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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第33話

慈愛のナワバリ解放と、同盟締結を終えて一週間。


「よし、準備完了」

「こういう時、ユウの兄さんは便利だよね」


憤怒の面々は、月にラッキークローバーの4人、朝霧家の方々と一緒にバーベキューに興じていた。

ユウが岩を斬ってテーブルを作り、バーベキューセットで焼く準備をしてる傍らでは、ナツメが飲み物や皿にコップの用意を。


「それにしても、光一の兄さんもこんなに早く回復だなんて」

「光一も強くなったもんだ。あれから能力向上の訓練に余念がなかった甲斐が、あったってもんだな」

「そんな立場を奪われたお飾り大罪だと思ってたユウの兄さんも、すごいなんてものじゃなかったよ」

「お飾りって……系譜についたお前ならわかると思うが」

「うん。系譜になってからって言う物、力のコントロールが難しくて気を抜くと振り回されちゃいそうだよ。大罪ともなると、これ以上になるのかな?」

「そう言うこった。まあその話は一旦おしまい、今はそれよりメシの準備」

「そうだね。それにしても、色欲のナワバリで栽培した野菜に果物。美容にも良いから、ウチ楽しみ」


色欲のナワバリは土が肥えているのが特徴であり、植物とそれを活かしての医療の研究がメインとなっている。

独自の品種改良を施した野菜や果物も栽培しており、それらを使った料理や飲料は美容に効果があり、女性に大人気。


「おいおい、慈愛から親愛の証にって送られた魚や水は?」

「それも楽しみ!」


慈愛のナワバリは、水が豊かなのが特徴である

故に水に関する研究が盛んで、天然水の何倍も飲みやすい水の開発や、手を加えた微生物を棲ませた浴場等で、年寄りから病人、女性に大人気。


そう言う意味でも、色欲と慈愛は対となる存在だった。


「慈愛か色欲か、で話を弾ませる女の子も少なくないし、そう言う意味でも解放されてよかった」

「だろうな。考えてみたら、暴食が欲しがる訳だ。美味いメシ作るには綺麗でうまい水が必要だし、そう言う意味じゃあの時が一番の好機だったんだ」

「そう言う意味じゃ、ユウの兄さんには感謝だよ。契約者社会の女性の聖域が、あんなバケモノ集団に荒らされてただなんて」

「バケモノって……否定はできないか」


思い浮かぶ巨人にサイボーグ。

更に下級系譜達の姿を思い浮かべると、ユウにも否定はできなかった。


ボスもボスなだけに、尚更に。


「おーい」

「おっ、出来たか。さあジャンジャン焼こう」


光一と宇佐美達が調理を終え、持ってきた食材でいざバーベキュー開始。


「わあっ、おいしいです~」

「バーベキューなんて久しぶりだから、お箸が進む」

「そうですね。野菜も果物もお魚もおいしくて、流石は色欲と慈愛のナワバリ産です」

「流石は契約者の恩恵、ってところね。所で歩美」

「はい?」


「ハイダーリン、あーん」

「……あーん」


宇佐美は歩美に、ある地点を指さして意識を向けさせた。

そこでは月にひっつかれ、食べさせて貰ってる光一の姿が。


「あれいいの?」

「あうっ……わっ、私の事はいいんです! それより宇佐美さんだって、ユウさんと」

「だーかーらー、違うって言ってるでしょ! そりゃあ、兄さんのライバルで同士だった人で、あたし達の恩人だし。頼りになるとは思うけど……というかあたし達芸能人で、そういう話題は御法度でしょ!?」

「忘れたの? ウチの事務所は放任主義で、恋愛自由だよ?」


そんな女性陣の傍らで……


「~♪」

「ユウ兄ちゃん、焼いてばかりいないで宇佐美ちゃんの所行ったら?」

「あのな……」

「芸能人の祖父、か。それも良いかの」

「寝言は寝て言え」


家族にやり玉に挙げられてるユウだった。



そして……


「そう言えば宇佐美さん、光一さんの危機を救ったんですよね?」

「え? うん、無我夢中でよく覚えてないけど」

「脚に風を纏わせて蹴ったんだ。それも、螺旋状にな」

「へえっ……そうだったんだ。じゃあ、“螺旋脚”って呼ぼうかな?」

「たのもしいですねー。これならユウさんのついとしてー、ゆさみちゃんがせいちょうするのもー、そうとおくはないんじゃないですかー?」


そう言われた宇佐美の脳裏に浮かび上がるのは、ナワバリ解放戦でのユウの戦いぶり

能力を使ったのは、結局防壁を破るためと下級系譜を薙ぎ払う為だけで、他は全部剣と拳で済ませてしまった。


未だそのユウに剣を抜かせてない自分では、まだまだ遠い。

そう思い知らされる出来事だった。


「冗談。最高の領域、そう簡単にたどり着けないものよ?」

「わかってるわよ。ユウの戦いを見てたら、それ位の事は……」

「でも、そう気落ちする事ないわ。時間はまだまだあるし、私も貴方の事気に入ったから」

「ありがと……ねえ、月」

「何?」

「……あたしと一戦、やってくれない?」


宇佐美の言葉に、その場がしんと静まる。

当人の月は、扇情的な笑みを浮かべ……。


「ふーん……良いわよ」

「おい」

「心配しなくても、力はセーブさせてもらうわ。ダーリンに怒られるなんて、死にたくなっちゃうじゃない」

「……それでいいよ」



――所変わって、ユウとの訓練で使う、開けた場所にて。


「それにしても、どうしてまた?」

「他の大罪相手に、あたしがどこまで通用するかを知りたい」

「……功績を上げて思いあがった? 無謀ね」

「だったら、完膚なきまでに叩きのめして」

「いいわよ……たーっぷりかわいがってあげる」


魅惑的に膨らんだ唇を舌舐めずりして、月は両手を宇佐美に向けて突き出す。

腕の2倍はある袖が急激に膨らみ、何本もの木の砲身が姿を現した。


「“シード機関銃ガトリング”」


その木の砲身が回転し、人の頭くらい大きな種を乱射。

宇佐美が懸命に避け、あるいは受け止めそこね吹っ飛び、また当たり……。


「くっ!」

「こーら、まだまだ終わりじゃないわよ。“木人トレントハンド”」


木の砲身が成長し、今度は木の腕を形成し始めた。

宇佐美めがけて突き出し、宇佐美は飛び乗り駆けだす。


「まだまだ!」

「よく頑張ってるけど、残念」


ぎゅっ!


「え?」


宇佐美が脚に違和感を感じると、足場にしていた木の腕から枝が伸び、宇佐美の足を捕まえていた。

その枝が急激に成長し、宇佐美を捕まえたまま伸び、宇佐美は逆さづりに。


「まだまだね」

「くぅっ!」


宇佐美は捕まっていない脚に風を集中させ、螺旋の描かせ始める。

光一を助けるときに使った技、“螺旋脚”


上級系譜クラスのサイボーグ相手に、深手を負わせた技。


「これなら!」

「あっ、ダメ!」

「え?」


びりびりっ!


「へっ?」

「あーあ」


宇佐美は突然聞こえた音と同時に、視界に布の切れ端が大量に入ってきた。

恐る恐る、その出所を見ると……


「…………!?!?」

「あー、どうやら平常時では、まだうまくコントロールできないみたいね」

「きゃああああああああああああああああああああっ!!!」


服が全部自分の風で切り刻まれ、素っ裸になった自分の裸体が眼に入った。



――余談だが


「で、光一。お前はこれからどう思う?」

「間違いなく、同盟を妨害する奴は出る筈だな。それも、慈愛の方」

「付け入るとしたら、やっぱそこか……出来れば、慈愛の方で上手く話がまとまってくれればいいんだが」

「難しいだろ。そもそも元勇気の組織ですら、あの有様だったんだ。これから間違いなく、慈愛との繋がりは懸念の1つになるな」

「ああっ……ところで、今の悲鳴なんだろ?」

「……服とかす強酸でも使ったかな?」


光一とユウは、少し離れてこれからの談義。

他の面々はバーベキューを楽しみ、今の悲鳴に首を傾げていた。



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