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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第31話

「ん?」


しばらく進んでいたユウの乗るドラゴンが、停止した。

ふとユウが前を見ると……


「へへっ……」

「くくっ……」


数十人とその内の数人が従える合成獣キメラが進路を遮っていた。

契約者……それも量産型ではなく、大罪のブレイカーを基に造った系譜のブレイカーと契約した、契約者の中でも選りすぐりの精鋭たち。


「出迎えか? ならご苦労さん、早いとこガム野郎か責任者の所に案内してくれ」


ユウは三階建てのビル位はある高さのドラゴンの背から飛び降り、スタッと着地。

何事もなかったように、にこやかに歩み寄る。


「ああっ、案内してやるよ(くっちゃくっちゃ)」

「ただし、ドンの所じゃなくて、地獄にな」


前に出た1人がガムを噛み始め、それに続くようにもう1人が腕を捲り油を手にかけ始め……。


「“ハーヴェスト・ガム”」

「“拘束の琥珀”」


ガムがユウに向かって吐き捨てられ、それが肥大化しユウの胴を包み込む。

更にもう一人が油まみれの手を地面につくと、そこを起点に足首までの推移でユウの足元まで油が広がり、その瞬間油が凝固し琥珀の様な光沢を放ち始めた。


「……」


脚、腕を拘束された状態にもかかわらず、ユウはにこやかな顔を崩さない。

寧ろ何もなかったかのような振る舞いで……。


「悪いが、遊びに来た訳じゃあないんだ。早く責任者の所に案内してくれ」

「おいおい、お前自分の状況わかってんのか?」

「そうだぜ。幾ら大罪だからって、舐め過ぎじゃねえのか?」


周囲がそれぞれ、ユウに対して自分の能力を使用し、威嚇する姿勢を見せ始める。


両の腕がゴキゴキとなり、蛇のような動きを取り始める者。

口を開き、人のそれとは思えない程長い舌で、地面をえぐり取る者。

ひげが急激に伸び始め、それがうねうねと蠢き近くの街路樹をへし折る者。

周囲のキメラに指示を出し、威嚇の咆哮を上げさせる者。


それらがいつでもユウに飛びかかれるよう、構えていた。


「確かに犬神さんや酒井さんみたいな上級系譜はいねえが、俺達だって系譜に選ばれた精鋭。そんじょそこらのクズどもと一緒にしてんじゃねえぞ」

「だから、さっさと責任者のとこ案内しろ」


それでも、ユウは表情も態度も崩さない。

更に今までの態度も発言も、威嚇すらも気どころか視野にも入れていないと断言する態度に……。


「やっちまえ!!」

「「「おおおおっ!」」」


暴食側の系譜達がキレ、遠距離攻撃系の契約者達が一斉砲撃。

幾つもの閃光が殺到し……


「……“怒りの翼”」


ユウの背から伸びた炎の翼が、そのすべてを薙ぎ払った。


「うっ……だったら」

「……邪魔くさいなこれ」


バキバキッ! ベリベリッ!


「っ!?」

「なんだと!?」


上着を脱ぐ感じで“ハーヴェスト・ガム”をはぎ取り、普通に歩く感じで“拘束の琥珀”を砕き……


「どっか残ってないだろうな?」


何事もなかったかのように、自分の着ているシャツやらズボンやら靴やらを確認し始めた。


「じょっ、冗談だろ!? 脱出不可能な“ハーヴェスト・ガム”と“拘束の琥珀”が、こうも簡単に!?」

「……失せろ。下級系譜が数十人集まった程度で、大罪は止められん」


ヒュンと“焔群”を抜き、その切っ先をリーダー格の契約者に突きつける。

そのリーダー格は、ギリっと歯を食いしばり……


「俺達だって大罪が率いる組織の一員、そう簡単にやられてたまるか!! 総員、ドンの名に恥じない戦いを!!」

「「「おおおぉぉっ!!」」」

「……その意気と誇り、応えてやりたいがな」


“焔群”を鞘に戻したユウの右手が、赤黒く煮えくり返るマグマに包まれ肥大化し、巨大な腕を模っていく。


「“巨人タイ剛腕タン”」


一歩踏み込み、マグマの巨腕が振り抜かれた。

薙ぎ払われ、身体が焼けただれた者もそうでない者も、巨腕が振り抜かれた衝撃でふっ飛ばされ、桜が舞い散るかのように散り散りとなり……


「……時間かけてられないんだ」


ドサドサと落ちてきたのを見届けもせず、ある方向へと目を向ける。


「どくどくっ……うぃ~っ」


木陰で酒瓶を煽る、中肉中背のモヒカンの男へと。


「さて、準備はいいのか?」

「ひっくっ……へっへっへ。まあ、たっぷりと“命の水”を充填させていただいた」


よろよろと浮ついた雰囲気を醸し出し、モヒカンの男……“泥酔”の契約者、酒井博は立ちあがる。

上にベストを羽織っただけで、むき出しの素肌をさすり……。


「“酒神バッカス福音オブゴスペル”」


いきなり浮ついた雰囲気も酒気も消え、メキメキと筋肉が膨張し……。

4メートルを超す巨人へと変貌した。


「おーっ……流石に壮観だな」

「嘘つけえ!」


拳を握りしめ、力任せにユウめがけて振り下ろすが、ユウはなんなく回避……

するも、ユウが立っていた地点の地面は陥没し、尚且つひき上げた拳に傷がついていない。


「すげえな。肉体強化系としては、間違いなく大罪に近いレベル……」

「すぅ~っ……」

「ん?」

「“酒神バッカス息吹ブレス”」


いきなり地面が抉れ、ユウを突風が襲う。

街路樹はなぎ倒され、射程内の建造物は抉れ、倒れていた下級系譜達が1人残らず吹き飛ばされる。


「……ビックリした。酒を介して巨大化と筋力増強、心肺機能の強化か。まだなにかありそうだな」

「ビックリしたって奴の態度かそれが?」


その中、地面に多少足がめり込んだ状態で、ユウは周囲を見てそう呟く。

とてもびっくりした態度とは思えない程、あっけらかんと。


「まあいいや。系譜と殴り合いってのも悪くない」


“焔群”をベルトにさし込み、ユウはボキボキと拳を鳴らし……


「来いよ」

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