第60話
「ああそうかい、ご苦労さん」
ただそれだけ言って、光一はそっぽを向きその場を後に。
――しようとしたが、ひなたに腕を掴まれる。
「待って。確かに恨まれて当然なのは……」
「過去の事はどうでも良い。俺は契約者として新しく生きるって決めた時、過去は大神の名前と一緒に全部捨てた」
「……光一」
「大神光一は第三次世界大戦で死んだんだ。だから無駄な努力ご苦労さん、追い出しはしないが、事が落ちついたらさっさと帰ってくれ」
それだけ言って、その場を去ろうとする。
……が、掴まれた腕は未だ離されない。
「いい加減離して貰えませんか?」
「……だったらもう殺してくれない?」
「……?」
「もう疲れたのよ――お父さんを白夜に殺されてからと言う物、1人で必死に今まで生きてきたけど、ここ最近の動乱でもう限界なの。だからお願い」
その懇願に光一は……
「死にたいなら勝手に死んでくれ。死体の処理が面倒だから余所でな」
「……」
腕を振りほどき突き放して、その場を後にした。
それから3日後。
「……ZZZ」
避難も終わり、難民キャンプの物資も問題なし。
治安も特に問題はなく、落ちつきを見せ始めていると報告を受け、光一は久しぶりの自室のベッドで熟睡していた。
『これで、戦争もおしまいか』
『なあ光一、お前これからどうするんだ? 帰るんなら、連絡先を……』
『……帰らないよ。家族なんて、俺には居ない』
『え? でもお前、傲慢の……』
『名前は捨てる。これからの事なら、俺達を保護したいって人たちの所へ行く』
「んっ……ふぁあっ……」
時計を見ると昼ちょっと前。
しかし携帯には着信がない所を見ると、特に問題もないかとのそっと起き上る。
シャワーを浴びて服を着て、クエイクを呼び軽く食べて外へ。
そしてクエイクに乗り、一路ユウの家へと直行。
「よう」
「ああ、ご苦労さん」
自分と同様、あちこち駆け回っていたユウだが、光一ほど疲れは見せていなかった。
流石は武闘派系大罪、と内心感心しつつ、光一は事の報告。
「キャンプの事だが、母親がいたそうじゃないか?」
「……みられてたか」
「どうするんだ?」
「知ってるだろ? 契約者以前の過去はもう捨てた。今更あの頃の事を蒸し返す事に意味なんてあるかよ」
「……なら良いが、あれから飯食ってないらしいぞ?」
「どうでも良い。死にたいって言うなら、死なせりゃ良いさ」
「気にならないのか光一?」
「ならない」
きっぱりと言い放った。
「捨てたって言っただろ。そもそも気にしてたら、見つけた瞬間に殺してる」
「勘弁してくれ。今そんなことされたら、間違いなく世に多大な影響が出ちまう」
「だったらもう二度と口にするな。それより正義だが、負の契約者どころか住人も平然と皆殺しにする事に対して、誠実が同盟を破棄したらしいが、よっぽど新兵器に自身があるのか活動事態は活発になってる」
「となれば、このままいけばこっちに攻め入ってくるのも時間の問題、か……」
「動きは常に確認してある。ナワバリが被害に遭わない距離で迎え討てる様に、準備はしておくよ」
「頼む。それで、宇佐美はどうなんだ?」
「今怜奈さんがつきっきり。ただ、こればっかりは急がせる訳にはいかんだろ」
「……わかってるさ」
Pipipipipipi!
「はい……何!? わかった、すぐ行く」
「どうした?」
「難民キャンプにスパイがいたらしい。避難民人質にして仮設住宅にたてこもってるって話だから、ちといって来る」
「出来る限り事を荒立てるなよ? 今は何がどう作用するかわからん状況なんだから」
「出来る限りな」
所変わって……
「……ここかよ」
やってきたのは、ひなたがいる難民キャンプ。
光一は周囲を見回し、人だかりが出来ている仮設住宅へと歩を進める。
「あっ、久遠さん! すみません、態々」
「謝罪はいいからさっさと状況説明。相手と人質の人数と、相手の目的はわかってるか?」
「はい。敵と人質はそれぞれ1人で……こちらへ」
キャンプを担当する下級系譜が、人気のない所へ光一を誘導。
そして周囲を見回し、光一に1つのビニールに包まれた粉の様な物を差し出す。
「これ……まさか“バーサーカー”?」
差し出されたのは、契約者の技術で開発された物でも、最も危険と評される麻薬。
人の本能を刺激し理性を抑え、歯止めの壊れた極度の興奮状態に陥らせる物で、疲労と不安が渦巻く難民キャンプの避難民が服用すれば……
「……危なかったな。食料庫は大丈夫なのか?」
「はい。食料庫や飲み水は、調査しましたが大丈夫です」
「発見した奴には謝礼を渡すとして、人質の安否は?」
「それが、避難して来てからと言う物、何も食べていない方だそうで……」
「……まさか」
そして現場に戻り……
「おーい、顔見せろー! 俺は憤怒の系譜、残虐の契約者久遠光一だ!」
立てこもってる仮設住宅に声をかけると……
「こりゃ、随分と大物が出たな」
髭を生やした、武骨な印象を持つ男が出てきた。
……やつれてぐったりとしたひなたの腕を掴み、首にナイフをつきつけた状態で。
「……やっぱり」
「?」
「いや、こっちの話。それで、ここで混乱起こして何する気だった?」
「言うと思ったか?」
「そんな今にも死にそうな……いや、死んだか?」
「え!?」
上級系譜を前に、人質なしで無事でいられるわけがない。
その恐怖から、男はぐったりとしてるひなたに目を向け……
パチンっ!
「へっ?」
ボンッ!
「ごへっ!?」
威嚇用の小爆発が男の顔面の直前で起こり、のけぞった。
それと同時に銃声が響き、男の足が撃ち抜かれる。
「ぐあああっ!!」
足を抑えてのた打ち回るのを、周囲の契約者達が飛びかかり確保。
その場に倒れるひなたには、キャンプの責任者が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「…………ええっ」
「んじゃ、後は任せる」
そう言って、光一はひなたの方を見向きもせず、その場から立ち去って行った。
「え? はっ、はぁっ……」
「…………こう……いち」




