第42話
「と言いたいところだが、今優先すべきは……」
パチンっ! ボンッ!
「うっ!」
ユウに向けてレーザーを撃つべく、昴が指先を向けると同時に目の前が爆発。
一歩下がると同時に、炭素硬化のパンチが顔面に突き刺さった。
「俺の排除、じゃないのか?」
「……そのようだね」
ただ数歩下がった程度で、頬を拭い大してダメージを負った様子も見せないまま。
「……やっぱダメか」
「ただのズル賢い策略家、とでも思ったかい?」
「自分で言うか!?」
「僕は責務を果たす為なら、いかなる恥辱も汚名も甘んじて受け入れる。自らの欲望のみを求める輩は、すべからず堕落する物なのさ……フォールダウン然り、下級負の契約者然り、ね」
「……頂点がほざくにしては、ある意味情けないな」
「その通り。だが頂点の1人に座する以上、恥辱に耐え突き進む意思も必要なのさ。“ジョワユーズ”」
昴が手を突き出し、ぐっとにぎりしめる。
その握り拳に合わせる様に光が集中し、一振りの剣の形をとった。
「だからと言って、恥を知らない訳じゃない。その為にも君と君のボスの首は貰いうけ、僕の責務を果たすよ。久遠光一君」
「それを許さないのが、俺の責務だ」
光一が相対する様に、両腕が炭素硬化で黒く変色した右の腕と、リボルバーをもつ左手を構える。
「それでいい。僕に言わせれば責務は果たせない者が悪いのだから、責務のぶつかり合いこそが最も清く、遺恨に意味のない戦いだ」
「そこに人の意思があるとは思えないな」
「頂点以外の意思に意味はない。我を通していいのは、頂点に立った者のみだ。君も大罪を補佐する系譜だと言うなら、理解しているだろう? 久遠光一君」
ピュンッ!
昴の左指先から放たれたレーザーが、光一に襲いかかる。
「理解しているさ。その為に何を成すか、を考えるのが俺の役目」
――が、そのレーザーは光一の右掌に触れると同時に軌道を変え、地面に突き刺さる。
「……そう言えば、暴食のサイボーグもレーザーを使ってたな」
「一度この手の攻撃に煮え湯飲まされたんだ。対策の1つや2つ位練るさ」
光一の右掌は、昴の顔を映し出していた。
それこそ、磨かれた鏡の様な光沢を放ちながら。
「僕のレーザーを、あんなガラクタの紛い物と一緒にして貰っては困るな」
「違わないだろ」
「ふむっ……」
とは言う物の、光を収束し発射するまでのスピードは、サイボーグとは段違い。
今のも指先から軌道を呼んだだけで、本気でかかられたら反応しきれるかどうか……。
「では、これならどうかな?」
右手に握る光の剣を構え、駆けだす。
対する光一は、リボルバーを構え“超電磁砲”を……
「“ロンギヌス”」
「っ! うわっ!!」
突如剣が伸び、それがリボルバーを貫き破壊。
咄嗟に離した物の、光一の左手は火傷を負う。
「さあ久遠光一君、お仕置きの時間だ」
昴が伸びた剣を振るい、光一に向けて振るう。
重量のない光の剣故に、その動きは軽やかでまるで楽団の指揮を行っている様、軽やかに剣を振るう。
流石に剣を振るうのは人の手であるため、光の速度とは言わず見切られてはいるが。
「くっ! よっ!」
「どうした? 知略勝負と言っておきながら、これでは狩人と獲物ではないかい?」
「それはどうかな?」
「? ……何を狙ってる?」
ハッタリか、あるいは……
一旦距離をとるべく、一歩下がった瞬間。
「ぐっ! ……なんだ、何かのガスか?」
突如目がしみ、ものすごい刺激臭が昴を襲う。
周囲を見ると煙が辺りに立ち込め、それが異臭を放っている。
「忘れたのかよ? ここでさっきまで何があったのか」
「ここ……っ! まさかこれは!?」
「そう、火山性ガス……硫化水素だ」
場所はユウ達が戦っていた場所。
更に言えば、戦いの衝撃で半径20メートルは抉れていて、空気より重い硫化水素がたまり易い。
「……成程。これはしてやられたが」
昴がレーザーを放ち、硫化水素に引火させる。
瞬く間にその場が燃え上がり、炎で包まれた。
「この程度で、僕をやれると……思うな」
中毒を起こしているのか、昴が膝をつく。
パチンと指を鳴らし、ビットが現れると昴は袖をまくり、ビットに差し出すと注射を始め、血圧や脳波などを計り始める。
「あちち……ダメージは何とか、与えられたようだな」
煙が晴れ、光一が歩み寄ってくる。
こちらは中毒など起こっておらず、寧ろあるのは燃焼と先ほどの火傷による痛みのみ。
「ほんの頭痛だよ……だが、君を甘く見過ぎていたようだね。謝るよ」
「やめろ。正の契約者に謝られるとウソ臭すぎてへどが出る」
「そうかい……ならば」
パチンと指を弾き、昴は周囲にビットを展開させた。
流石にユウ、怜奈、クエイク達を拘束するビットは動かしていないが、それでもかなりの数が展開される。
「本当の意味での戦いを始めよう」
「漸く本気を出す用だな?」
「僕は美徳であり、美徳である事への誇りは誰にも負けないと豪語できる以上、そう簡単に本気を振るう訳がないだろう。獣でもあるまいし」
「さっきの見る限りじゃ、弱い者いじめが趣味っぽい気がしてたが?」
「なら最初から正攻法でさっさと片付けてるよ。僕だって暇じゃないんだ」
ゆっくりと昴がビットの1つに、レーザーを放出。
それを受け、そのビットが別にビットにレーザーを放出……を繰り返し
「君を大罪クラスであると見なし、我夢君と戦う為に作り上げた力でお相手しよう」
レーザーが筋肉の繊維のように絡み合い、ビットが関節として機能する巨人と化した。
ブンっと腕が振るわれ、その動きは人間の動作とほぼ変わらず。
「この“ヒュぺリオン”を、先ほどまでの僕とは思わない事だね」
「……大罪や美徳ってのはどいつもこいつも、レベルの差を見せつけてくれるね。まあ俺も、下級契約者からすれば同じなんだろうけど……ってうわっ!」
突如目の前に、光のパンチが振るわれ光一は、咄嗟に身体を炭素硬化に更に耐熱加工を施し、それを受ける。
30メートルは吹っ飛ばされた光一は、軽快なスピードで追ってくる昴にぎょっと目を見開く。
「ちょっ! そのでかさでそのスピードかよ!?」
「光なんだ。当たり前だろう」
「くそっ。ビットって云う割にでかいのはそう言う事か!」




