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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第35話

――場所は、とある高級ホテルの一室


「取引成立ですな」

「ええ。また新しい商品が入り次第、ご連絡お願いしよう」


そこで数名の契約者ボディガードを連れた2人の男が、テーブルを挟んでにこやかに握手を交わす。

そのテーブルの上には、数枚の老若男女問わず、血液型を始めとする人の生体データが記載されたリストが。


――人身売買のもう1つの用途、実験動物。


「しかし、社長も人が悪い。憤怒と提携したがってるって話なのに」

「ふんっ、最強だろうがなんだろうが、上手く飼い慣らしさえすればただのイヌだ。精々上手く利用させてもらうさ」

「それについては感謝しますよ。お抱え契約者と言う名目として頂いてますから、俺達も仕事がやり易い……おい」

「はい」


売人がボディガードに指示を出すと、1つの大きなトランクをテーブルの横に。

それを倒し、蓋をあけると……


「すぅっ……すぅっ……」


「これは気持ちです。受け取ってください」

「ほおっ……これはいい。そっち趣味の良い余興になるだろう」

「でしょう? ですから、今後ともご贔屓に」

「良いだろう。こちらも誠意として、ボーナスを出そう」

「良い関係を築けそうですね」

「全くだ」


キンコーン!


「「「っ!?」」」

「……おい」

「はっ! ……誰だ!?」


「ルームサービスです。ご注文のワインをお持ちしました」

「注文? んなもんとってねえぞ!?」


ごそっ……!


「ですが、確かにこの部屋からご注文が……」

「いらねえよ、失せろ!」

「はい……失礼しました」


「……契約者が4人と3人。1人は何度も提携を持ちかけている企業の社長です」

『わかった。じゃあさっさと下がれ』

「……了解です」


「……失礼。では改めて」


ボロボロっ……!


「「「っ!!?」」」



――時は過ぎ


ちゃぷっ……!


「……ふぅっ」


人身売買グループと、それを手引きしていた提携企業の捕り物は終了。

光一は一室借りて、一風呂浴びていた。


――血を洗い流す為に。


「……ったく、あのタヌキ親父め。やたら食い下がると思ったら、こういう事か」


先日の女性専門人身売買において。

あの売人は誘拐自体は他に委託していたらしく、目をつけた女性の情報を仕入れてから誘拐を依頼し、情報抹消などは自分達で行っていた。


その委託先を調査していく延長線上に、憤怒と提携したがっている会社の社長が出てきて、今に至る。


「えーっと……あの会社ガサ入れして、徹底的に洗い出してやるか。確か傘下に製薬会社があった筈だし、こんな事企むって事は絶対人体実験関係が出てくる筈。それと、あの女の子の身柄の調査と……確か最近、子供亡くしたっていう人がいた筈だから、里親の申請をしとくか」


この手の人身売買の為に誘拐された人間は、周囲の記憶すら消されている為、保護されたとしても元の生活に戻れない場合が多い。

故に出来る事と言えば、新しい人生を用意する事。


「一先ずは月の所に預けて、ケアをしてから……か」


顔を手でぬぐい……。


「……」


ふと、自分の手に視線が行く。


あくまで極秘裏に行う必要があったため、壁を元素操作で強度を弱めて崩し、単身突入。

まずは指弾で相手の両手両足を撃ち抜いて、無力化。


その時、商品にされていた少女を確保した際、破れかぶれに突進してきた者が居て……

炭素硬化した腕を、相手の顔面に突き立て――


キィィっ……!


「……!」


ふと、ブレイカーの稼働が活発になったことで、光一ははっと意識を戻す


鮮血の匂いと色、筋肉をブチ抜く感触、相手の事切れる余韻

それを思い返すことで昂っていた自身に気付き、慌てて湯船から出ると冷水シャワーを浴び始め、乱暴に顔を洗い始める。


「……! ……くっ」



そして時間が過ぎ、後始末を終えて……


「――以上だ」


光一はユウに、事の顛末の報告に。

ちなみに場所はユウの実家の工房。


「……光一、明日からしばらく休養取れ。事務の方は俺とナツメでやっとくから」

「いや、別に疲れて……」

「そっちじゃねえ。お前の本質は“残虐”、こういう汚れ仕事を連続してやらせて歯止めが利かなくなる方が問題だ」

「……わかった」



「……」

「驚いた?」

「……ちょっと」

「ちょっと、には見えないけどね」

「なんで月は平然としてられるの?」

「私は“色欲”の組織の長なんだから、憤怒の内部事情に口出しできるわけないじゃない。自分の立場もわきまえず出しゃばったら、全部ダーリンに迷惑掛かっちゃうんだから」


その工房の外側の入り口で、宇佐美が月につれられ、その場を盗み聞きしていた。

大体の所で工房から離れて、2人は家のリビングへ


「……どうして、あたしにこんな事を?」

「聞いておきたかったのよ。貴女の考えを」

「考え?」

「この勝敗も覇者もあってはならない、この戦いに対してね」

「勝敗も、覇者も要らない戦い……?」

「まずそこからか……人は理性と欲望の狭間にこそ自我があり、どちらかに比率が傾いた時点で、そのどちらかの奴隷でしかない……私の持論なんだけど、どう思う?」

「……?」

「貴方はもう、1人として欠けてはならない世界の均衡を担う存在……だからこそ理解する必要があるのよ。私達の領域に立つ者としてね」


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