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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第55話

「……そんな怪我でのいきなりの訪問、一体どういう事で?」

「……お前ならわかってるだろ久遠?」

「北郷と決闘して負けたっての、本当だったようですね。それで?」

「……そう、俺は負け犬だ。だが尊敬してくれてる妹を裏切り、あいつの狂気を見て見ぬふりなんて出来ない。だから正と負の在り方を変える為にも、お前達と同盟を結びたい」

「……正気ですか? そりゃ、俺だって聞いた時には腹が立ちましたよ。何せ両親が死に、残された幼い兄弟を養う為に契約者になったって言うのに、その条件が負だったって理由でそいつを殺し、それを抗議した幼い兄弟まで殺すだなんて。でも同盟を組むからには、俺達を頼った理由位提示して……」

「話を聞いただけで十分だ。俺がそれを責めた時、あいつがなんて言ったと思う? “悪に正義の鉄槌を下す事は至極当然。正しく生きられない者に命を持つ資格はない”って、俺の言い分もまともに聞こうとしなかった事に比べればな」

「……確かに、そんな状態で他の美徳を頼っても無意味ってのはわかりますよ? “慈愛”は周囲が許さないだろうし、“知識”は言わずもがな。かといって、残りの“友情”、“希望”、“誠実”を全部引き入れたとしても、美徳の内部争いになる。そうなれば大罪がそれを見逃さない訳もないから、最悪負の契約者の天下の礎……そう考えれば、最善は俺達との同盟かもしれないけど、裏切るかもよ?」

「それはないな。何度も殺し合った間柄だ、お前達の事は理解している。だからこそ、理解してくれると信じて来た」

「買いかぶりますね?」

「一番近いからこそだ。流石にほかの大罪を、ここまで信用する気はない。お前達だけなんだ、今信用出来るのは」

「……ならちょっと待ってくださいね。事がでかすぎて、俺が決断していいレベル超えてるから、ユウに相談しないと」

「……ありがとう。そして、よろしく頼む」

「まだ決まってないですよ?」

「決まるさ……俺の対だ。俺以上にユウを理解してる奴なんて、家族とお前位しかいる訳がない」

「……じゃあちょっと待っててくださいね? “同胞”」

「ああっ。良い付き合いにしような、“同胞”」



「――ん……夢、か?」


目の前に広がるのは、天井。

ゆっくりと体を起こすと、テーブルにテレビに小型の冷蔵庫と、少し殺風景な自分の部屋。


そう言えば、ユウと月以外をここで見た覚えがないな、と思いつつ。


「……あの時からじゃ、想像できなかったな」


一条宇宙は死に、朝霧裕樹は片目を失い、正と負の均衡が崩れ世は乱れに乱れた。

そして妹の宇佐美が新たな勇気の契約者となり、今に至る。


……正と負の在り方を変える。

宇宙の理想からかけ離れた意味で、それが実現された世で。


「っと、いけない。仕事行かないと」



三村葵が、光一の保護下となって一週間が経過。

ユウに事を報告し、許可はもらった。


量産型のブレイカーを持たせ、契約者のフリをさせた上で――。


「えっと、使い方はわかったかな?」

「……うん」


少しずつ、実体験でかすかな記憶を身体に馴染ませた上で、光一の補佐として働いてもらおうと言う事に。


「わあっ、上手上手」

「……うん」

「あっ、ジュースのみます-?」

「……うん」


名目上は光一の秘書となっていたが、事実上はまだ生まれたばかりの赤ん坊。

オリジナルの記憶はあっても未だ馴染んでおらず、会話自体も本人よくわかっていない上に、箸もまともに使えないという状態。


それで歩美、さやか、京が世話になったお礼がしたいと、彼女の世話役を買って出ていた。

現在は昼食時で、歩美手製料理でフォークなどの練習中。


「悪いね、なんか」


一応その場には光一も居合わていて、4人と対面する形で事務仕事に勤しんでいる。


「わんっ!」

「わぉーんっ!」

「…………」


……横で、また仕事さぼってコンビニで立ち読みしてる所を、ソルジャードッグの信長、秀吉、家康に捕まって連れ戻され、横たわるナツメ。


「くぅーん」

「……きゅーん」


窓際では、ひなたぼっこをしながら親に毛づくろいをして貰い、心地よさそうに丸まっている秀頼がいる。

と言う平和な(?)光景の中で。


「いえ、気になさらないでください。日ごろのお礼でもありますから」

「そうだよ。それに楽しんでやってるんだから、気にすることないよ」

「ですですー」

「ありがと」


――ファーストフードの袋を取り出し、チーズバーガーの包みを開きつつ。


「「…………(じー)」」

「……? 何?」

「光一君、それなに?」

「これ? 仕事だけど?」

「そうじゃなくてー、いまたべようとしてるものですー! いえばよういしてあげるのにー、なんでそんなのかってくるですかー?」

「言えばって、そんな図々しい……」


さやかと京の責める様なじと目に、光一はその先を言えなかった。


「なんかよくわからんが、ごめん。でも、今更……」

「じゃあみやちゃんのぶんあげますから~、それたべさせてください~」

「はっ? いや、そこまでして貰わなくても……」

「みやちゃんチーズバーガーだいすきです~。たべさせてくださ~い」

「……わかったよ」


光一はやれやれ、と言う風にファーストフードの袋を京に手渡す。

京がわ~いとそれを受け取り、チーズバーガーの包みを開くほおばり始めた。


「おいひーれふ~」

「じゃあ俺も、頂きます……うん。おいしい」

「だって。よかったね、歩美ちゃん」

「え!? あっ……ありがとう、ございます」

「??????(もぐもぐ)」


そんな光景を、疑問符浮かべもぐもぐと食べながら見る葵だった。


「そう言えば光一君、宇佐美ちゃんに泊まり込みで仕事見せたんだよね? どうだったの宇佐美ちゃんは?」

「ちょっと前まで一般人の部類だった事を考えれば、良い働きしてるよ。以前宇宙さんと一緒に、暴走した合成獣キメラの討伐をした時の事を思い出したな」

「宇宙って、宇佐美ちゃんのお兄さんで、前の勇気の契約者だった人だよね?」

「そう。ユウにとって対であり、ライバルであり、親友だった人……そして、正と負の間柄を変えたいって願い、俺達と手を取り合った人だよ」


正と負の契約者の間柄。

普通に考えれば、まず第一に出てくるのが闘争、対立と言った物であり、決して友好的ではない。


それと言うのも、世にはびこる契約者による犯罪は、全て負の契約者によるものであり、正の契約者はそれを抑止するための存在。

という考えが根付いているからである。


「……ご馳走さま。正直言うと、宇佐美の今の姿見て嬉しいって思ってる」

「そう、なんですか?」

「ああっ、事に取り組む姿勢が宇宙さんそっくりでね。宇宙さんの意思は、宇佐美の中で生きてる……そう確信できるのが、何よりうれしい」

「そう、なんだ」

「あっ、これ宇佐美にはまだ内緒な? いつかは伝えるべき事だけど、今はまだその時じゃないから」

「ゆさみちゃんよろこぶとおもいますよ~」

「だからこそだよ」




「くしゅんっ!」

「あら、風邪ですか? たいへん」

「裕香に風呂の支度はさせてあるから、帰るか?」

「まだ大丈夫! 怜奈さん、続きお願いします!」


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