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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第56話

「そう言えば光一」

「ん?」


所は宇佐美達とナツメ、そして葵も一緒に住む事になったマンションの一室。

護衛対象が増えた事もあり、事務仕事はそこでやる様になった光一に、今度歌う事になった曲の練習を休憩してた宇佐美がふと質問。


「以前上級系譜と下級系譜について話したよね? ふと思ったんだけど、なんでそんな違うの? 使ってるのは、同じ系譜のブレイカーなのに」

「あっ、知りたい知りたい!」

「きょうみあります~!」


それに漫画を読んでたナツメと、みやちゃんを始めとする3人も、食いついてきた。

それにつられてか、絵本を読んでた葵も興味津々の眼で光一を見つめる。


「まだダメ」

「「えーっ!」」

「ナツメはサボり癖直したら。宇佐美はまだ早い」

「あたしも?」

「そう。上級と下級を分ける境界線は、大罪と美徳にどれだけ近いか。その土台となるスキルがあるんだよ、そうだな……まあ、一応1つ位はいいか。んで、その1つが“クリア”精製」

「クリア? ……それって確か、大罪や美徳のナワバリだけで出回ってるエネルギー結晶体の事よね? それ1つで都市のエネルギーを5年は賄えるって」

「そう。あれは実を言うと、とある技法で契約者の思念を結晶化した、言うなれば能力の塊みたいな物で、それを生成できるのは大罪と美徳、そしてそれに最も近い上級系譜のみだから」


一般的に知られているのは、水晶にも見えれば硝子のようにも見える、拳サイズの結晶の様な物。

ただその色はさまざまで、ナワバリによっては黄色い物もあれば緑色の物もあり、と統一性が全くない。


「ちなみに俺のは黒」

「へえっ、面白そう。精製の仕方教えてくれない?」

「怜奈さんか月と一緒じゃなきゃダメ。失敗したら暴発するから、ヘタすりゃこの辺り一帯が吹っ飛ぶ」

「ウチは……」

「お前はだめだ!」


余談だが、一般に出回っているのは全て上級系譜が精製した“クリア”であり、大罪や美徳の精製した“クリア”が組織外に出回る事はない。

更に言えばクエイクを始め、暴食のサイボーグ、知識のビット等、これらはすべて“クリア”を動力にして動いている。


「“クリア”を何個作れるかが、そのまま上級系譜の能力値として見られたり、ナワバリの潤沢さに繋がったりと、結構重要度は高いスキル」

「でも、それだけじゃないんでしょ?」

「当たり。その辺りは、また今度な?」




ブロロロロロっ!


「おいっ、もちっとゆっくり走れよ」

「悪い……にしても、いつやっても落ちつかないよな。“クリア”の運搬」

「言うなよ。確かに俺だって、さっさと終わらせたいけど……」

「とりあえず、ボスの“クリア”じゃないだけ、良しとしとこうぜ?」

「だな。それじゃ危険手当いくらあっても、割に合わないよ」


ドガッ!


「えっ? うわあああっ!」


キキィィイイイイっ! ドォンッ!


「…………」




「はいはい、わかってるよー。久遠の兄さん。ウチならちゃんとバレ……もとい、ちゃんとやるから。えっ!? そんな、酷い!!」


時は朝。

朝一でかかってきた電話に、桐生ナツメは喜々として……号泣しつつ、応答。


そして電話を切ると……


「どうしたの?」

「久遠の兄さん、仕事が入ったから来れないって」

「仕事って、上級系譜の?」

「うん。どうも大事らしいからね♪」

「さぼれるわけないですよー? ちゃんとー、のぶながちゃんたちはいるんですからー!」

「「「わぉんっ!」」」


光一と宇佐美の留守中に、3人はすっかり信長たちと仲良くなっていた。


「……」

「あっ、おはよーって、寝ぐせすごいね!?」

「……?」

「ほーら、こっちおいで葵ちゃん」


更に言えば、葵もすっかり4人に懐いており、寝癖を直してくれてる宇佐美にもたれかかっている。


「と言うか、この子たち居ればナツメちゃんいらないんじゃない?」


グサッ!


「それきついよ~、さやかの姉さん!」

「でもサボってばかりだから、そう思われても仕方ないよ? それに葵ちゃんだって、こんなだけど物覚えはいいし素直だし、光一君が補佐にするのわかる気がするよ」

「うぅ~っ……」

「はいそこまで。今日はレッスンでしょ? 早くしないと、怒られるよ?」

「はーい」


歩美、さやか、京がそれぞれ着替えに部屋へ行くと……


「光一は、何の仕事に?」

「さあ? 詳しく教えてくれなかったから、わかんない」



――所変わって


「……で、貨物の“クリア”5個と、その制御装置は無事なんだな?」

「はい」


目の前に広がっているのは、タイヤの跡とその先にある、コンテナが妙な形でへこんだトラック。

それも重機などでやった様な物ではなく、人の3倍はありそうな剣でブン殴ったかの様な。


「……どう見ても契約者の犯行だよな。しかもパワー型」


余談だが、強化系能力を得意とする肉体派契約者は、平然と2メートルを超えている事が多く、体重も3ケタは軽くいっている者も珍しくない。

その代表が、暴食の契約者明治我夢と、怠惰の契約者荒川公人である。


「……それで、逃走経路はつかめたか?」

「はい。あちらの街の方へ」

「あちらって……確か今日!」



「……一条宇佐美、抹殺」

「ひゃあっ!」


ドゴォンッ!


「なっ、何てバカ力!?」


ナツメは宇佐美達5人を守る様に、目の前の鎧武者の前に立ち愛用の金属棒を構える。

まず兜と面、そして甲冑を纏い、手には人の身長の3倍はありそうな大刀を握る、軽く2メートルを超した大男。


「……一条宇佐美、抹殺」

「え? あたし?」

「ちょっと、いきなり女の子を殺すとか……」

「……抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺けけけけけ」

「……どう見てもまともじゃないよね。ねえ、光一に連絡は?」

「やった。けどそんなすぐに……」


ナツメの言葉を最後まで聞かないまま、宇佐美がその横に立ち構える。


「って、何してるの宇佐美ちゃん?」

「怜奈さんやユウに鍛えられてるんだから、光一が来るまでの時間稼ぎくらい出来なきゃ意味ないじゃない」

「……じゃあシンクロくらいはして。危ないって判断したら下がって貰うからね」

「わかってるよ」


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