第32話
「この首欲しいなら、死ぬ気でかかっておいで。上級系譜ちゃん」
「では、遠慮なく……くたばれやあっ!!」
一般男性の胴の太さ位はあろう巨腕が振るわれ、その拳がユウめがけて振り下ろされ……
「遅い」
ドゴっ!!
「ぶぐっ!!?」
その腕に飛び乗られ、そこを伝い接近したユウに顔面を蹴られた。
「……流石に硬いな」
「ぐぅっ!」
よろめくも鬼気迫る表情で、ユウに掴みかかり……
ボゴォッ!!
「がはぁっ!」
それを避けられ、今度は腹にひざ蹴りを叩きこまれた。
「……やっぱダメだな」
「え?」
「フォールダウンに宇佐美の練習相手ばっかだった所為か、どうにも鈍りを感じる」
「ぐっ……ふざけるなあっ!!」
近くの街路樹を引き抜き、ユウめがけて振り抜こうと……
「もっと腰入れろ」
その街路樹の上に飛び乗ったユウが、それを伝い顔面にパンチをブチ込んだ。
「ぐっ……(ぼたぼた)」
「硬えな。ある程度本気出さにゃ鼻血持出せないとは」
「ぬかせ!」
叫び掴みかかるのを、今度は回避せず捕まる。
それを見てにっと笑みを浮かべ、ギリギリと身体を握りしめ始める。
「余裕が過ぎたな! このまま……」
「よっこらしょ」
「があっ!」
ユウは腕を抜いて手首に手を回し、てこの原理で相手を持ち上げる。
ひょいっと酒井の巨体が浮き上がり、そのままバックドロップの要領で脳天から地面に叩きつけられた。
「確かに大罪に迫る肉体強化だけど、前線タイプの俺には通用しねえよ」
「ぎっ……ううっ……」
「無理すんな。かなりのダメージ与えたから、もう大罪とやり合うだけの力はない筈だ。その証拠に、見てわかるほど縮んでんじゃねえか」
「ぐっ……」
酒神の福音
酒井は飲んだ酒を媒介に、身体強化を施す能力を持つ契約者であり、飲んだ酒の量に比例して強くなるため、飲んだ量次第では大罪にも匹敵する。
ただし肉体を行使するごとに酒も消費されて行き、身体強化も消費されるごとに弱まってしまう。
更には肉体に溜められる酒の量も限界地があり、酒井は限界地まで飲まなければ大罪に匹敵するパワーは出せない。
特に治癒機能の強化はかなりの量の酒を消費するため、あまり体を痛めればすぐに燃料切れとなってしまう。
――一方。
「……あの、桐生さん」
「ナツメでいいよ。なんならなっちゃんって呼んでみる?」
「じゃあなっちゃん。この光景どう思う?」
下を見ればユウが、人間の2倍以上はある巨人を投げ飛ばす光景。。
近くでは光一が音速より早い指弾を、機械で無理やり狼男にした様なフォルムの空飛ぶサイボーグに向け、撃ち出し続けている。
「……流石は契約者の頂点大罪と、それに最も近い上級系譜の戦闘だね。としか」
「……そうね。怪獣映画の方がまだ現実味があるわ」
「……久遠の兄さん、ウチにもこの領域に立ち入れる素質はあるって言ってたけど」
「……それわかるわ。あたしもこの人たちより、なんてとても信じられない」
危機にさらされつつ、2人はどこか他人ごとだった。
と言うか、状況がすごすぎてついて行けていない。
「ちぃっ! あのヤロウ、カンタンにやられてんじゃねえぞ! くそっ、こうなったら!」
このまま黙ってやられっぱなしでは、ドンに合わせる顔がないともあり、犬神はキッと光一から視線をそらした。
その先には……
「そのニククわせろやネエちゃんタチよおっ!」
飛行モジュールの出力を最大にし、距離を詰めた犬神は2人に噛みつこうと口を開き……。
「おいおい、がっつくなよ」
炭素硬化を施した腕を、光一はその口にねじ込んだ。
「オンナのニクってのもヤワらかそうでイイとオモってな。それにオレサマもモトモトニンゲンのケンゼンなダンセイだ。クうならやっぱオンナがイイ!」
「こんな変態を通り越した悪趣味始めてだ」
「やかましい! いっそテメーのゼンサイにしてやる!!」
両腕の肘から指先までに5つの筋が走り、そこから刃が伸びる。
それを詰めの様に構え、犬神は宇佐美とナツメに向けて突き出す。
「させるか!」
「なーんてな!」
「っ!」
間に入った光一の両手をいなし、肩に爪を突き立て反対側の腰まで抉る様に引き裂く。
「ぐあっ!」
「ヒっかかったな! くたばれやあっ!!」
「光一!? ……やああああああっ!」
追い打ちで爪を光一の腹につきたてようとして……
ザンッ!
その間に宇佐美が割り込み、風をまとわせた蹴りを犬神の胴にたたき込んだ。
「ぐあおっ!!」
蹴りを叩きこまれた個所の服と特殊人口皮膚が抉れ、その傷から見える装置がバチバチと火花を発し始めた。
「がっ……ぎっ、ぎぎっ……ぐぞっ、ダメージゲンガイ、ガ……ジガダねえ。ごのナワバリグれでやる。だがリジヅげでどりがえじでやるがらな!」
体中から煙を上げ、地上へ急降下し境を拾い空へと飛びあがり……
一路ナワバリの外へと去って行った。
「大丈夫、光一!?」
「っつう……すまないな宇佐美、助けられちまった」
「それより早く、止血しないと」
「落ちつけって。元素操作で血を操作して止めるから」
「便利な能力だね。久遠の兄さん」
「ナツメ。そんな事言ってないですぐナワバリに連絡しろ。食料と医療班の運搬と復旧作業の手配だ」
「え~っ!? なんでウチが!」
「お前には事務の方でもしっかりと働いて貰うから、覚悟しとくように」
「やだ!」
「……………………」
「……わかりました」
「……光一、目がすわってたわね。あたしも少し悪寒がしたわ」




