第41話
乱入者により、戦況は一変。
疲弊していた憤怒の契約者達は、突如現れた勢力に押され徐々に後退。
その中心地では――
「……流石に、憤怒の回復力は侮れないね。まさかもう傷が治りかけてるなんて」
「針が刺さった程度で俺をやれるとでも?」
「針とは失礼な。僕の能力で収束したレーザーだよ? そう簡単に治癒されては、僕の立つ瀬がない」
先ほどまでぶつかり、疲弊しているユウと怜奈。
それに相対する知識の契約者、天草昴。
「……しかしまさか、美徳がここまでの強硬策に出るなんて」
「美徳にも色々いると言う事さ。正しさゆえに暴走する者もいれば、美徳としての責務を全うするために手段を選ばない者まで、ね」
「お前は後者……とでも言いたいのか?」
「出来ればそうとってもらいたいね。正直な話、僕達がやっているのは戦争である以上、“君のせいで”等と子供の屁理屈を言う気も、怜奈嬢の行動を責める気もないんだから」
「……ならばなぜワタクシを利用したのですか?」
部下の暴走を止められなかったとはいえ、それが仕組まれた事ならば怜奈も許すわけにはいかなかった。
普段優しさを醸し出すその顔は、今はキッと昴を睨みつけている。
「単純な話、現状を考えれば今の憤怒相手に、常套手段は使えないからね」
「……それで慈愛をかきまわしやがったのかよ? 随分と素敵な正義だなおい」
「対を良い様に利用しようとする君に、とやかく言われる筋合いはないよ」
「そう取られても仕方ない以上、否定はしないが……」
「色々と言い分はあるだろうが、これは僕の責務だ。手段に問題があるのは事実だが、だからと言って放棄する訳にもいかない以上、文句を言われる筋合いは何一つないよ」
話はそこで終わり。
そう言わんばかりに昴はユウを指さし、その指先に光が収束し始める。
――その瞬間。
ピュンッ!
「うっ……!」
「僕は僕の責務を全うする。誰に罵倒されようが、どんな手を使ってもね。それがひいては、全を守る事に繋がるのだから」
光線が今度はユウの足を貫き、ユウは体勢を崩しその場に倒れ込んだ。
「知っての通り、僕は光を操る事が出来る。君の契約条件の特性上、契約者最速を誇るこの能力をもってここから更に万全を喫する」
「朝霧さん!」
「おっと、怜奈嬢は大人しくしてくれたまえ」
昴がピシっと指をはじくと、怜奈の周囲をバスケットボール位の球体が飛び交い、陣形を組み始める。
その内の1つに昴が、先ほどと同じく指先に光を収束させたレーザーを撃ちだす。
「なっ!」
そのレーザーを受けたボールが、周囲のボールにレーザーを出して連結。
その結んだレーザーを線にし、面を作り上げ怜奈を閉じ込めた。
「僕のナワバリで開発した、防御用のサポートビットだ。普段ならまだしも、今の君にそれを破る事は出来ないよ。さて……」
怜奈から視線を外し、ユウめがけて再度レーザーを照射。
今度は指先の向きから予測し、レーザーを回避。
――と同時に、腹を貫かれる様な痛みが走った。
「がはっ!」
「当然攻撃用のサポートビットもある。それでは、動きを止めるか」
ユウの周囲にも球体が飛び交い、それから刃が飛び出す。
それが一斉に――
「――! ぐあああああああああっ!!」
ユウの両手両足を貫き、そのまま昆虫標本のように地面に突き立ててしまった。
昴はユウの胸を踏みつけ、指先をユウの額に照準を合わせ、光を収束させ始める。
「――君も大罪の1人だ、覚悟はできてただろ?」
「ここまでか……最低限、宇佐美達とナワバリの安全は保障して欲しいんだが?」
「それ位なら構わないよ。どの道同胞として迎え入れる予定だったし、君のナワバリは彼女に譲り渡す、でどうかな?」
「――十分だ。んじゃ、宇宙に侘びでも」
ちゅんっ!
「っ!」
突如の狙撃で、その会話は遮られた。
狙撃したと思われる方向に目を向けると
「光一!」
「蓮華ちゃん!」
上空を飛翔するクエイクと、その上に乗ったスナイパーライフルをもつ光一と、何か書類の様な物をもってる蓮華。
光一がクエイクに指示を出し、上空から電磁を纏いながら飛び降り着地。
「すまん、遅くなった」
「久遠光一!? そんな、どうやって……!?」
「装甲がぶ厚かろうが、内部の二酸化炭素濃度を通常の何倍にもして、中毒にさせる事も出来んだよ」
「……成程、情報が古かったか。後で処分を下さねば」
「それで、良いのか? もうお前の策は崩れた」
「何が崩れたって?」
その余裕綽々の態度に、光一は首を傾げる。
――が、次の瞬間空を見上げ、ビットが形成したフィールドに捕まったクエイク達の姿が。
「クエイク! 黛!」
「ビットを全部出したと言った覚えはないよ」
「じゃあアンタごとじゃなきゃ、策を潰れねえってことか」
「この場に戦力はもうない以上、それは無理だね」
「なら俺がやる」
「――系譜が美徳にかなうとでも?」
「同じ道具と知略を使うタイプなら、俺が負ける道理はないな」
「それは聞き捨てならないね。ならどちらの知略が優れてるか、勝負と行こうじゃないか」
――時はさかのぼり、テレビの映像が途絶えた瞬間の事。
「……どちらへ?」
「わかっているだろう?」
「おや、兄貴?」
「ちっと出てくる。留守は任せるぞ」
「外出なんて珍しいな」
「――めんどくせえ。でも、いかなきゃ」
「おっ? やっぱタイザイとして、ミスごせねえってか?」
「そう言う事ですね。小生の留守、任せましたよ?」
「…………」
「いってらっしゃいませ、マザー。留守はこの吾輩、ミスタ・バンデージにお任せを」




