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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第36話

「コロッケカレー2つで。飲み物はコーヒーとオレンジジュースで」


とある繁華街のカフェ。

光一はそこの気に入りのメニューを昼食にすべく、一席に陣取っていた


「久しぶりだな、街に来るの♪」

「頼むなら俺じゃなくてユウに……」

「いい加減にして」


帽子にサングラスと、変装した宇佐美と一緒に。


「で、話ってなんだよ?」

「そんな素っ気なくすることないじゃない」

「いや、そうじゃなくて……」


「おい、あれ」

「あっ、久遠光一……って、また女連れてんのかよ?」

「最近そんなんばっかだな。最近新しく入った系譜は女で、しかも結構可愛いってのに一緒に居る事が多いって話だしよ」

「色欲の花柳月がぞっこんで、慈愛の怜奈がココに居た間の世話だって、あいつが受け持ってたって話だろ? 羨ましいったらありゃしねえ、あの節操なしめ」

「よせよ、聞かれたらぶっ殺されるぞ」


「……最近月にナツメ、怜奈さんと女に関わる事が多いせいか、不本意でも否定出来ない噂が流れ始めてるから」

「……そこに歩美まで絡んでるって話が流れたら、それこそ大スキャンダル間違いなしね」

「? 何か言った?」

「なにも」


光一が疑問符を浮かべる傍らで、宇佐美は久々の街に気を良くしお冷を飲みつつ、先ほどまでのショッピングの戦利品をホクホク顔で眺める。


「ちょっと前まで戦争があったって言うのが、信じられないわね」

「そりゃ物質操作系の契約者が数人居れば、道路や建築物の修理やがれきの掃除なんて簡単に済む。まあ建築物自体は後でチェックしなきゃならないし、ちゃんとした修理も行わなきゃいけないけど」

「……つくづく便利ね」

「伊達に世の基盤になってないってこと」


もちろん能力だけ、と言う訳ではない。


医療、合成獣キメラやサイボーグと言った生体技術、そして素材や機械技術等。

普通にやれば到達できない技術の開発もまた、世の基盤をになう一因ともなっている


だからこそと言うべきかそれを悪用する者もおり、人身売買や麻薬作製と言った非合法活動もまた比例するかのように、水準が向上していた。


「で、話って?」

「実は……」


この前(盗み聞きした事を伏せた上で)月に問われた、ある事について。


「……確かにね。契約者社会では、正と負の象徴にして最強の14人が均衡を保つ事で、その安寧は維持されてる。ってのはわかるだろ?」

「それはわかるわよ。兄さんが死んだ時、勇気のブレイカーが見つかった時、慈愛の勢力が崩壊した時を考えれば、大罪と美徳の戦いは決して勝敗がついてはならない物って事くらい。でも……」

「なのになぜ争うのか……か?」

「……(こく)」

「簡単な話さ。反社会的な行為を行う契約者のカテゴリは、いつだって俺達負の契約者なんだよ。だから正の契約者は排除したがってるんだ、“正義”の為にな」


世の契約者犯罪は、全てが負の契約者による物。

負の契約者相手に攻撃を仕掛けるフォールダウンにしても、“元”正の契約者と言うだけで現実は負の契約者側。


基本的に負の契約者の契約条件は“欲望”

故にその傾向が強いのは事実である。


「でもユウや光一は、そんな悪なんて呼ばれる様な人じゃ……」

「悪って何? それがどういう意味か、わかってるか?」

「え?」


宇佐美が光一の言う事がわからず、きょとんとすると光一はため息。


「俺は人を敵とはみるけど、悪とはみない……何故かわかる?」

「……ううん」

「歯止めが利かなくなるからだよ。自分がしてる事がどういう意味かも、自分が何をやってるかも知りもせずな」


所詮は人間、間違わない訳がないってのに。

そう紡いで、お冷を一口。


「へえっ、流石は上級系譜。とても勉強に――」

「何て偉そうな事言っても、それが本当に意味があるか、俺自身がそれをちゃんとできてるか、なんてさっぱりわからんが」

「……なりそうな良い事言ったのに、台無しじゃない」

「自分は出来てないかもしれない、自分は間違ってるかもしれない、位でいいんだよ。自分が絶対だ、何て思ってる奴迷惑以外の何物でもないし……」


キィィッ!


「……!?」

「――何より、俺はそう言う奴が大嫌いだ」


「お待たせしましたー。コロッケカレー2つに、コーヒーとオレンジジュースです」

「おっ、待ってました。流石美味そうだな」

「…………」

「? どうかした? 冷めないうちにさっさと食べよう」

「……そうね」


憤怒の系譜、残虐

憤怒の組織を纏める傍らで、公にできない汚れ仕事も行っている事は、理解していた……つもりだった。


しかし、彼のブレイカーの稼働音が鳴った時。

……自分の想像しているのは、彼にとって単なる火遊びですら無いんじゃないか?

そう思えていた。


「どう、美味いだろ? ここ俺のお気に入りでさ、昼にはよく来るんだ」

「……うっ、うん、美味しい」

「? 口に合わなかった?」

「そんな事……ただ、あんな話題の後だから、つい考え事しちゃって」

「あっ……ごめん、キチンと配慮するべきだったな。えっと、デザート食べる?」


その事実で、光一の全部を否定される訳でもない事はわかっていたが……。

負の契約者だからこそ、の現実を突きつけられた気がした。


「――良い。あんまり食べ過ぎると、体型と練習に響くから」

「そっか。で、食べたらどうする?」

「歩美たちへのお土産買ってから、合流して練習」

「そっか。まあ準備は進めてあるし、宣伝もしてあるからがんばれ」

「任せてよ。戦力としては役に立てないけど、これなら大丈夫なんだから……あっ」

「んじゃ、期待させてわぷっ!」


「遊びに行くなら私にも声かけてよ。探しちゃったじゃない」

「むがーっ!」


呆気にとられた宇佐美の前で、光一がまた月に抱きかかえられ、胸で窒息しかけてると言ういつも通りの展開が繰り広げられた。

ただ月の服装が、タイトスカートにブラウス、そしてスーツと言う普段を考えると地味な服と言う点が異なるが……


それでも十分、そこらの男性どころか女性すら見惚れる色気を醸し出していた。


「「「……くたばれこの節操なし」」」


それと同時に、そんな女性に抱きかかえられてる渦中の男(しかも女づれ)に、呪詛と突き刺さる視線が集中。


「……ぷっ、くくっ……」

「? どうかしたの?」

「ごめん、なんかちょっと安心したってだけ。それより離してあげて? 色々と大変な事になってるから」


その日、久遠光一に対する呪詛の声が途絶える事はなかったと言う。



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