第48話
「ふぅっ……」
これは行方不明事件ではなく、生物災害。
故に姿を消した人たちは恐らく、合成獣に……
処分した合成獣の死骸を運び出した上で、そう住人に説明し謝罪。
それから避難先を手配し、住人達に避難を促し終えた光一は、駐在する契約者達の宿舎にて休息をとる事に。
「お疲れ」
先にそこへと案内された宇佐美は、光一にジュースの差し入れを。
「……(すりすり)」
足元では、秀頼がすり寄り始める。
「すまないな、いきなりこんな」
「仕事見せてって言ったのあたしだよ? 平気平気」
「……なら良いけど」
強がりだとわかるが、水を差すのも悪いな。
そう思い、光一はそれ以上は何も言わない。
「この後、どうするの?」
「住人の避難が終わったら、行方不明者の最後の目撃情報と照らし合わせて、あの合成獣の行動範囲の予測。その範囲を調査、かな?」
「そっか……一体どうしてこんな?」
「それをこれから調査するんだ。ただし他にあの大蛇や、夜行性の合成獣が居ないとも限らないから、明るくなってからの調査になるけどね」
本来人とは知恵を武器にし獣を狩り、文明を築き上げてきた存在。
契約者といえど人であり、獣の常識を超えた合成獣相手に不利な状況で対峙すれば、勝算は低い。
「久遠さん。行方不明者の目撃情報、纏め終わりました」
「ああっ、じゃあ見せて。避難はどう?」
「入院患者、老人等の移送に手間取っておりますが、6割がた」
「わかった」
光一は地図を受け取り、それを開く。
「……成程、この山を取り囲むように、か。ここって確か」
「ええ、近々ビオトープの設営が計画されていた山です」
「……確か、この話を持ちかけたのはこの山の地主で、交渉自体も2つ返事で了承されてた筈。その地主はまだ残ってるか? 少し話がしたい」
「では、探してきます」
契約者社会であるこの時代では、契約者が関わっていると言うだけで世間からの注目を浴び、莫大な金が動く。
その頂点の大罪、あるいは美徳ともなると、その成果で得られる利益は並大抵の物ではなく、提携したがる企業も多く存在する
それ故に契約者の活動も、援助できる者もある程度限られていた。
ビオトープを始めとする開発施設を設営する為の土地は、資産家からの提供のみ。
そして商売提携先、あるいは契約者のみで活動する場合は、有限会社でなければならない。
更に言えばその技術の使用も制限されており、大罪や美徳程の大規模な組織ならナワバリ限定だったり、小規模なら組織内限定。
基本的に契約者の活動に、商売理由での株式会社の関与は禁止されている。
これは世のバランスを崩さないための配慮であり、世を動す存在の契約者が株市場に絡めばそれだけで混乱に陥り、最悪市場が成り立たなくなる故である
「色々と面倒ですがね」
「文句言うな。強い力を持てば、その分の責任は生じる。マナーの悪さを注意されたって理由で、その店の従業員皆殺しにした奴と同類になりたいか?」
「……流石にそれは」
その少し後
「このような状況での急な呼び出し、申し訳ありません」
所は、宿舎の応接室
光一が相対しているのは、土地の有力者であり問題の山の地主でもある、小太りの口髭を蓄えた宙年位の男性。
早い話が、まるで絵にかいたような裕福そうなおじさん、と言うイメージな人物である。
「上級系譜の方がどういったご用件で? 討伐の為の融資ならば、避難先でもそれなりの金額を」
「いえ、そちらではありません。例の合成獣ですが、ビオトープ建設予定となっている山をナワバリとし、活動していたようでして」
「え……? そんなっ!? まっ、待ってください。ワシにそんな事をして得をする理由がありません! どうか調査をお願いします、ワシは無実です!!」
一瞬で顔を蒼白にした中年男性は、必死の形相で光一に弁解。
契約者を、それもその頂点を敵にする事は、一般人にとってこれ以上の恐怖がない故に。
「勘違いしないでください。ただ契約者を動かせるほどの人物で、貴方に恨みを持つ者。あるいはこの土地で何かがあったかに、心当たりはないかを聞きたいだけで」
「そうでしたか……すみません、早とちりをしてしまって」
「いえ、構いません。こちらも聞き方が悪かったですので……それで」
「そうですね……」
男性は顎に手を当て、思い返し始める。
そしてふと……
「……関係あるかどうかはわかりません。ですが」
「構いません。今はどんな情報でも欲しい位でして」
「あの山には、ワシの祖先が別荘として使っていた洋館があるのです」
「洋館?」
「はい。かつてワシの兄が、病気の姪の療養のためそこで生活していたのですが……2年前に姪共々に失踪してしまい」
「……その洋館がどこにあるか、教えていただけますか?」
洋館の場所を聞き、地図にメモをすると……
「ありがとうございました、此度の礼は後ほど。避難先へは、こちらの方でお送りさせていただきます」
「……あの」
「はい。なにか?」
「申し訳ありませんが、洋館にはワシも同行させてください」
「それは許可できません。何があるかがわからない以上、一般の方を同行させる訳には」
「お願いします」
テーブルに手をつき、まるでこすりつけるように頭を下げる男性に……
「……行動はこちらに従ってください。決して勝手な行動をとらないよう」
「……ありがとうございます」
「おい、客室に案内して差し上げろ」
「了解です。さ、こちらへどうぞ」
脇に控えていた部下に指示と同時に目配せをし、その部下が頷く。
男性が契約者に案内され、部屋を出て行くと……。
「……俺だ。ここ数年、この付近で何かを搬送していた情報はないかどうか、確認を取れ」
携帯を取り出し、部下に指示。
「……ねえ光一、まさか疑ってるの?」
「……あのおっさんも、資産家ってだけで可能性は十分ある」
「可能性?」
「合成獣の生体培養設備は、造るだけでも莫大な金が動く。あのおっさんの蓄えなら十分可能だが……どの道、調査して証拠を掴まない事には話にならない」
「調査にはあたしも行くからね」
「……わかった。それとブレイカーのある機能について説明するから、そこ座って」
「? うん、わかった」
次の日。
「よく眠れたか? それじゃ、行くぞ」
避難終了し、がらんとした周辺。
そんな中で、現地統括する下級系譜とその選りすぐりの部下2名。
そして動向を希望した山の地主と……。
「――どうしたんです久遠さん、その頬?」
「……不慮の事故だ、気にするな」
「きゅ~ん(ぺろぺろ)」
「――ふんっ!」
右の頬に真っ赤な紅葉を咲かせた光一と、その頬をなめる秀頼
こちらは顔を赤くして光一からそっぽを向く宇佐美。
と言う面々で、一路問題の洋館を目指す事に。




