第37話
「あれ、確か……」
「なんだろ? 特に連絡は受けてないけど……あっ、すみません。来訪の理由の提示をお願いしまがっ!」
「なっ! いきなりなぐはあっ!」
ぐしゃっ!!
「流石は負の契約者、性根だけじゃなくて死体も汚いなんて」
「そんな事より、こんな所に長居したくありませんわ。早く事を済ませて帰りましょう」
「ええ。こんな犯罪者達の巣窟に長く居座って、汚れてしまっては大変です」
「さて……メシも食ったし、まだ時間あるけどどうする?」
結局月も混ざっての昼食となり、それも終了。
これからどうするかの話に入ろうとした所で……
「ラッキークローバーの慰霊コンサートかあ」
「楽しみだな。勇気のブレイカーを宇佐美ちゃんが持ってるってわかってからと言う物、世の中が荒れに荒れてそれどころじゃなかったし」
「楽しみだな」
ラッキークローバーの慰霊コンサート。
実はナワバリ奪還戦の前から、宇佐美達の希望で憤怒がスポンサーとなり準備を進めていた。
元々初コンサートが台無しになり、それからも身柄を隠さなければならなかったが、色欲と同盟を結び、まだごたごたはある物の慈愛とも同盟を結んだ現状。
これならば、とユウと光一は了承し、戦力拡大においてもあちこちに宣伝はしてあった。
ナワバリ奪還戦からは、宇佐美達は久しぶりのアイドルとしてのレッスンに励んでおり、宇佐美達の所属事務所も憤怒のナワバリに移転。
大罪の財力を使ってのコンサートともあり、事務所の方も宇佐美達のバックアップには労を惜しまず。
一先ずの休息、一先ずの安寧としてはこれ以上ないイベントとして、世に広まっていた。
「そう言えば宇佐美って、元々はアイドルだったっけ? それで契約者って、本当によかったの?」
「良いのよ、兄さんの意思を継ごうって決めたんだから。両立はキチンとするわ」
「なら頑張りなさいな」
「ありがとう」
にこっと柔らかな笑顔で、月は激励。
宇佐美もそれに気を良くしたのか、サングラス越しにニコッと笑う。
「そう言えば光一、あれから慈愛ってどうなってるの?」
「ん? まだ荒れてるって話。同盟締結だって、組織の弱体化を理由に無理やり納得させたようなもんだから、不満はウナギ登り。更に言えば、慈愛の崩壊が俺のせいってこともあるから」
「え? それおかしくない? だってナワバリを占拠したのは暴食で、光一は同盟の話し合いに……」
「その同盟の話自体、憤怒が勇気を確保して、色欲と同盟を結びさえしなければ起こり得なかった話だから。元はと言えば俺達の所為」
「……思いっきり重箱の隅をつつくような理由じゃない? 幾らなんでも」
「それがまかり通るのが正と負の間柄なんだ。前提自体が“信用できない”じゃなくて“信用したくない”なんだから」
それじゃ天と地どころか、宇宙の果てから果てじゃないかな?
そう思った宇佐美だった。
「増してや、組織を潰された上にその後がその後だ。幾らナワバリを解放したとはいえ、信用しろって方が図々しい」
「図々しいとか以前の問題な気がするけど……」
「そう言うなよ。ヘタに刺激して強硬手段に出る奴がいないとも……」
「“水圧砲”」
「っ! 危ない!」
「え? きゃあっ!」
光一が電気を流し強化した脚でテーブルを蹴り飛ばし、突如の水の攻撃にぶつける。
テーブルは攻撃に耐えきれず木端微塵となるも、その間に月が宇佐美を抱えその場を離れていた。
「きゃああああっ!」
「なっ、何だ!?」
「逃げろ!」
突然の攻撃に周囲はパニック。
オープンテラスだった事もあり、店の中へ他へと逃げ惑う客とウエイトレス達。
「あらあら、やかましいですね」
「しかたありませんよ、姉さま。所詮は負の契約者の家畜なのですから」
「ホント、品がない事この上ない」
砲撃があった方向から、嫌悪感を思いきりこめた声が割り込んできた。
背中まである髪を、2房に分けて結んだ髪型。
ミニスカートにTシャツの上にサマーセーター、ニーソックスにスニーカーと言う格好。
そして首に、チョーカー型のブレイカー。
姿かたちはそっくりだが、それぞれ青、水色、空色と色違いにしている、3人の少女がそこに居た。
「見覚えあるわね……確か慈愛の系譜の、海鳴3姉妹?」
「名を呼ばないでください。汚らわしい」
「つつしみのない女性失格に名を呼ばれるなんて、不名誉の極みです」
「そうですね、お姉さま」
「ママぁっ! ママ-!」
「いってえ……」
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
所詮はテーブルで相殺出来ず、あちこちでその余波を受けたらしい人たちがうずくまり、それを担いで逃げようとしている。
その光景を見て、光一は……
「一体何のつもりだ!? 人のナワバリで、一般人巻き込みやがって!!」
「何のつもり? ……決まってます。慈愛の組織を潰した報復です」
「ええ……よくも怜奈様をそそのかし、貴方達の様なクズどもと同盟なんて汚らわしいマネをさせてくれましたね」
「怜奈様を汚し、貶めてくれたその罪。償って貰う為に来ました」
慈愛、と言う単語に宇佐美はカッと目を見開いた。
つまりこの3人は、正の契約者。
「そんな……ちょっと待ってよ!」
「? ……あら、一条宇佐美さん? 確か勇気の契約者となられたとか……どうされましたか?」
「どうされましたか、じゃないでしょ! なんでこんな街中で、あんな攻撃を!? 周りにまだ、人がいたのに!!」
「人? 笑わせないでください。負の契約者の恩恵を受けた時点で、人ではありません」
「そうですわ。世のバイキンどもにこびる等、人としての尊厳を捨てたも同然」
「貴方も正の契約者なら、その辺りはキチンと……」
「――黙れよメスども」
休暇をもらったのは先日。
更に先ほどのやりとりでの昂りが、まだ完全には治まっていない状態。
光一のブレイカーの稼働音が力強く鳴り響き、月は光一を見てこれはいけないと、宇佐美を連れて下がる。
「少しは理解できると思ってたが、買いかぶり過ぎだったか……慈愛のブレイカーもお前らのそれも、ぶっ壊れてろくに契約者を選別も出来ないようだな」
「なっ! 取り消しなさいクズ! 怜奈様を侮辱など許しません!」
「うっせえ。テメー等は泣いてションベンとクソでもブチまいて、命乞いでもしてろ」
「下品な上に無礼な!」
「死になさい、“圧縮水砲”!」
先ほど光一達を襲った、膨大な水を圧縮した水弾が光一めがけて襲いかかる。
光一がそっと手を突き出し、水に触れると同時に……
「えっ!?」
水は水素と酸素に分解され、跡形も残らなかった
「そんな水遊びで俺がやれると? ――笑わせんな!」
「こっ、来ないで! “水刀”!」
「だから無駄だって言ってんだろ!」
バシュッ!
「あっ!」
「人のナワバリ荒らした罰だ」
水の刀を分解した光一が、リボルバーを取り出した。
そして能力と併用させ、“超電磁砲”を……。
「まて!」
それを遮る様に、声が割り込んできた
そこに立っていたのは、執事服をまといメイスをもった男装少女、慈愛の系譜“敬愛”の契約者、黛蓮華。
「黛様! 怖かったで……」
ドガッ!
「あぐっ!」
「お姉さま!? 黛様、何を……」
ドゴっ! ガンッ!
見知った姿に安心したのか、駆け寄った3姉妹を……
黛がメイスでなぎ倒し、その倒れた3人の頭を撫で始める。
「……やはりか」
ごりっ!
「――わかってるだろうな? 確かに慈愛崩壊は俺にも責任はあるが、住人に被害が出た以上黙る訳にはいかねえぞ?」
その間に光一が黛の頭にリボルバーの銃口を当て、いつでもやれるとアピール。
それに対し、黛は抵抗はせずメイスを放り投げ、月と宇佐美に向けて自身のブレイカーを外し、放り投げる。
「まずすまなかった。だが出来る事なら、釈明をしたい。それで納得できないようなら、私を好きにしてくれて構わん」
「……話してみろ」
「……わかった。一先ず感謝する」




