第56話
「そう言えば光一」
「ん?」
所は宇佐美達とナツメ、そして葵も一緒に住む事になったマンションの一室。
護衛対象が増えた事もあり、事務仕事はそこでやる様になった光一に、今度歌う事になった曲の練習を休憩してた宇佐美がふと質問。
「以前上級系譜と下級系譜について話したよね? ふと思ったんだけど、なんでそんな違うの? 使ってるのは、同じ系譜のブレイカーなのに」
「あっ、知りたい知りたい!」
「きょうみあります~!」
それに漫画を読んでたナツメと、みやちゃんを始めとする3人も、食いついてきた。
それにつられてか、絵本を読んでた葵も興味津々の眼で光一を見つめる。
「まだダメ」
「「えーっ!」」
「ナツメはサボり癖直したら。宇佐美はまだ早い」
「あたしも?」
「そう。上級と下級を分ける境界線は、大罪と美徳にどれだけ近いか。その土台となるスキルがあるんだよ、そうだな……まあ、一応1つ位はいいか。んで、その1つが“クリア”精製」
「クリア? ……それって確か、大罪や美徳のナワバリだけで出回ってるエネルギー結晶体の事よね? それ1つで都市のエネルギーを5年は賄えるって」
「そう。あれは実を言うと、とある技法で契約者の思念を結晶化した、言うなれば能力の塊みたいな物で、それを生成できるのは大罪と美徳、そしてそれに最も近い上級系譜のみだから」
一般的に知られているのは、水晶にも見えれば硝子のようにも見える、拳サイズの結晶の様な物。
ただその色はさまざまで、ナワバリによっては黄色い物もあれば緑色の物もあり、と統一性が全くない。
「ちなみに俺のは黒」
「へえっ、面白そう。精製の仕方教えてくれない?」
「怜奈さんか月と一緒じゃなきゃダメ。失敗したら暴発するから、ヘタすりゃこの辺り一帯が吹っ飛ぶ」
「ウチは……」
「お前はだめだ!」
余談だが、一般に出回っているのは全て上級系譜が精製した“クリア”であり、大罪や美徳の精製した“クリア”が組織外に出回る事はない。
更に言えばクエイクを始め、暴食のサイボーグ、知識のビット等、これらはすべて“クリア”を動力にして動いている。
「“クリア”を何個作れるかが、そのまま上級系譜の能力値として見られたり、ナワバリの潤沢さに繋がったりと、結構重要度は高いスキル」
「でも、それだけじゃないんでしょ?」
「当たり。その辺りは、また今度な?」
ブロロロロロっ!
「おいっ、もちっとゆっくり走れよ」
「悪い……にしても、いつやっても落ちつかないよな。“クリア”の運搬」
「言うなよ。確かに俺だって、さっさと終わらせたいけど……」
「とりあえず、ボスの“クリア”じゃないだけ、良しとしとこうぜ?」
「だな。それじゃ危険手当いくらあっても、割に合わないよ」
ドガッ!
「えっ? うわあああっ!」
キキィィイイイイっ! ドォンッ!
「…………」
「はいはい、わかってるよー。久遠の兄さん。ウチならちゃんとバレ……もとい、ちゃんとやるから。えっ!? そんな、酷い!!」
時は朝。
朝一でかかってきた電話に、桐生ナツメは喜々として……号泣しつつ、応答。
そして電話を切ると……
「どうしたの?」
「久遠の兄さん、仕事が入ったから来れないって」
「仕事って、上級系譜の?」
「うん。どうも大事らしいからね♪」
「さぼれるわけないですよー? ちゃんとー、のぶながちゃんたちはいるんですからー!」
「「「わぉんっ!」」」
光一と宇佐美の留守中に、3人はすっかり信長たちと仲良くなっていた。
「……」
「あっ、おはよーって、寝ぐせすごいね!?」
「……?」
「ほーら、こっちおいで葵ちゃん」
更に言えば、葵もすっかり4人に懐いており、寝癖を直してくれてる宇佐美にもたれかかっている。
「と言うか、この子たち居ればナツメちゃんいらないんじゃない?」
グサッ!
「それきついよ~、さやかの姉さん!」
「でもサボってばかりだから、そう思われても仕方ないよ? それに葵ちゃんだって、こんなだけど物覚えはいいし素直だし、光一君が補佐にするのわかる気がするよ」
「うぅ~っ……」
「はいそこまで。今日はレッスンでしょ? 早くしないと、怒られるよ?」
「はーい」
歩美、さやか、京がそれぞれ着替えに部屋へ行くと……
「光一は、何の仕事に?」
「さあ? 詳しく教えてくれなかったから、わかんない」
――所変わって
「……で、貨物の“クリア”5個と、その制御装置は無事なんだな?」
「はい」
目の前に広がっているのは、タイヤの跡とその先にある、コンテナが妙な形でへこんだトラック。
それも重機などでやった様な物ではなく、人の3倍はありそうな剣でブン殴ったかの様な。
「……どう見ても契約者の犯行だよな。しかもパワー型」
余談だが、強化系能力を得意とする肉体派契約者は、平然と2メートルを超えている事が多く、体重も3ケタは軽くいっている者も珍しくない。
その代表が、暴食の契約者明治我夢と、怠惰の契約者荒川公人である。
「……それで、逃走経路はつかめたか?」
「はい。あちらの街の方へ」
「あちらって……確か今日!」
「……一条宇佐美、抹殺」
「ひゃあっ!」
ドゴォンッ!
「なっ、何てバカ力!?」
ナツメは宇佐美達5人を守る様に、目の前の鎧武者の前に立ち愛用の金属棒を構える。
まず兜と面、そして甲冑を纏い、手には人の身長の3倍はありそうな大刀を握る、軽く2メートルを超した大男。
「……一条宇佐美、抹殺」
「え? あたし?」
「ちょっと、いきなり女の子を殺すとか……」
「……抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺けけけけけ」
「……どう見てもまともじゃないよね。ねえ、光一に連絡は?」
「やった。けどそんなすぐに……」
ナツメの言葉を最後まで聞かないまま、宇佐美がその横に立ち構える。
「って、何してるの宇佐美ちゃん?」
「怜奈さんやユウに鍛えられてるんだから、光一が来るまでの時間稼ぎくらい出来なきゃ意味ないじゃない」
「……じゃあシンクロくらいはして。危ないって判断したら下がって貰うからね」
「わかってるよ」




