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大罪と美徳  作者: 秋雨
第3章 勇気の一歩、試練の始まり
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第49話

山奥にそびえたつ、古めかしい洋館。

人の手が入らなくなった所為か、庭は草が我が物顔で生い茂り、館は蔦で覆われている。


ホラー映画を撮ろうと思えば、ここは間違いなく合格点。

そんな雰囲気に包まれていた。


「ここで、間違いありませんか?」

「ええ、間違いありません」

「クエイク、ここでまってな。何か異変が起こったら、すぐユウにこの場所伝えてくれ」

『Yes.My master!』


クエイクに庭での待機を申しつけ、光一は部下たちと地主、宇佐美を引き連れ一路洋館へ。

扉を開け、中に入ると……


「けほけほっ……埃がすごいわね」


埃とカビのにおいが出迎えた


「へえっ、まだ使えるんじゃないか?」

「いえ、ワシはこういう場所に興味はありませんので」

「さて……」


光一はエントランスに当たる場所から、周囲を見回す。

まず左右に伸びる廊下、そして目の前の階段。


「……よし、行くか。俺が最前に立つから、周囲の警戒怠るなよ?」

「「「はい」」」


光一はまず2階をしらみつぶしに探す事に。

まず1部屋を開けると……。


「ん? 薬?」

「兄は医者だったんです。だからここで、姪の療養のために」

「病院に預けるとかは……」

「兄が勤めていた病院でも、空気の澄んだ場所での療養が良いと判断したそうでして」

「へえっ……ん?」


ふと、備え付けの机の上に目をやると、そこには1冊の皮のカバーのついた手帳が。

――もとい、日記が置いてあった


「あれ?」

「ん? どうかしました?」

「いえ、あんなところに、あんな物はなかった筈……」

「え? ……ちょっと、調べてみましょうか」



〈5月1日


葵の療養のため、祖先が別荘に使っていた洋館での生活を始めた。

元々都会から離れた田舎で、山奥ともあり空気が澄んでいる。

妻の青葉を早くに亡くした私だが、せめて葵にはその分幸せになって貰いたい。

そう思った矢先の事だが、幸い蓄えはある。


葵は絶対に、お父さんが助けて見せる〉


「……! これは、兄の字です」

「え!? じゃあ、葵と言うのが?」

「ええ。兄の娘で、ワシの姪です。義姉は青葉と言いまして、5年前に事故で……」

「……」



〈5月8日


ここに引っ越して一週間が過ぎた。

葵の容体自体はよくなっているが、私意外と接する事がない所為か寂しそうにしている。

そうだ、ペットでも飼ってあげよう。

動物の毛はよくないから、観賞用のグッピーでも

いや、知り合いの契約者に相談してみるか〉


「知り合いの?」

「すみません。そこまでは……兄が契約者と面識があったなんて、ワシも初めて知りました」

「……」



〈6月1日


頼んでいたペットが届いた。

巷で合成獣と呼ばれる契約者独自の技術らしいが、愛玩用として創られたおかげかとても可愛く、人懐っこい。

これで妙な病原体も持たない、と言うのだから本当にすごい。

葵もレインと呼んで喜んでるし、彼には感謝せねば。

そうだ。私も契約者として、新しい知恵を手に入れてみよう。

葵が喜んでくれる物を、私の手で作ってみよう。

金は莫大かかるようだが、問題ではない

最早私にとって、葵だけが生きがいなのだから〉


「そんな……兄が、契約者に?」

「……これが本当なら、ここに合成獣キメラの培養設備はある筈、か」

「でもおかしくない? 光一が処分したって言う大蛇、とてもそんな優しいお父さんが創った物とは思えないんだけど」

「……読み進めてみよう」



〈7月5日


最近葵の様子がおかしい。

身体には異常はないのに、何故か熱が下がらない。

まさか、レインの?

いや、合成獣は重病患者の愛玩用としても使われているし、妙な事例になった事等一度もない筈。

レインと葵を血液まで調べてみたが、全然わからない

仕方ない。今日は稀に見る豪雨のため外に出る事は出来ないが、この雨が落ちつき次第一旦下山し精密検査を受けさせよう〉


「……なんか、おかしな事になってない?」

「ああっ……確かに合成獣キメラに病原体なんて、理論上はあり得ない筈。なのに、どうして?」

「うーん……次見てみよ?」



〈7月6日


あおいはもうめをさまさなくなった

あおいはもううごかなくなった

あおいはもういきをしなくなった

あおいはもうわらってくれなくなった

あおいはもうおとうさんとよんでくれなくなった

あおいはもういない

あおばももういない

なぜみなはわたしをおいていてしまう

ひとりはいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ〉


「……葵ちゃんが、死んだ?」


地主の男性が、すとんと地面にへたれこんだ。


「でも、だとしたらこの人は一体どこへ? それにこれ、2年も前の事でしょ? この葵って人の死体も、一体どこ行ったの?」

「それ以前に、なんでこの日記が今頃になって発見された? こんな目立つもんが、今まで放置されてたなんてありえないだろ」

「まっ、待ってくださいよ。ワシも、最後に来た時には館を見て回りました。ですがこの机の上にこんな日記はなかった筈です」

「……やっぱここには何かある、で間違いはないな」


ただひたすらに、“いやだ”と延々と続き、乱暴にめくられた感が残る日記を、光一は読み進める。

途中からはインクがきれたのか、へこみだけで延々と描かれたページ。

途中からは手を切ったのか血豆が潰れたのか、血の跡が目立つページ。


そして……


「成程……」

「? どうかしたの、光一?」

「いや、なんでも。一階行くぞ」


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