第57話
「斬る切る伐るきるキルKILL!」
「……」
「歩美ちゃん、しっかり」
「……どうなっちゃうんですか?」
その場に居合わせている歩美、さやか、京は、宇佐美とナツメの後ろで身を寄せ合い、震えていた。
それを見て、ナツメはぐっと金属棒を握る手に力を入れる。
「一条宇佐美!」
そう叫び大刀を振り上げ、鎧武者が宇佐美めがけて襲いかかる。
「ウチを無視するなー!」
最近の扱いの悪さへの怒りをぶつけるかのように、ナツメが愛用の金属棒を振り上げる。
うねうねと形を変え、鉄球へと姿を変わるとそれをブン投げる。
「!」
鎧武者がそれを迎撃すべく、大刀を振り下ろす。
パチュッ!
「!?」
……が、大刀とぶつかった瞬間鉄球がはじけ、鎧武者の上半身ごと腕を包み、抑えつける様にがっちりと固める。
その鉄球は目をこらさねば見えないほど細い糸が伸びており、それがナツメの手元まで伸びている。
ナツメは手に持っているバトン位の金属棒を握り、ニヤリと笑みを浮かべる。
「宇佐美」
「うん!」
好機とみた宇佐美が駆けだし、鎧武者めがけて駆けだす。
狙うは膝、仕掛けるは足払い。
ゴキゴキっ!
「え?」
「……一条宇佐美殺す」
鎧武者からゴキゴキと言う音が響くと、金属の拘束からスポっと抜け出る。
――体中がありえない方向に曲がった状態で
「きっ、気持ち悪い。何あれ!?」
「まさか、関節を外して……?」
「……ケケケケケケ!」
鎧武者がぐっと足を踏ん張る姿勢をとり、身体を捻り……。
2、3回転するさせ、目で見てわかるほど筋肉をねじれさせた体勢で、大刀を構える。
『……どうやらあの武者、関節を外して身体の稼働範囲を無理やり広げた上で、本来あり得ない伸縮に耐えうる強化を筋肉に施した上で、念動力で身体を動かしてるみたい』
『……すっごい使い方する人がいた物ね』
『でもその分、打撃は効かない可能性が高いよ』
『……』
そこで宇佐美は、躊躇いを見せた。
自身の攻撃は打撃であり、それが聞かないとなると能力を使うしかない。
だが合成獣相手には無我夢中で放った物の、一振りで万人を吹き飛ばせる自身の能力を、如何に自分の命を狙う敵とはいえ、人に向ける事には……。
『ごめん、さがってて』
『え? でも……』
『ウチ、まだ系譜を使っての戦いに慣れてないから、迷い持った宇佐美を守れる余裕ない』
『……ごめん』
シンクロは機械的に人と人との脳を繋げる機能。
故に微かな迷いすら、ダイレクトに相手の脳に伝わる。
「……とはいえ、どうしよ?」
パワーで言えば、量産型を扱っているといえど明らかに相手が上。
ナツメは下級系譜といえど、光一と同じでパワー戦が苦手な技巧派タイプ。
もし突進で来られたら、自分たち事宇佐美をやられるかもしれない。
『attack!』
「え?」
それを遮る様に、機械的な声が響く。
それと同時に、鎧武者の頭上から……
バキャッ!
「!?」
鉄の塊が降ってきたと思いきや、それが鎧武者を殴り飛ばした。
「「クエイク!!」」
「すまん、遅れた。ケガはないか!?」
クエイクの背中から、ひょいっと飛び降りる貧弱な体躯の少年。
「思ったより早かったね?」
「現場が近かったからな。というか、コイツが起こした事件だったらしい」
「……一条宇佐美殺す」
さして効いた様子もなく、鎧の砕けた個所から見える痣に気を向ける事もなく。
まるで殴られた事自体にも気付いてないかのように、鎧武者は立ち上がる。
「……流石に怖いんだけど」
「この程度で音をあげたら身がもたんぞ?」
「それは、わかってる……つもりだったけど」
「百聞は一見にしかず、だな」
「おおおおおおおおおっ!」
光一が宇佐美に木を向けてる間に、鎧武者がいきり立って突進。
大刀を振り上げ、光一ごと宇佐美を断ち切ろうと一歩踏み出し……
「ま、迷いがあるうちは迷えばいいさ。少なくとも、迷うこと知らないより……」
「ちょっ、光一! 後ろ後ろ!」
「光一の兄さん!」
ガシッ!
「!?」
「え?」
「よっぽどしっかりした土台が出来るから」
棒を変形させようとしたナツメ、そしてやむおえず風で迎撃しようとした宇佐美が、目の前の光景に唖然としていた。
振り下ろされた大刀、それに添えられた光一の右手、力の入れ具合が見てとれる鎧武者。
その光景は、どう見ても光一が片手で鎧武者の乾坤一擲の一撃を受け止めている、としか見えなかった。
それも、自分達より細いんじゃないか、と言う位の細腕で。
「……どういう事?」
「腕良く見てみな?」
そう言われて、宇佐美とナツメは目を凝らし、光一の右手を見つめる。
2人はかろうじて、光一の腕をうっすらと膜の様な何かに覆われているのを理解した。
「契約者は感情を経由してブレイカーと契約し、能力を扱える。だがその能力だって、無限に使える訳じゃない」
「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」
「能力は思念を消費し、ブレイカーの演算で引き出された能力を稼働させる事で発動する。だが……」
光一が左手を大剣に添え……
「上級系譜以上は、その思念をブレイカーを介さず物理的な力として扱う技法をマスターしている。それが……」
バヂバヂバヂバヂ!!
「ギャアアアアっ!!」
「上級系譜と下級系譜の差でもあり、大きく隔てる境界線でもあり、絶対に覆されない力の差にも繋がっている。つまり……」
ドサッ!
「出力で勝っていて、尚且つそれを十二分に活かせる技法をマスターした上級系譜以上は、下級系譜以下では絶対に倒せない」
最も、そんな技法がある事自体、知られてないがな。
と付け加え、光一は鎧武者の搬送をすべく携帯電話を……
「ごっ……ごごっ……」
「?」
「ごげ換えが下がエアがえ新江らttじゃ維持他ママ:mらおえrふぁ:え尾亜j:ふぁlfま:縁ふぁ終えf前mふぁk;fなkふぁ:kjろあjfdkんggひあうぇjr:」
鎧武者が意味不明な言葉の羅列を続けながら、のた打ち回り始める。
「これ、まさか……!」
光一が気付いた時には時遅し。
鎧の留め具をも引きちぎる勢いで身体が膨張し……爆散した。
「! まずい!」
辺りに血と臓物の雨が降り注ぎ、光一は慌てて宇佐美達に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「……なん、とか」
どう見ても強がりだ、と光一にもすぐわかった。
髪に顔、それに服にも飛び散った血がかかっていて、
「ひっ……いっ……いやあああああああっ!!」
「ふぅっ……」
「…………」
歩美が自分にかかった血を見て悲鳴を上げ、さやかは気絶。
京は唖然と、自分の置かれた以上な状況を理解できず、茫然としていた。
「……(ぎりっ)……なんてこった」
「光一の兄さん」
「どうした?」
「これ、あの武者が使ってたブレイカー……だと思うんだけど」
「……2つ、か」




