第55話
「……そんな怪我でのいきなりの訪問、一体どういう事で?」
「……お前ならわかってるだろ久遠?」
「北郷と決闘して負けたっての、本当だったようですね。それで?」
「……そう、俺は負け犬だ。だが尊敬してくれてる妹を裏切り、あいつの狂気を見て見ぬふりなんて出来ない。だから正と負の在り方を変える為にも、お前達と同盟を結びたい」
「……正気ですか? そりゃ、俺だって聞いた時には腹が立ちましたよ。何せ両親が死に、残された幼い兄弟を養う為に契約者になったって言うのに、その条件が負だったって理由でそいつを殺し、それを抗議した幼い兄弟まで殺すだなんて。でも同盟を組むからには、俺達を頼った理由位提示して……」
「話を聞いただけで十分だ。俺がそれを責めた時、あいつがなんて言ったと思う? “悪に正義の鉄槌を下す事は至極当然。正しく生きられない者に命を持つ資格はない”って、俺の言い分もまともに聞こうとしなかった事に比べればな」
「……確かに、そんな状態で他の美徳を頼っても無意味ってのはわかりますよ? “慈愛”は周囲が許さないだろうし、“知識”は言わずもがな。かといって、残りの“友情”、“希望”、“誠実”を全部引き入れたとしても、美徳の内部争いになる。そうなれば大罪がそれを見逃さない訳もないから、最悪負の契約者の天下の礎……そう考えれば、最善は俺達との同盟かもしれないけど、裏切るかもよ?」
「それはないな。何度も殺し合った間柄だ、お前達の事は理解している。だからこそ、理解してくれると信じて来た」
「買いかぶりますね?」
「一番近いからこそだ。流石にほかの大罪を、ここまで信用する気はない。お前達だけなんだ、今信用出来るのは」
「……ならちょっと待ってくださいね。事がでかすぎて、俺が決断していいレベル超えてるから、ユウに相談しないと」
「……ありがとう。そして、よろしく頼む」
「まだ決まってないですよ?」
「決まるさ……俺の対だ。俺以上にユウを理解してる奴なんて、家族とお前位しかいる訳がない」
「……じゃあちょっと待っててくださいね? “同胞”」
「ああっ。良い付き合いにしような、“同胞”」
「――ん……夢、か?」
目の前に広がるのは、天井。
ゆっくりと体を起こすと、テーブルにテレビに小型の冷蔵庫と、少し殺風景な自分の部屋。
そう言えば、ユウと月以外をここで見た覚えがないな、と思いつつ。
「……あの時からじゃ、想像できなかったな」
一条宇宙は死に、朝霧裕樹は片目を失い、正と負の均衡が崩れ世は乱れに乱れた。
そして妹の宇佐美が新たな勇気の契約者となり、今に至る。
……正と負の在り方を変える。
宇宙の理想からかけ離れた意味で、それが実現された世で。
「っと、いけない。仕事行かないと」
三村葵が、光一の保護下となって一週間が経過。
ユウに事を報告し、許可はもらった。
量産型のブレイカーを持たせ、契約者のフリをさせた上で――。
「えっと、使い方はわかったかな?」
「……うん」
少しずつ、実体験でかすかな記憶を身体に馴染ませた上で、光一の補佐として働いてもらおうと言う事に。
「わあっ、上手上手」
「……うん」
「あっ、ジュースのみます-?」
「……うん」
名目上は光一の秘書となっていたが、事実上はまだ生まれたばかりの赤ん坊。
オリジナルの記憶はあっても未だ馴染んでおらず、会話自体も本人よくわかっていない上に、箸もまともに使えないという状態。
それで歩美、さやか、京が世話になったお礼がしたいと、彼女の世話役を買って出ていた。
現在は昼食時で、歩美手製料理でフォークなどの練習中。
「悪いね、なんか」
一応その場には光一も居合わていて、4人と対面する形で事務仕事に勤しんでいる。
「わんっ!」
「わぉーんっ!」
「…………」
……横で、また仕事さぼってコンビニで立ち読みしてる所を、ソルジャードッグの信長、秀吉、家康に捕まって連れ戻され、横たわるナツメ。
「くぅーん」
「……きゅーん」
窓際では、ひなたぼっこをしながら親に毛づくろいをして貰い、心地よさそうに丸まっている秀頼がいる。
と言う平和な(?)光景の中で。
「いえ、気になさらないでください。日ごろのお礼でもありますから」
「そうだよ。それに楽しんでやってるんだから、気にすることないよ」
「ですですー」
「ありがと」
――ファーストフードの袋を取り出し、チーズバーガーの包みを開きつつ。
「「…………(じー)」」
「……? 何?」
「光一君、それなに?」
「これ? 仕事だけど?」
「そうじゃなくてー、いまたべようとしてるものですー! いえばよういしてあげるのにー、なんでそんなのかってくるですかー?」
「言えばって、そんな図々しい……」
さやかと京の責める様なじと目に、光一はその先を言えなかった。
「なんかよくわからんが、ごめん。でも、今更……」
「じゃあみやちゃんのぶんあげますから~、それたべさせてください~」
「はっ? いや、そこまでして貰わなくても……」
「みやちゃんチーズバーガーだいすきです~。たべさせてくださ~い」
「……わかったよ」
光一はやれやれ、と言う風にファーストフードの袋を京に手渡す。
京がわ~いとそれを受け取り、チーズバーガーの包みを開くほおばり始めた。
「おいひーれふ~」
「じゃあ俺も、頂きます……うん。おいしい」
「だって。よかったね、歩美ちゃん」
「え!? あっ……ありがとう、ございます」
「??????(もぐもぐ)」
そんな光景を、疑問符浮かべもぐもぐと食べながら見る葵だった。
「そう言えば光一君、宇佐美ちゃんに泊まり込みで仕事見せたんだよね? どうだったの宇佐美ちゃんは?」
「ちょっと前まで一般人の部類だった事を考えれば、良い働きしてるよ。以前宇宙さんと一緒に、暴走した合成獣の討伐をした時の事を思い出したな」
「宇宙って、宇佐美ちゃんのお兄さんで、前の勇気の契約者だった人だよね?」
「そう。ユウにとって対であり、ライバルであり、親友だった人……そして、正と負の間柄を変えたいって願い、俺達と手を取り合った人だよ」
正と負の契約者の間柄。
普通に考えれば、まず第一に出てくるのが闘争、対立と言った物であり、決して友好的ではない。
それと言うのも、世にはびこる契約者による犯罪は、全て負の契約者によるものであり、正の契約者はそれを抑止するための存在。
という考えが根付いているからである。
「……ご馳走さま。正直言うと、宇佐美の今の姿見て嬉しいって思ってる」
「そう、なんですか?」
「ああっ、事に取り組む姿勢が宇宙さんそっくりでね。宇宙さんの意思は、宇佐美の中で生きてる……そう確信できるのが、何よりうれしい」
「そう、なんだ」
「あっ、これ宇佐美にはまだ内緒な? いつかは伝えるべき事だけど、今はまだその時じゃないから」
「ゆさみちゃんよろこぶとおもいますよ~」
「だからこそだよ」
「くしゅんっ!」
「あら、風邪ですか? たいへん」
「裕香に風呂の支度はさせてあるから、帰るか?」
「まだ大丈夫! 怜奈さん、続きお願いします!」




