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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第58話

宇佐美達への襲撃から、一週間が経過。

歩美たちはショックから立ち直れず、宇佐美も衝撃は大きい状態。


「……やはり、上手くいかないか」

「ええ。契約条件がぶつかり合う所為か、元となる肉体の方が耐えきれないようでして」

「ならばこのデータをもとに、どうにか安定する方法を探さねば。このままではプロジェクト凍結も……」


バキバキバキッ!


「え? なっ! アンタは……!?」

「ならば、間に合った……とでも言うべきか」

「一体なぜここ……っ!」

「これが実験データか」

「かえ……」

「“凶座相グランドクロス”」


だがそれに関係なく……。


「ひいいいっ!」

「ぎゃああああっ!!」

「殺せ! 負の契約者もその恩恵を受けた者も、1人残らず殲滅しろ! 世を乱す悪の存在を絶対に許すな!!」


世界は動く。



『……以上、ニュースをお伝えしました』


世は未だ潰えぬ乱世の火種。

契約者の恩恵で成り立つこの時代では、契約者の動きで人々の安寧は左右する。


特に憤怒と慈愛の戦争が終結して間がないこの時期。

とある街の一角にあるビルの、契約者の犯行と思われる謎の爆発。

正義が新兵器を開発、とある負の契約者のナワバリ併合戦で投入というニュースが流れるや否や、人々は不安にかられる事となった。


「久遠光一です、署長をお願いできますか?」


それは憤怒のナワバリも同様。

あちこちの負の契約者の小組織や、そのナワバリの住人からの要請。

主に傘下の加入希望、あるいは避難の依頼が殺到。


境目には受け入れ希望の住人が我先にと傾れ込んでおり、交通整理から仮設住宅やシェルターの準備まで、応援要請がひっきりなしに届いていた。


「ええ、一般人の交通整理ですので、お願いします。っと、次は……俺だ、すぐに物質操作系を選りすぐって、仮設住宅を作る準備を。さっきナツメ(とソルジャードッグ達)を向かわせたから」


余談だが、この状況ゆえかナツメも悪ふざけはせず、仕事に勤しんでいた。

……今までが今まで故に信用されず、信長たちソルジャードッグの監視下にある事は変わらないが。


「…………」

「……?」


ユウは勿論、光一も処理すべき案件が次から次へとなだれ込み、憤怒の組織はフル稼働。

そんな光一の様子を、宇佐美と状況をよく理解出来てない葵がじっと見詰めている。


「えーっと……ん? ああ、宇佐美か。大丈夫?」

「あたしはね……でも謝らないでよ? ただでさえ忙しいっていうのに、あれこれとやって貰ったんだからこれ以上はもう良い。て言うか光一、最近ちゃんと寝てる?」

「いや……ここ最近全然。でもユウもナツメもそうだけど、月だって自分のナワバリで忙しくしてんだから、俺だけ弱音はけない」

「……」

「えーっと……医療班か? 医療品の手配と出動準備を。ああ、多少オーバーしてもかまわないから頼む」


宇佐美はどこか、取り残された感じがしていた。


「お気持ちはよくわかります」

「……怜奈、さん?」

「ワタクシも、同じようなお気持ちですから」


実は最近になり、怜奈はこちらへ移っていた。

と言うのも、歩美たちの世話と宇佐美のケアを目的として、ユウの許可をもらいここに来ていた。


「……そうですね。やっぱりリーダーがいない慈愛の組織が」

「いえ、組織の運営と言う意味では、ワタクシは居てもいなくても同じです。ワタクシは朝霧さんや月さんと違い象徴、お飾りでしかなかったのです」

「……え? あんなに、慕われてたのに、ですか?」

「慕われる事と頼られる事は別物です。あの戦争にしても……」

「……あー」


戦争の原因となった、あの3姉妹の言葉を思い出す。

確かに彼女たちは怜奈を慕ってはいても、意見を聞き入れてはいなかった。


……実質、たった1人で慈愛のナワバリを取り戻した朝霧裕樹と互角に戦ったと言う、確かな実力の持ち主だと言うのに。


「……ですから、組織は何も心配はありません。それより宇佐美さん、久遠さんからお聞きしましたが、よろしければ思念の扱い方を学んでみませんか?」

「え? ……良いんですか?」

「ええ、ワタクシは名目上は人質の身。故に良くても朝霧さんや、皆さんの身の回りのお世話しか出来ませんので」

「……」


しかたのない部分は、どうしてもあるかもしれない。

それでも、足掻かない訳にも行かず、足掻きたいとも思っている。


だが力も足りなければ、何もかもを知らなさすぎて、覚悟もあまりに軽すぎる。

宇佐美には目の前の存在が、あまりに遠過ぎていた。


「……ワタクシは、人を傷つける事を禁忌としています」


……そんな目を見て、宇佐美の真理を悟ったかのように怜奈はふと言葉を紡いだ。

宇佐美は目を見開き、じっと怜奈を見つめる。


「おかしいと思いますか?」

「……いえ。でも、怜奈さんは」

「ええ。契約者の頂点と言う立場上、禁忌としている事自体が笑い話にもならない位、数え切れないほど破りました。朝霧さんに対する無礼然り、ナワバリを守れなかったこと然り……」

「……」

「ですがこの禁忌を、それを破る苦しみを忘れてしまえば、今まで傷つけ、殺してしまった人たちの存在理由は、一体どうなるのでしょう?」


そこで怜奈は、表情を変える。

いつもの優しさのあふれる顔から一転、覚悟を現すかのような表情へと


「これは“慈愛”の本分を忘れないための、ワタクシの覚悟でもあります。偽善だろうと独善だろうと、傷つけた事を、殺した事を無意味にしないためにも」


そこで怜奈は、宇佐美の手を握る。


「苦しいのは貴女だけではありません……ですから、違う存在のように見ないでください」


そういって、優しく笑む怜奈。

さらに……。


「……葵ちゃん?」

「……なんとなく、こうしてもらうと落ちつくような、そんな気がする」

「……ありがとう」


その横で、意味はわかっていない様子ではあるが、頭を優しく撫でる葵。


「……宇宙さん、これ見たらどう思うだろうな?」

「きゅ~ん」

「ん? ああ、腹減った? そう言えば俺も飯食ってなかったっけ?」

「わんっ!」

「……んじゃ、そーっと行くか。そーっと」


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