第31話
「ん?」
しばらく進んでいたユウの乗るドラゴンが、停止した。
ふとユウが前を見ると……
「へへっ……」
「くくっ……」
数十人とその内の数人が従える合成獣が進路を遮っていた。
契約者……それも量産型ではなく、大罪のブレイカーを基に造った系譜のブレイカーと契約した、契約者の中でも選りすぐりの精鋭たち。
「出迎えか? ならご苦労さん、早いとこガム野郎か責任者の所に案内してくれ」
ユウは三階建てのビル位はある高さのドラゴンの背から飛び降り、スタッと着地。
何事もなかったように、にこやかに歩み寄る。
「ああっ、案内してやるよ(くっちゃくっちゃ)」
「ただし、ドンの所じゃなくて、地獄にな」
前に出た1人がガムを噛み始め、それに続くようにもう1人が腕を捲り油を手にかけ始め……。
「“ハーヴェスト・ガム”」
「“拘束の琥珀”」
ガムがユウに向かって吐き捨てられ、それが肥大化しユウの胴を包み込む。
更にもう一人が油まみれの手を地面につくと、そこを起点に足首までの推移でユウの足元まで油が広がり、その瞬間油が凝固し琥珀の様な光沢を放ち始めた。
「……」
脚、腕を拘束された状態にもかかわらず、ユウはにこやかな顔を崩さない。
寧ろ何もなかったかのような振る舞いで……。
「悪いが、遊びに来た訳じゃあないんだ。早く責任者の所に案内してくれ」
「おいおい、お前自分の状況わかってんのか?」
「そうだぜ。幾ら大罪だからって、舐め過ぎじゃねえのか?」
周囲がそれぞれ、ユウに対して自分の能力を使用し、威嚇する姿勢を見せ始める。
両の腕がゴキゴキとなり、蛇のような動きを取り始める者。
口を開き、人のそれとは思えない程長い舌で、地面をえぐり取る者。
ひげが急激に伸び始め、それがうねうねと蠢き近くの街路樹をへし折る者。
周囲のキメラに指示を出し、威嚇の咆哮を上げさせる者。
それらがいつでもユウに飛びかかれるよう、構えていた。
「確かに犬神さんや酒井さんみたいな上級系譜はいねえが、俺達だって系譜に選ばれた精鋭。そんじょそこらのクズどもと一緒にしてんじゃねえぞ」
「だから、さっさと責任者のとこ案内しろ」
それでも、ユウは表情も態度も崩さない。
更に今までの態度も発言も、威嚇すらも気どころか視野にも入れていないと断言する態度に……。
「やっちまえ!!」
「「「おおおおっ!」」」
暴食側の系譜達がキレ、遠距離攻撃系の契約者達が一斉砲撃。
幾つもの閃光が殺到し……
「……“怒りの翼”」
ユウの背から伸びた炎の翼が、そのすべてを薙ぎ払った。
「うっ……だったら」
「……邪魔くさいなこれ」
バキバキッ! ベリベリッ!
「っ!?」
「なんだと!?」
上着を脱ぐ感じで“ハーヴェスト・ガム”をはぎ取り、普通に歩く感じで“拘束の琥珀”を砕き……
「どっか残ってないだろうな?」
何事もなかったかのように、自分の着ているシャツやらズボンやら靴やらを確認し始めた。
「じょっ、冗談だろ!? 脱出不可能な“ハーヴェスト・ガム”と“拘束の琥珀”が、こうも簡単に!?」
「……失せろ。下級系譜が数十人集まった程度で、大罪は止められん」
ヒュンと“焔群”を抜き、その切っ先をリーダー格の契約者に突きつける。
そのリーダー格は、ギリっと歯を食いしばり……
「俺達だって大罪が率いる組織の一員、そう簡単にやられてたまるか!! 総員、ドンの名に恥じない戦いを!!」
「「「おおおぉぉっ!!」」」
「……その意気と誇り、応えてやりたいがな」
“焔群”を鞘に戻したユウの右手が、赤黒く煮えくり返るマグマに包まれ肥大化し、巨大な腕を模っていく。
「“巨人の剛腕”」
一歩踏み込み、マグマの巨腕が振り抜かれた。
薙ぎ払われ、身体が焼けただれた者もそうでない者も、巨腕が振り抜かれた衝撃でふっ飛ばされ、桜が舞い散るかのように散り散りとなり……
「……時間かけてられないんだ」
ドサドサと落ちてきたのを見届けもせず、ある方向へと目を向ける。
「どくどくっ……うぃ~っ」
木陰で酒瓶を煽る、中肉中背のモヒカンの男へと。
「さて、準備はいいのか?」
「ひっくっ……へっへっへ。まあ、たっぷりと“命の水”を充填させていただいた」
よろよろと浮ついた雰囲気を醸し出し、モヒカンの男……“泥酔”の契約者、酒井博は立ちあがる。
上にベストを羽織っただけで、むき出しの素肌をさすり……。
「“酒神の福音”」
いきなり浮ついた雰囲気も酒気も消え、メキメキと筋肉が膨張し……。
4メートルを超す巨人へと変貌した。
「おーっ……流石に壮観だな」
「嘘つけえ!」
拳を握りしめ、力任せにユウめがけて振り下ろすが、ユウはなんなく回避……
するも、ユウが立っていた地点の地面は陥没し、尚且つひき上げた拳に傷がついていない。
「すげえな。肉体強化系としては、間違いなく大罪に近いレベル……」
「すぅ~っ……」
「ん?」
「“酒神の息吹”」
いきなり地面が抉れ、ユウを突風が襲う。
街路樹はなぎ倒され、射程内の建造物は抉れ、倒れていた下級系譜達が1人残らず吹き飛ばされる。
「……ビックリした。酒を介して巨大化と筋力増強、心肺機能の強化か。まだなにかありそうだな」
「ビックリしたって奴の態度かそれが?」
その中、地面に多少足がめり込んだ状態で、ユウは周囲を見てそう呟く。
とてもびっくりした態度とは思えない程、あっけらかんと。
「まあいいや。系譜と殴り合いってのも悪くない」
“焔群”をベルトにさし込み、ユウはボキボキと拳を鳴らし……
「来いよ」