隠す銀色の仮面を着けた女性、ミス・ファントム


嫉妬の上級系譜の2人が、そこに居た。


「ここは我ら嫉妬のナワバリ、ここに攻撃を仕掛けたからにはおわかりでしょう?」

「丁度良い。貴様らを潰し、憤怒が崩した均衡をこちらに引き戻してやる」

「我らがマザーを侮辱するとは……」

「…………」


ミスタ・バンデージが一歩前に出ようとしたのを、フリルがあしらわれた日傘に遮られた。

嫉妬の契約者、陽炎詠の愛用する日傘で。


「……申し訳ありません、マザー」

「…………」


謝罪をするミスタ・バンデージに目もくれず、詠は前に。

そして北郷と相対する様な位置に立ち……


「…………」


こつっと、日傘で地面を――“自分の影”を叩く。


『オオオオォォオオオオオオオッ!』


それと同時に、影が詠の何倍もの大きさとなり、それが起き上がったかのように実体化。

続けて詠が日傘を構えると同時に、北郷は拳を握りしめ……


ガシィィィイイイイっ!


「総員、攻撃開始!」

「負の契約者達を一掃しろ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


正義と嫉妬の戦争勃発。


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