第59話
時はさかのぼり、所は傲慢のナワバリ。
「「「…………」」」
属性系能力者、強化系能力者、合成獣使い……
各々の特性ごとに分けられ、寸分の狂いもなく整列する光景。
その全員が、自身の主を待っていた。
「……“心臓”の完成まであと一息。後は土台を鍛え上げる事に」
「大神君、準備は出来ましたよ?」
「……御苦労」
側近の上級系譜、岩崎賢二の知らせを受け、傲慢の契約者は立ちあがる。
そして……
「白夜様だ!!」
「白夜様!!」
「我らが盟主、白夜様!!」
「白夜様バンザーイ!!」
その姿を現すと同時に、寸分の狂いなく整列をしていた契約者達が、地面を揺るがす勢いで歓声を上げ始めた。
それに動じることなく、白夜はマイクを取り……
「静まれ!!」
その一言で歓声はぴたりと止まり、場を静寂が支配した。
「勇気のブレイカーの発見から、憤怒と慈愛の戦争までにおける乱世は終わった。だが近日における正義の進撃開始……世界は再び、乱世へと移行しようとしている!」
白夜の言葉に、周囲はどよめく……事はなく、ただ黙っていた。
それを見て頷くと……
「そうだ、乱世など恐るるに足らん!」
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
「強者としての誇り、先を見据え歩む意思、そして鍛え上げられた力! 我が試練を乗り越え、それらを兼ね備えし我が精鋭にして真の強者たちよ!」
「「「はっ!」」」
「この乱世を生き抜き、勝ち残れ! 私もまた、この乱世を経て新たな力を手に入れ、新たな時代を我が手にして見せよう! 共に強者の時代を築き上げようではないか!!」
白夜はそう言って、マイクを降ろす。
そしてその次の瞬間……。
「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」
「白夜様!!」
「新たな時代を我らの手で!!」
「白夜様バンザーイ!!」
先ほどとは比較にならない、大声援が場を包み……地面を揺るがした。
それを一身に浴び、白夜は踵を返してその場を後に。
「大神君。正義の動……」
「ナワバリの事は任せた。私はしばし留守にする」
「え!? ちょっ……」
それを追ってきた岩崎の言葉を、白夜は興味がないと言わんばかりに唐突に遮り……岩崎の反論の余地なく、その場から消え去った。
――時は戻り、場所は憤怒のナワバリの難民キャンプ。
「うわああああああんっ!」
「うっ……くぅっ……」
「しっかりしろ、もうすぐ手当てが受けられる」
「おい、まだか? 女房が死んじまうよ!」
避難の際に暴動が起こり、ケガ人が多数出た街
あるいは避難の際、何者かからの襲撃を受けた避難民達が集まるキャンプ。
「医療品の配送急げ! 炊き出しはまだか!?」
それ故に避難民を狙う者の討伐は、牽制の意味も込めユウが直々に。
ケガ人の集まるキャンプの陣頭指揮は、光一が取っていた。
「こっち消毒液くれ!」
「こっち治療終わった! 次の患者を!」
「ならこっち来てくれ!」
「炊き出しの追加終わりました! 治療が終わった方はこちらへ!」
「すみません、通してください!」
医療班はせわしく駆け、治療し、そして次を。
ただひたすらに、避難民の治療に帆走し続けていた。
そして時は過ぎ……。
「久遠さん、事態は落ちついてきました」
「じゃあもうひと踏ん張りだな」
「いえ、後は自分がやります。久遠さんは休憩所で、横になっていてください」
「そうか? ……じゃあ緊急の用件があったら、すぐ起こしてくれ」
「了解です。食事は用意させてありますので」
「ありがとな」
事態は落ち着きを見せた頃に、下級系譜への引き継ぎを行い光一は一路休憩所へ。
そこで食事をとり、光一は横になりあっと言う間に寝息を立て……。
「――ん……6時か」
朝に目を覚ました。
「……(がしがし)」
光一は起き上がり、周囲を見回す。
物質操作系の造った、プレハブ小屋の様な即席仮設住宅の中。
連なるベッドで、全員がぐっすりと眠りこけている。
「……ご苦労さん」
そう呟くと、一路外へ。
仮設住宅と炊き出し用のテントが連なり、少し離れた先には自家用車の群れ。
その中で、これからどうなるのかという不安と、大罪の庇護下に入ったという安心に挟まれつつ、眠る人たち。
そして、憤怒で開発された警備ロボットが巡回すると言う光景。
「あっ、おはようございます」
「ん? ああ、おはよ。状況は?」
「さして問題はありません。ただ、医療班の方に……」
「わかってるよ、物資の補充は手配しておく。じゃあちょっと見回りしてから帰るぞ?」
「はい。ありがとうございます」
時間が朝ともなり、ちらほらと目を覚ました人たちが外へ。
炊き出しの準備を始めているのか、スープの香りも漂い始めていて、光一は少しつられそうになる。
「……いかんいかん、アレは避難民のなんだから」
少し恥ずかしくなって、光一は一路駐車場へ。
避難用のバス、あるいは自家用車が規則正しく並ぶ区域。
車の中で夜を過ごした人たちも、炊き出しの食事を受け取りにキャンプの方へ向かう姿が、ちらほらと見え始めている。
「そろそろ物資運搬の為にクエイクが来る筈だから、乗って帰ろ。ユウにも連絡しな……」
「あの、憤怒の方ですか? お尋ねしたい事が……!」
「はい、なんで……!」
「……光一!」
「は? あの、俺の……まさか!」
帰りの算段をする際、避難民の1人と思わしき40代の女性に声をかけられ、振り向く。
その顔は……。
「――なんでこんなところに居る?」
「避難するためと、上級系譜久遠光一が7年前行方不明になった子供かどうか、確かめる為よ。やっと見つけた」
光一の母、大神ひなたその人だった。




